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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
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⑥「ようこそ入嶋くん。長旅ごくろうであった」

 本当に存在するのか半信半疑であったその忘れられた島は確かに存在した。それを確認する根拠はどこにも無いが、目前に迫るその島が持つ負のオーラが私にそれが真であることを予感させた。

 島に近づくにつれてその全貌が少しずつ明らかになる。大きなドーム状の形をしたその島の外壁はコンクリートブロックで高く固められており、海上から船を寄せて上陸することは恐らく不可能だろう。そしてそのコンクリートブロックの先には枯れた木々が顔を覗かせており、それが私の感じる負のオーラを放出しているようだ。

 生命の存在を匂わせるような鮮やかな色彩が外観には無い。まるでそれは忘れ去られた墓標のようだ。キラキラと光る水面とモノクロに佇むその島とのコントラストが不気味である。なるほどこれはロストワールドだ。

「ミスター入嶋、上陸の準備を致します」

 無国籍な彼がそう言うと暗幕が今度はゆっくりと窓を覆い始め、船内がまた暗闇へと変わる。

「なぜ上陸するのに暗幕を?」

 入嶋は単純な好奇心でそう尋ねた。

「はい。海中より島内へと侵入いたします、ミスター入嶋」と彼は予想通りの質問が来たというような態度で答える。

 そして宣言通り船はごうごうと大きな音を上げていく。おそらく海中へと沈んでいくのだろう。光を遮られた船内ではそのように想像するしかない。

 沈黙を保ったまま船が海中を切り進んでいく。海という無音の世界。この付近にはどのような魚が生息しているのか気になったが、安谷さんがこの海域は汚染していると言っていたのを思い出してがっかりする。

「これより上陸です、ミスター入嶋」

 海中でどのように進んだのかわからないまま入嶋は上陸を告げられる。また暗幕がゆっくりと上昇し外の光が船内を照らしてくれる。目を細めつつ外を見ると先ほど目にした一面の大海原とは真逆のコンクリートで囲まれた窮屈な世界が目に入った。

「ミスター入嶋、こちらへ」

 急に背後から声がして動揺する。声の方を振り向くと椅子の裏側がこの部屋の出入口になっていることが分かった。やれやれという気概で立ち上がろうとするが長い時間同じような体制と取り続けたせいかひどく足がしびれる。

「足が、す、すまない」と入嶋は足のしびれに耐えながら答える。

 なんとか動けるようになり、椅子の裏側の出入口を抜けると軍人のような肉体を持った屈強な男が二人で入嶋を待ち構えていた。逞しさを感じさせる彼らの顔は船内でずっと二人きりだった彼と同じように無国籍というべきか、どこで生まれたのかわからない顔つきをしている。きっとこの島の国民は皆このような顔つきをしているのだろうと予想する。

「さあ、こちらへ。局長がお待ちです、ミスター入嶋」と二人組のどちらかが答える。

 見た目だけでなく、声もどこか似ているような気がしたが余計な詮索はしないと決めたので正直に従うことにした。

 ロストワールドに辿り着いたという事実は少しばかり入嶋を興奮させたが、あまりにも殺風景なこの内観にその興奮は一瞬にして熱を失った。

「島外から島内への連絡口は先程の一か所しかありませんが、島内はもっと生活感に溢れていますので心配なさらずに、ミスター入嶋」

 突然、二人組のどちらかが入嶋にそう答える。

 また脳内を読まれてしまった訳だが入嶋は特に大きく驚くことはなく、むしろ会話をしているような気分であった。これは一種のテレパシーではと酷い妄想をする。

「島内に入る際に局長との謁見がございますので、粗相のないようにお願い致します、ミスター入嶋」

 そう言うと二人組の内の片方がカードのようなものを取り出して、頑丈に締め切られた鉄の扉の横にあるパネルにしっかりとタッチさせる。すると鈍い音を上げながら扉が少しずつ開いていき、中から人影のようなものがこちらを向いていることが伺えた。

「これは?」

 扉の向こうでは銃を武装した四人組が待ち構えていた。そして驚いたことにこの四人組も私を挟んでいる二人組と同じような顔つきをしている。ここまで来ると不気味を通り越して非現実な夢を見ているような心地だ。

「ようこそ入嶋くん。長旅ごくろうであった」

 どこからともなくそのような声が届き、奥の方から小柄な人影が現れる。目の前に居る六人組に緊張が走るような雰囲気を感じ取った。恐らく局長かそのくらい地位の高い者が来るのであろう。

 しかし目に入った小柄な男の姿を見て入嶋は正気を疑った。

「は…。安谷…、さん…?」

 なんとそこに居たのはつい数時間前まで一緒に行動していたはずの安谷の姿であった。しかし入嶋の思う安谷さんとは異なり、その男は目が鋭く白衣を身に纏っている。醸し出している威厳のような雰囲気がいつもの安谷さんではないという確信を入嶋に与えた。では誰なのか。

「ふむ、そういえばそのようなモデルを使っていたような…。まあいい、君には時間をかけて色々説明する必要があるからな」

 目の前の安谷さんにそっくりな男が何者であるのか考えようとしたところ、その男から気になる言葉が遅れて耳に入る。

「モデルって…」

 つまりどういうことだ。

 まさかそんなことがあるのか。

「ああ、紹介が遅れた。私がこの島の副管理責任者でもあり、報知関係局長でもあるゲイルだ」

 入嶋の疑問など意に返さずその白衣の男は勝手に自己紹介を始めた。

(筆者のひとこと)

ロストワールドの外観の描写が欠落していました。これは大きなミスです。文字だけで世界観を表すのは簡単なことではありませんが、下手でも書かないよりはマシです。これはマジです。

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