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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
40/40

㊵これが自分の生きる意味。

 炎天下の中、錆び付いたシャベルを地面にひたすらに滑らせる。乾ききった土はシャベルの刃を受け付けず、表層の僅かな土を剥がすことしか出来ない。この一帯に緑を取り戻すプロジェクトの難易度の高さを全身で体感する。何度も洗濯して薄茶色に染まった軍手で額を拭う。うんざりするような日差しに投げ出したくなるが、深く吸った息を大きく吐いて作業を続けることにした。

 入嶋はアフリカの砂漠地帯でのプロジェクトに参加していた。気候変動で失われた緑を取り戻すためにまずは土壌を整えるのだと責任者は言う。声にすれば簡単だが、実現させるのは本当に難しい。骨の折れる仕事というのはまさにこのことだ。

 しかし充実していた。誰かの役に立っていることは確かであった。日本に居た時に取材してくだらない記事をでっちあげる仕事に戻れそうな気がしない。ひたすら汗を掻いて、身体を動かして、目に見える変化を作る。そして現地の人々の写真を撮る。これが自分の生きる意味。シャベルがすくうのは微かな土だが、それを何度も繰り返せば沢山の土になる。

「タダシさん!」

 現地のコーディネーターが腕を振りながらにこやかな表情でこちらに駆けてくる。なんだろうと思いながら、笑顔で反応する。

「タダシさん!お客さんです」

 そう聞いてコーディネーターの背後を見ると二人の男女がこちらに近づいてくるのが分かった。一方は黒人の女性で、もう一方は白人の男性だ。そして何よりその黒人の女性に見覚えがあった。あのダリアだ。

「タダシさん。精が出るわね」

「久しぶりです、ダリアさん。なかなか進まないんですけどね」

 そう言うと彼女は何かに気付いた素振りを見せて、腕を組み直した。

「私ね。実はサラって言うの。ダリアっていうのは偽りの名前なの」

「そうなんですか。ではサラさん、改めてお久しぶりです」

「あなた」

 サラはにこやかに言った。

「変わったね」



 カメラのメモリとバッテリーを確認する。これは仕事ではないが、仕事と同じくらい熱意を持ってやっている。テントから出ると子どもたちがにぎやかに騒いでいる様子が目に入った。すぐさまカメラを構える。子どもたちの見せる一瞬の輝きを見逃さないように次々にシャッターを切る。

そうしてメモリを子どもたちの写真でいっぱいにしている時、ひとりの男の子が近づいてきた。手には一冊の漫画が握られていて、その表紙をこちらに向けてこう尋ねた。

「ねえねえ。これマンガってやつでしょ。お兄さんなら読めるかもって聞いて持ってきたの」

 日本で寄付された絵本や漫画が海を渡ってここに辿り着くことは珍しいことでは無かった。入嶋は誇らしい気分になってその色あせた漫画を手に取った。

「これはね。妖怪戦士ペッパーっていうマンガさ」

「どんなマンガなの」

「うーん。世界を救った救世主が昔読んだマンガかな」

「ん?どういうこと?」

「読んでなかったら世界は滅んでいたかもしれない。ということ」

「よくわかんないや」

 興味を失ったその男の子はその漫画をそのままにして駆けて行った。入嶋は懐かしい気持ちになると共に頭に浮かんだくだらない偶然を笑い飛ばした。

「まさかな」

 漫画の背表紙に書いてあるかもしれない持ち主の名前を確認してみる。


<FIN>

(筆者のひとこと)

後日譚という位置付けの40話ですが、ここで入嶋忠と叔父である博の回想シーンに出てくる<妖怪戦士ペッパー>を登場させています。この漫画をキーアイテムにする予定は無く、入嶋と博を繋げたある意味特別なモノであることに気付いて最後に触れることにしました。さて、背表紙には誰の名前が書いてあるんでしょうね。


最後になりましたが、これまでのご愛読本当にありがとうございました。良ければ評価や感想等を残していただけると次回作に向けての励みや参考になりますので私としてはとても助かります。

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