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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
39/40

㊴それだけで十分だった

 しまったと気付いた時にはもう遅かった。とてつもなく重量を持ったモノが体に触れたと思うと一瞬の内にそれに押しつぶされる格好になった。一瞬の内に世界が真っ白になって、全身を覆う鈍い痛みと共に視界が戻るのを感じた。

 自分はこのまま死んでしまうのだろうか。遠のきそうな意識の中で入嶋は自問自答した。目に映るのはアンドロイドの残骸の一部と殺風景な天井。耳だけがケインとアレクセイの動向を掴むことが出来そうだった。

「最後に言い残すことはあるか?」

 そうアレクセイが言うと数発の銃声が上がった。

「もう無駄なことだ。諦めろ」

 それでも銃声は止まらない。ケインがアレクセイに向けて放っているのだろう。

「冥途の土産に、ゾンビアに見送られるといい」

 遂に銃声が途絶えた。ケインがやられてしまったに違いない。入嶋の頬に痛みと共に涙が零れて頬を伝う。畜生。こんな終わり方をしていいのか。

「どういうことだ?」

 ほんの静寂の後、アレクセイが困惑する声が耳に入る。完全に希望を失った入嶋には耳に届くその困惑を聞き入れる余裕が無かった。

「おのれトーマス!最初からそのつもりだったのか!」

 また空虚に轟く銃声の中、入嶋はゆっくりと意識を失った。



 目を覚ますとそこには白い世界だった。柔らかいものが全身を包み込んでいることに気付く。きっと自分は死んで、ここは天国なんだろう。実感が湧かなかったが、地獄では無いことに安心した。そうしてまた安らかな気分になって目を閉じる。

 すると何かが肩を揺らしてこの安らかな眠りを妨げるような気がした。それは次第に大きくなっていき、天国のサービスの質の低さにがっかりしたように目をもう一度開いた。

「忠さん」

 天使でも居るのかと思ったが、そこに居たのはケインだった。

「ああ。同じところに来れて良かったな」

 ぼんやりとした視界の中で、ケインの顔を見つめながらそう言った。

「何を言っているんですか?」

「何を?って。ここは天国じゃないのか?」

「質問に質問を返すのは無礼だと思いますが、まあいいでしょう。ここは天国ではありません」

「天国じゃ、ない」

 その言葉の意味を咀嚼する。

「じゃあここはどこだ」

 入嶋は咀嚼しきれなかった。

「寝慣れたベッドの上ですよ」

 そう言ってケインはけらけらと笑っていた。そうか、生きているのか。顔をケインの反対側に向けると外の景色が目に飛び込んだ。清々しい晴天の下、放射能で枯れ切ってしまった木々が島内を囲うように生えていて、近代的な研究所と最低限の難民用の住宅がちぐはぐに映る。この島にまた帰って来られたのか。

 また揺さぶられたが、もうひと眠りすることにした。



 あの時に何が起こったのか。正直な所あまり興味が無かった。とにかくトーマスと交わした約束は守られて、アレクセイの野望は潰えた。それだけで十分だった。

 トーマスと交わした約束のひとつに「最後までケインを守って欲しい」という約束があった。あの時はその真意が分からなかったが、先程の緊急集会でやっとその意味を理解することができた。私はアレクセイに向けて銃を躊躇なく放ったのはその約束を守るためだったのだ。

 ケインはトーマスの実の息子で、この島の新たな責任者になる。叔父さんはそう高らかに宣言した。私はその宣言よりも、叔父さんがこの騒動に乗じて副責任者になることと右足と左腕を骨折しながらも堂々と話すその力強さが印象的だった。

 この島はトーマスの遺した光であるケインの意思の元でこれからも存在し続ける。世界から忘れ去られた島はこれからも忘れ続けられることを条件に、秘密裏に合衆国の支援を受けながら非合法の研究を続けるそうだ。自分の撮った映像は世界中に流れることはなかったが、合衆国がロシアを強請るには十分過ぎる証拠だった。ロシアはこの島に莫大な資金を提供して、この島は国際平和の為の自衛用の兵器を製造する。驚異的な再生力を誇るゾンビアは過酷な環境での救助活動や、対テロ専用の生物兵器として用いられるそうだ。ケインと叔父さんがこの島を引っ張っていくのだからきっと問題は無いだろう。

 そうして叔父さんにこの島に残るかどうか聞かれた時、私は正直にこの島から離れたいと伝えた。ケインは残念そうにしていて強く引き留めてくれたが、ここに自分の居場所が無いことは確かだった。だからと言って自分にそっくりなアンドロイドが稼働している日本に帰る訳もなく、合衆国の斡旋の下で難民を援助する組織に加わることになった。今の自分のやりがいは彼らの為に汗をかいて、彼らの喜ぶ姿を写真に収めること。その写真は間接的に世界へと届けられる。誰ひとりその写真が居ないはずの人間によって取られたことなど気づくはずもないが。ただそれでいいと思う。存在しない人間が撮った写真が誰かの心に響くなんてのも悪くはない。

(筆者のひとこと)

長い長い物語でしたが、遂に残すこと1話となりました。アレクセイが何故負けたのか。それについては考えていますが、敢えて物語中では語っていません。

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