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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
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㊱「その名がここで終えないことを願っているがね」

 いきなり絶体絶命だ。目前に傷跡ひとつ残さずに構えるゾンビア、そしてその後方にこちらを伺うアレクセイと三体のゾンビア。目前の一体を盾代わりに他の三体を起動させたのか。味方にすればその機転の良さとカリスマ性で頼れる存在であったが、いざ敵として対峙すると厄介だ。

 周りを見渡してもこの殺風景な部屋にはこの状況をひっくり返せるような物はない。そうして無言の時間が過ぎれば過ぎるほど、武装アンドロイドたちから恐怖が滲み出しているのが分かる。怖いのはこっちだって一緒だ。しかし逃げる訳にはいかない。

「どうした?何もしてこないのか?」

 アレクセイが挑発する。圧倒的な優位性は向こうにある。それ故の強気な物言いだ。

「何も出来ないのだろう。いくら武装アンドロイドが沢山居ようとも、ゾンビアには敵わない」

 そんなことは無いと言い返したかったが、その通りだった。今の発言の真偽を確かめるように武装アンドロイドたちがこちらを見る。こういう時にどうするのがいいのだろう。考えろ。考えろ。まずは少しでも考える時間を稼がなくては。

「こっちにだって策はある。無策でこんなところに飛び込むはずがない」

「ほお、だったらそれを見せてみろ。攻撃だ」

 最前のゾンビアが構えの姿勢を解いて、堂々とした足取りでこちらに向かい始めた。時間を稼ぐ作戦は失敗だ。策なんて何ひとつない。しかし何もしない訳にはいかない。

「距離を詰められる前に集中攻撃だ」

 武装アンドロイドは躊躇いも無く、銃弾をゾンビアに打ち込む。そしてその形を崩していく。しかしそれでも前へ前へと歩みを止めることはない。やがてその足さえも崩れてまたただの肉塊と化す。

「攻撃止め!」

 合図と共に銃撃が治まる。ここに何か勝機は見当たらないのか。ゾンビアは足を崩せば身動きを止められるのか。いや、自己再生出来るゾンビアに対しては単なる時間稼ぎにしかならない。待てよ、今動いていたのは一体のゾンビア。アレクセイが自由に動かせるのは限りがあるのかもしれない。となれば目の前のザンビアが動けないこの瞬間に賭けるべきか。

 とにかく今はその閃きに頼るしかなかった。

「二十体は待機。他は背後のゾンビアとアレクセイを近接攻撃せよ!」

 指揮官の策に従順なアンドロイドたちは勢いよく飛び出して行き、後方の目標目掛けて銃を放ちながら接近する。その迫力に可能性を感じる。これで全てが治まってくれれば。

 しかしその願いも儚く、予想外の俊敏さで二体のゾンビアは近接してくる武装アンドロイドをなぎ倒し再起不能にしていた。ゾンビアは武装アンドロイドをおもちゃの様に投げ飛ばし、叩き壊す。そして残りの一体は主人を防御するように構えている。一瞬の閃きが間違っていたことを察した。

 そうこうする内に目前のゾンビアは再び元の形を取り戻した。しかしこちらの様子を窺うように構えている。そうか、アレクセイは四体のゾンビアを想うままに動かすことが出来るのか。

 近接戦を完全勝利で収めたゾンビアたちは喜びを表現することなく元の位置へ戻る。相変わらずの再生能力で傷ひとつ見当たらない。こっちは沢山の武装アンドロイドを再起不能にされた。完敗だ。

「これがケイン君の策か。残念だったな。本当に残念だ」

 嘲るようでもなく、面白がるようでもなく、ただ淡々とそう言った。



 ケインが窮地に陥る数分前、地下のメンテナンス室の電力が落とされ暗闇に包まれていた。

「やってくれたようだな。動けそうか」

「ええ。でもとても痛むわ」

「もうダリアではないみたいだね」

 変わってしまった口調に理解を示しながら博は腰の後ろに組んでいた両手を大きく上に突き上げて伸びをした。

「ストレッチをしよう」

 何も見えないのにストレッチだなんて。ダリアであることを止めてしまったサラは微かに微笑んで痺れる両腕両足をゆっくりと伸ばす。博さんはマイペースなようで無駄がない人だ。今度は腰と背中を捻じって息を吐く。ぽきぽきと子気味良い音が体から鳴る。

「さて向かうとしよう。アンドロイドくん、予備の電力を使って照らしてくれないか」

 突然辺りが光り出して思わず目を瞑る。

「そんな機能があったなんて。しかし必要な機能なのかしら」

「今まさに必要としているんじゃないかね」

 弛緩した空気が辺りを包む。二人はアンドロイドの背中に乗り、超特急でゾンビアの保管庫へ向かう。

「状況は?」とサラが博に尋ねる。

「芳しくないと思うね。君があそこで倒れているということはアレクセイのとりあえずの目標は達成されたということだ。だが諦めるのはまだ早い、あそこにはケインと入嶋が居るはずだ」

「ケインと忠が?裏切り者を二人で討つ気なのかしら」

「いやそれは出来っこない。ゾンビアは完璧な生物兵器だ。アンドロイドでも太刀打ちできない代物だ」

「コントロール権を持つアレクセイを倒さないとダメなようね」

「いや、ヤツはゾンビアが居る限り無敵だ。だからこそ我々はケインたちに助力する」

「具体的な策はあるの?」

「もちろんだ」

 アンドロイドの背中に揺られながら博は白衣の裏にあるポケットから小型の注射器を取り出した。

「こいつをゾンビアに打つ。これはゾンビアの再生細胞を死滅させるウイルスを内包したものだ」

「さすが微生物学の権威ね」

「その名がここで終えないことを願っているがね」



 ビデオカメラに映るのはまさしく絶望だった。もはやこの映像が島外に公開されることは無いのかもしれない。それでも入嶋は撮り続けることを決心した。緊張から心臓が激しく動き、手の震えが止まらないが、両手で必死にブレないように映像を撮り続ける。

 元は人間でないにしろ、こんな風に人間を模したアンドロイドがぐちゃぐちゃになる姿を見るのは耐え難い。そして今度はケインがその憂き目に遭うかもしれない。そうなればいつか自分にもその順番が回ってくる。カメラが捉えた下半身を失ったアンドロイドが他人事に思えず吐き気が込み上げる。

 アレクセイは余裕だ。ケインはどうするんだ。誰か、誰でもいいからこの状況を変えてくれないか。そう願った時、入口の方から大きな音がした。

(筆者のひとこと)

戦闘シーンなるものを初めて書きました。正直言って大変でしたが、楽しかったです。頭の中でキャラクターたちが私の思うように動き回る。それを私は文字に起こす。大変でした。

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