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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
35/40

㉟ここでの勝者がこの先の未来を勝ち取る。

「妙だな」

 アレクセイは保管庫の頑丈な扉を前にしてそのように感じた。

「お客が既に居るようだ」

 それが誰だか分からずすっきりとしないような気分になったが、誰が先に入っていようと計画に狂いが生じないことは明らかだった。アレクセイは鼻歌交じりに扉を開錠して、どうしようもなく沸き立つ興奮をどうにか抑え込みながら中へ進んだ。

 等間隔で直立する四体のゾンビアの輪郭がはっきりとした時、思わず笑みがこぼれた。世界中の生物の最も特徴的で脅威である部分を合成させた生物兵器。その堂々たる立ち姿はまさしく芸術的であり、官能的な喜びさえ感じさせるほど完璧だ。

「美しい」

 無意識にそう呟いた。そしてその内の一体に近づいていく。周囲への警戒は怠らなかったが、ダリアと名を偽装したサラ・テイラー以外に銃の扱いに心得がある者がこの研究所内に存在しないので、真っ直ぐゾンビアの足元にある装置へ向かった。

 そして装置のパネルを操作し、指静脈認証を行う。ゾンビアに繋がれた管がゆっくりと音を立てながら外れていき、ゾンビアは背筋を伸ばした状態から胸を軽く反らした状態に変わり、新しい指揮官を値踏みするように上から見つめた。

「私が君たちの新しい主人だ。跪け」

 迷いなくそう命じるとゾンビアはゆっくりと膝を曲げて服従を示すポーズを取った。アレクセイは完全にゾンビアのコントロール権を得られたことに満足する。

 その時、閉まっていたはずの扉が開くような気配がした。誰が侵入したのか訝しげに振り向くとそこにはケインがいた。しかし何故か大勢のアンドロイドを携えている。



 カメラが最後の舞台をしっかりと記録出来ているのか何度も小さなモニターを眺めては確認する。入嶋はとうとう幕が開いてしまったことを感じながら、これから何が起こるのか不安と期待の混在した気分で待っていた。

 やって来たアレクセイがこちらに気付いていないことが入嶋をまず安心させたが、その直後にゾンビアを簡単に操る様子を見てすぐにその安心はどこかへ逃げてしまった。

 自立してアレクセイに従うゾンビアの全体像を隅から隅までカメラに収めていると、入口の扉が再び開くのが画面の外から伺えた。次は誰がやって来たのか。カメラをその方へ向けるとそこにはケインと大量の武装アンドロイドの姿が確認できた。

「アレクセイ、今すぐゾンビアを手放すんだ」

 ケインは威厳のある声でそう言う。武装アンドロイド達も手にしている武器をアレクセイとゾンビアに向けて、拒否権が無いことを暗に示した。

 何故ケインの言う通りにアンドロイド達が行動しているのか見当もつかなかったが、この状況が油断ならないものであることは理解出来た。ここでの勝者がこの先の未来を勝ち取る。そのように直感的に判断した。

「これまた派手なお迎えじゃないか、ケイン君」

「お前は私たちを騙したな!ゾンビアを渡すわけにはいかない!」

「ゾンビアは私のモノだ!」

 アレクセイが激高する。その迫力に驚いてしまいカメラの画面がブレてしまう。

「私が創り上げたものだ!正当な所有権は私にある!認めなかったヤツが悪いんだ!」

「しかし、ゾンビアは。ゾンビアはここに居る研究者たちの努力の結晶じゃないか」

「お前もヤツみたいなことを言うんだな」

 ズームしてアレクセイの横顔を捉える。そこには全てを破壊しても何も感じないような酷薄な表情があった。

「ヤツはこの研究所のモノはこの研究所全員のモノだと抜かした。果たしてそれで全員が納得するとでも?ゾンビアは私のモノだ。認められないなら奪うまでだ」

 そう言い放った瞬間にアレクセイは右腕でケインの方を指さした。するとそれに呼応するようにアレクセイの背後のゾンビアが軽やかな跳躍を見せて、アレクセイの盾となるように姿勢を取った。

 この状況から話し合いではどうにもならないと判断したケインは武装アンドロイドたちに攻撃の命令下した。銃の雨がゾンビアに向けて降りかかる。その激しさに思わず目をつむってしまう。何がどうなっているのか。一分も経たない内に再び静けさを取り戻した時、ゆっくりと目を開いてカメラが映している光景を注視した。

 そこにはぐちゃぐちゃになった肉塊が転がっていた。またあの光景を見なければならないのか。ゲイルに連れられて見たあの光景を。その肉塊はゆっくり膨らみそして縮むのを繰り返しながら元の形に戻っていく。そして時間を巻き戻したかのように完全に元の形に戻る。

「これがゾンビアだ!」

 絶望に満ちた空気に響き渡る声。入嶋はその声のする方にカメラを移す。もう世界を救えないのでは。カメラから目を離して、肉眼で眺める。そこにはアレクセイと腕を組んで立ち尽くす三体のゾンビアの姿があった。

(筆者のひとこと)

遂に物語はゾンビアを手にしたアレクセイと武装アンドロイドを従えるケイン、そしてそれを記録する入嶋の三つ巴に!(三つ巴?)

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