表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
33/40

㉝残すはケインの覚悟だけだ

 ケインがアレクセイに連絡を取ったのをその動作で確認してから、博は掲げたゲイルの頭部を床に降ろした。わかってはいたが、精密機械とだけあって非常に重い。片方の肩が外れそうになるのを感じながらゆっくりと肩を回した。その動作に合わせて武装したアンドロイドたちが武器を構える。

 そうか。これがマズかったのか。博は今思い出したように握りしめていた拳銃を床に落とす。一体のアンドロイドがそれを慎重な動作で拾う。そしてその騒ぎから緊張感が失われる。ケインはどこかちぐはぐなその異様な雰囲気から目を離すことが出来なかった。

「じゃあ私たちは誰について行くべきなんだ」

 痺れを切らしたように一体のアンドロイドがそう言った。そしてそれに付随するように他のアンドロイドたちも同じような意見を言い始めた。

 雇い主の命令を絶対としてプログラムされた彼らにとって雇い主の消滅、ましてや雇い主が人間ではなく同種のアンドロイドだと理解して混乱を起こしているのだろう。博はそのように解釈した。無理もない、自分も同じアンドロイドだったらそのように混乱するに違いない。

「ミスター博、これは非常事態です。我らはゲイルの命令に基づいて行動していましたが、そこにはゲイルが人間であるという条件がありました。今この目の前にあるのは見ての通りゲイルという名の付いたアンドロイドです。これではゲイルが人間であるという条件を満たさずに、ゲイルに危害を加える者を排除するというプログラムを実行することが出来ません。よってこれ以降の行動が不能になりました。代替案の提示を求めます」

 アンドロイドは実にプログラムに忠実に作られている。感情に左右されることなく、事前に与えられた命令通りに行動する。博は頭の中で思い描いていた展開通りに事が進んでいるのを実感した。

「アンドロイド諸君。ゲイルの素体であるトーマスは既に亡くなってしまったが、そのトーマスはゲイル以外に存在を遺していったのだ」

「しかしその存在がアンドロイドではどうしようもありません」

「私は一言もそれがアンドロイドだと言ってはいないだろう。私は先程トーマスの憎悪が生み出したのがゲイルだと言ったな。そしてトーマスは光明を遺したとも言った」

「トーマスが婚姻関係を結んだ。又は成り行きの関係で子孫を残したというデータは残っていません」

「君たちは何かと話に棒を突っ込まないと気が済まないのか?」

「ミスター博、これは緊急事態ですので」

「わかったわかった。そのトーマスの遺した光明というのはトーマスの遺伝子から作られたクローン人間という存在だ」

「クローン人間だって?」

 思わずケインはその会話を聞きながら漏らした。アンドロイド達の発した言葉と重なり、まるで自分の声が響き渡ったかのように感じてドキリとする。しかしここまでのアンドロイド技術が発達していればクローン人間を発達させることだって不可能ではない。ケインは博の何かとんでもない重大な機密を発するのではないかと察した。

「しかしクローン人間というのは人間の倫理に反していると国際的に認知されているのでは?」

 アンドロイドが反論する。それに同意するかのように他のアンドロイドも反応する。

「この島にそのような倫理観が通用するのか」

「生物兵器を完成させてしまったんだぞ」

「そもそも我々の存在自体が倫理観に反しているのでは?」

 指揮官を失い混乱を極め始めた小隊は迷い始める。博はその光景を眺めながらのんびりと呟いた。しかしそのように悠長に過ごしている場合ではない。そして注目を集めるように片手を大きく挙げて、アンドロイドたちが静まるのをじっと待った。

「素晴らしきアンドロイド諸君。確かにクローン人間は倫理観に反しておる、しかし自らの意志を遺すために息子を生み出すことは生物として不思議なことではない。単純にその方法が認められていないだけだ」

 オペレーションルーム内の全てのアンドロイドと人間が博の言葉に注目していた。

「トーマスは自分の遺した憎悪が実現することを夢見ていた。しかしその実現の途中で取り返しのつかないジレンマに陥ったことに気付いた。せめてもの救いとしてその暴走を自分の代わりにいつか止めてくれるようにという思いを遺すためにクローン人間を生み出したんだ」

 話を続けながら博は部屋の出口の方へ向かって歩みを進めていた。

「それがトーマスの遺した光明。トーマスの遺伝子、そして意思を受け継ぐ息子」

 これは悪い夢か。いつになく真剣な表情をした博が近づいてくる。

「ずっと黙っていてすまなかった。ケイン、君はトーマスの息子だ」

「そんな、先生。それって、つまり」

「すまない」

 ずっと誰にも明かされることのなかった、自分を語る上で欠けていた最後のピースがかちりと音を立てて嵌った瞬間ケインは猛烈な吐き気を感じた。どうにか我慢しようと試みたがどうにもならず、博の足元にそれをぶちまけた。確かに感じる、胃酸が残す酸っぱい香り、そして漂うすえた匂い。自分は人間らしいのに人間ではない。突然告げられた事実をどのように受け止めれば良いか分からず、ただ自分の吐しゃ物を眺めては愕然とした。

 博はケインに背を向けて同じく驚愕の表情を浮かべているアンドロイドたちに向かう。そして頭の中で思い浮かべたシナリオを整理する。全てが滞りなく進んでいる。完璧だ。残すはケインの覚悟だけだ。そして宣言する。

「これを持ってこの島の全権はトーマスより息子であるケインに譲渡された!全てのアンドロイドはプログラム上のゲイルの名を全てケインに書き換えて行動するように!正式な発表は後日行うとする!以上だ!」

 博は素晴らしいストーリーの主役を演じているような心地だった。悪を打ち滅ぼす正義のヒーローになったような心地だった。これが私の求めていたものだったのかもしれない。研究がどうかとか発明がどうかなどではなく、ただ価値ある人間として認められたかっただけなのかもしれない。

 満たされたという余韻を感じながら、未だに立ち直れないでいるケインの下に駆け寄った。呆然とする新たな島の指導者に最初の仕事をやってもらわねばならない。

「ケイン、君はこの島の管理者になった。それは全てのアンドロイドのコントロール権を得たということだ。全てのアンドロイドは君に従い、そして盾となる。さあ君のしなければならないことは何だ」

「僕のしなければならないこと…」

「そうだ。それは何だ?」

「ゾンビアを、アレクセイを止めなければ」

「その通りだ。時間が迫っている。急がなければ」

 博は強引にケインを立たせて、オペレーションルームの外へと引っ張っていった。アンドロイドたちは何をすべきかよくわからないような表情をしながらとりあえず二人を追うことにした。

(筆者のひとこと)

35話で完結させようと思っていたのですが、もうだけ超えてしまいそうです。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ