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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
32/40

㉜ええ、そういう任務ですから

「もう隠れている必要は無いだろう。姿を現すといい」

 ダリアは諦めてアレクセイに従うことにした。拳銃を構えながらゆっくりとした足取りで声の方へ向かう。死角から顔を覗かせると同じく拳銃をこちらに構えて彼が立っていることが目視で確認できた。その一瞬で彼が全身に防弾加工を施したような防具を身に纏っており、不意打ちしても致命傷を与えられないことを判断した。

「さすがだ。飛び込んできたりしないんだな。そのまま両手を上げたまま姿を現せ。少し話をしようじゃないか」

 優位性を示すようなその話し方に気分を害したが、そこに隙が生まれる可能性を信じて投降するふりをして姿を現した。

「サラー。いやここではダリアと呼ぶべきか」

 嘲るような表情でアレクセイは軽口を叩く。

「ええ、そうしてもらいたいわね。ところでサラーとは誰のことかしら?」

「まだとぼける気か。まあいいだろう、簡単なことだ。トーマスの部屋に一本の毛髪が落ちているのを見つけた。あの部屋を出入りした私と入嶋とケインの三人のものではない、明らかに女性のものと思われる毛髪だ」

「で、それが私だっていうの?」

「ああ、DNA検査をすると君の本名が出て来た。その名前はこの島のデータベースには存在しない名前だった。興味本位で世界中に点在する私の友人に声をかけるとサラー・テイラーという女性は名前を偽って、作戦のためにダリアと言う難民を演じてこの島にやって来ていることを教えてくれた。親切な友人で大変助かったよ」

 迂闊だった。まさかそこまで周囲に気を配っていたとは。ダリアが何も言い返せずに押し黙っているとアレクセイの持つ腕時計が振動と共に音を鳴らした。

「いいタイミングだ」

 アレクセイは腕時計を耳に近づけてただ「そうか」とだけ返事をし、腕時計を耳から離した。

「最後のゲイルが定まったようだ」

「最後のゲイルとは何かしら」

「あくまでも何も知らない態度を貫くつもりのようだな」

 ダリアは身元が明らかになった原因が組織内にいる内通者の存在だと理解して信じられない気持ちになったが、ここで憤ってもどうしようも無いことは理解していた。そしてアレクセイをどうにか動揺させられないか、隙を生み出せないかと頭で打開策を考え続けていた。

「さて」アレクセイは何一つ気に留めずに話を続けた。「君たちが必要としているであろうデータは私の後ろにある」

 確かに小型のコンピューターがメンテナンス機器と繋がれているのが目視で確認できた。

「君たちは私の生死関係なくこのデータを必要にしているに違いない。そこで私がすべきことは何だろうか」

 ダリアはアレクセイが時間稼ぎを始めたと直感的に察した。恐らくゲイルの正規のプログラムに掛けられた防壁を突破出来ず、ハッキングに手間取っているのだろう。

「そうね。邪魔が入らないように人感センサーを設置することかしら」

 敢えてこの時間稼ぎに乗るふりをして打開策を見つけよう。ダリアは慎重に言葉を選びながらアレクセイとの会話に乗った。

「しかしどうやら電池が切れていたみたいだ。それでも君は大変アナログなものに引っ掛かってくれたじゃないか」

「まさか天才的な科学者がブービートラップなんてものを仕掛けるとは思いませんもの」

「まあ爆発しなかっただけ良かったじゃないか」

 アレクセイは変わらずこちらに銃口を向けている。そして私は両手を顔の高さまで挙げて投降するふりを続けている。もしかすると今この瞬間がチャンスかもしれない。横に飛びのいて小銃で武装の弱い部分を攻撃、その後素早く接近して致命傷を与えることが出来れば。ダリアは一か八かの賭けに出ることに決めた。

「もし爆発でもしたら、武装アンドロイドが駆け付けにくるんでしょ?」

「驚いたな。君は他の研究員よりもこの島のシステムについて知見があるらしい」

「ええ、そういう任務ですから」

 そう告げた瞬間、ダリアは大きく横跳びをしてそのまま体を曲げて一回転。そして腰の辺りに仕込んでおいた小銃をアレクセイに向けて撃とうとした。しかし何故か強い衝撃が全身に走り、目の前が一瞬の内に真っ白になった。

 この動きに反応出来るのか。数々の武闘派組織の幹部クラスを戸惑わせたこの動きに反応されてしまったことに対してダリアは驚愕した。そして感覚的に銃による攻撃を受けてはいないと理解した。何が起こったのか。少しずつ視野がはっきりとしていく中でダリアは困惑する。

「実は」アレクセイは満足そうに言う。「そういった動きが得意だってことも教えてもらっていたのさ。しかし本当に視界から消えたから驚いた」

 アレクセイが何を言おうとこちらが致命傷を受けない限り、私は私の作戦を続行するまでだ。ダリアは彼の言葉に耳を傾けず、意識がはっきりとし、手足の感覚が戻ったと判断した瞬間もう一度小銃で狙いを定めようとした。

 しかし、手足が全く動かない。それどころか全身までも。

「体が動かないって苦しいだろう?」

「アレクセイ!何をした!」

「口だけは良く動くもんだな。まあ質問には答えるとしよう。この部屋の両側にとんでもなく強い磁気を発生させておいた。君はそれに近づきすぎることによってそれらに吸い込まれたんだ。」

「そんな。そんなことが」

「私は計画達成の為ならどんな手段も厭わない。敵がどんな存在で、どんな能力を持っていて、どんな弱点を有するか。全ての不安要素を取り払った上で実行に移す。私は君が来るのを待っていたんだ。優秀な人間が無力で無様な姿を晒して敗れる姿を見ておきたかったんだ」

 これがアレクセイの本性か。完璧主義と歪んだ嗜虐性。この男が祖国に追い出されたことが良くわかる。

「そこで世界が生まれ変わる歴史的な瞬間を見ておくがいい」

 そう言ってアレクセイは背を向けた。完全な敗北。そして屈辱的な生。悔しさをぶつけようにも全身が動かない。防弾に優れた金属を施した装備が今になっては憎らしくて仕方ない。どうしようもなく情けなく、溢れてくる涙を拭うことすら出来なかった。

(筆者のひとこと)

今読んでいる本にゲイルという登場人物が出てきてプチ混乱しています。

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