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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
31/40

㉛全てが終わるその瞬間を見届けなければならない

 予想外の展開に唖然としていると、今度は後方から慌ただしく大勢の足音が轟いて来るような気配がした。それらはドアを勢いよく破り、ドカドカと部屋の中央に駆け込むようにしてやってきた。武装したアンドロイド達は物騒な武器をその白衣に対して向けている。作業中であった他のアンドロイド達もその騒ぎに気付き、仕事そっちのけでその騒動に注目し始めた。これらの武装アンドロイドは恐らくゲイルが襲撃を受けたことにより現場に駆け付けに来たのだろう。そして強い光がゲイルであったモノの傍に立ち尽くす白衣に当てられる。

 ケインはまさかと思っていたが、そのまさかであったことに愕然とした。その閃光に照らされていた白衣は記憶と違わないあの博先生その人であった。

「まさか。博先生。どうして?」

 届くはずのないその声はその騒ぎの中でかき消されたが、ケインにとってはその声が届く、届かないは全く関係無かった。

「貴様、何者だ!」

 アンドロイド達から威嚇するような声が響く。

「私は、私は入嶋博だ!」

 その白衣の男はその状況に怯むことなく堂々とした様子で答えた。

「私は、全てを終わらせに来た!お前たちが、信じて疑わなかった、この島の主は、ご覧の通り、ただのアンドロイドだ!」

 息を切らせながらこの部屋の外まで届けと言わんばかりの声量で叫ぶ。そしてゲイルだったものの頭部を無造作に掴んで頭上に掲げた。首からは無数のケーブルが垂れ下がり、バチバチと小さな音を鳴らしている。

「ゲイルは既に死んでいた!今日まで動いていたのは、ゲイルの遺した憎悪だ!」

 アンドロイド達は何を返せばいいのか迷っているのか、白衣の男が話終わるのを待っているのか、理由はわからないが沈黙を続けたまま博の話に聞き入っているようだった。

「ゲイルの遺した憎悪は、今を持って消滅した!しかし、ゲイルが遺したのは憎悪だけではない!光明をも遺した!」

 ケインは博の言っている事が全くわからなかった。ゲイルが遺した光明とは何なのか。そしてその博がこちらを向いているような気がするのも不思議でならなかった。

「さあ、ケイン!君には、まだやるべきことがあるだろう!」

 そのひと言にケインは我に返って、稼働中のゲイルを破壊したことをアレクセイに伝えた。もちろん博が突然現れてゲイルを破壊したことは伏せたままにした。しかし博はいったいこの危機的状況をどう乗り越えるつもりなのだろうか。



 確かにトーマスの心臓は止まった。延命装置のモニターが真っ黒になり、かすかに聞こえていた機械音が聞こえなくなった。ただ腕時計のアラームだけが部屋で鳴り響く。ピピピと鳴り響くその安い音はやがて聞こえなくなり、今度は静寂が部屋を包む。

 もっと他の方法があったんじゃないだろうか。急に入嶋は自分の無力感に打ちひしがれる。何が救世主だ。救えていないじゃないか。湧き上がる感情の落としどころが見つからず、わけもわからず装置を拳骨で殴りつけた。装置には傷ひとつつかず、ただ痛みだけがあとに残った。

 ふと見上げた老体は自分の命の灯が潰えたにも関わらず柔らかな表情をしていた。本当にこれでよかったんだよな?確認する手段はとうに失われていることを理解しているのに、答えなど返ってくるはずがないのに、そうひとりで呟いた。

 とにかく先を急がなければならない。入嶋は心の中でそっとトーマスに対して別れを告げて地下室を飛び出した。向かう場所はゾンビアが待機する場所。全てが終わるその瞬間を見届けなければならない。トーマスと交わした約束、与えられた任務は全うしなければならないのだ。



 暗視ゴーグルで見る限りこの部屋には人感センサーが隙間なく並べられていることが分かる。アレクセイの用心深さは想像以上だ。しかしこちらにはそれ以上の装備がある。ダリアはセンサーに感知されないように特殊な周波数を発生させる装置を身に着けていた。それでもなるべくセンサーの感知範囲から離れたルートでゲイルのメンテナンス場所を目指した。

 既に手には拳銃が握られ、いつでもアレクセイを狙う準備は整っている。彼がメンテナンスの書き換えを実行しようとしていた痕跡さえ見つかれば、彼の生死は問わなくて良い。それは事前に組織から受けた連絡であった。対象の生死を問わない作戦は生死を問う作戦よりも困難を極める。過去の経験からダリアはそう導き出していた。

 人感センサーの領域を乗り越えた先の通路の奥でかすかに光が漏れ出していることが伺えた。暗視ゴーグルを外し、今度は目視でその光の射す方へ向かう。恐らくあそこでアレクセイが準備を進めているのだろう。その道中で右足に何かを踏みつけるような感覚がする。下に目をやるとそこにはケーブルが通路と垂直に張り付けられていることが分かった。そして思わずダリアは銃を構えた。それはそのケーブルがあまりも不自然で、新品同様の光沢を放っていたからだ。

 しまったと感じた時、二つの音が光の漏れる部屋から鳴り響いた。ひとつはピピピという安っぽいもので、もうひとつはブーブーと警戒を示す音だ。どちらにせよこの侵入がバレたに違いない。それでも作戦は失敗した訳ではなかった。相手にはこちらが何者か分からない、そしてこちらは相手が何者か理解している。まだこちらに分があるはずだ。ダリアは引き締まる思いで全身に力をしれてからゆっくりと弛緩させた。

「そこに居るのはわかっている!」

 アレクセイがそう叫ぶのが聞こえた。

「そして誰がそこに居るのかも、だ!」

 全くのブラフだ。ダリアはこれが単なる挑発行為であると理解していた。こうやって疑心暗鬼にさせたところを狙う。心理戦を心得た犯罪者の常套手段だ。しかしこの状況をどう切り抜けるかどうか定まり決まらず、焦りを感じていることは確かであった。またこの状況を後何分維持できるのかどうかも分からないままではあった。

「そこで待っているといいさ」アレクセイは構わずに話し続ける。そして間髪入れずに叫ぶ「サラ・テイラー!」

 サラ・テイラー。それはまさしく自分の名前だった。ダリアは愕然とする。どうしてこの島で一度も明らかにしなかった本名をアレクセイが手にしているのか。この瞬間、自身が圧倒的窮地に立たされていることを悟った。

(筆者のひとこと)

ここに書くことが特に思いつかないので今回の後書きはお休みします。

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