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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
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㉕「おまえのせいだ」

 地下鉄のホームで二列になって並ぶ。まるで軍隊のように統制が取れた黒スーツたちは皆憂鬱そうな顔つきをしていて、それぞれの吐いた息が白い靄になって曇り空に溶けていく。電車の到着を伝える放送が流れ、そしてすぐに大きな音を立てながら鉄の塊がやって来る。開いた扉から吐き出される黒スーツたち、そして空いた空間に並んでいた黒スーツが吸い込まれていく。

「乗りたいのはこの電車じゃない」

 もう手遅れだった。身動きが上手く取れないまま流れに流されていく。電車内はどんよりとした溜息に充満していて思わずこちらまでに憂鬱になる。動き出す景色。もう後には戻ることが出来ない。諦めて次の駅で降りよう。そう思って窓外を眺めるとそこは地上だった。

 目に映る世界は土色に満たされていた。そして時より舞い上がる爆炎。同じ景色を見ていたのか近くに居た黒スーツが「今日もやっとるなあ」と独り言を呟いた。答えてくれるのか分からなかったが「何が起こっているのですか」と尋ねる。すると周りの黒スーツが一斉にこっちを向いた。

「世界第三次大戦だよ」

「ゾンビアってやつが暴れてんだ」

「知らないのか?もうかれこれ3カ月は続いているんだぞ」

 黒スーツの声は止まることなくこちらに向けられる。何故こんなにも攻め立てられているのか理解出来ず怖くて仕方ない。それでも声は止まることなく向けられる。

「これだから非戦闘員は」

「お前だってそうだろ」

「なんで俺にキレるんだ!俺は被害者だ!」

 次第に声は怒りを含み大きくなっていく。わからない。何がどうなっているのか。わからない。何故みんな怒っているのか。わからない。

「みんな」

 突然静まったと思いきやそれぞれの声が揃う。

「おまえのせいだ」



 ガクンと全身が波打つのを感じて目を開けるとまた白い天井だった。何度か息を吸っては吐いて、頭の中を落ち着かせると先ほど見ていたのは悪い夢だったことが分かった。ぐっしょりと背中でかいた汗に嫌悪感を示しながらあれが現実でなかったことを心底から安心した。

時計を確認すると約束の時間の数十分前だった。汗ばんだシャツを着替えて集合場所に向かう仕度をした。あの夢が正夢にならないようにしなければならない。緊張感がまた全身を襲ったが、そうやって緊張していた方が慎重になれると前向きに捉えることにした。

約束の場所はあのダリアと出会い、地下室で叔父さんとトーマスに出会ったあの部屋だ。集合時間より早めに向かったのに関わらず、既にケインとアレクセイは待機していた。研究者というものは時間にルーズだと思っていたのにまるでサラリーマンのようじゃないか。心の中でそっと呟いて歩くスピードを少しだけ早めた。

「やるべきことが案外早く終わったので少し早めに来てしまった。ミスター入嶋、私たちは普段はもう少し時間にはルーズなもんだよ」

 アレクセイは見透かしたようにそう言ってケインの方を見た。ケインもそれに同意するかのように笑みを返して、入嶋の方を向いた。

「二人ならきっと日本でもうまくやっていけますよ」

 入嶋は精一杯の効いた(つもり)のジョークを返した。アレクセイは満足したように目頭を少し上げる。

「さて忠さん、トーマスに会いに行きましょう」

「まさか渡したカードキーを忘れてはいないだろうね」

 急かす二人を横目にカードキーをパネルにタッチする。すると昨晩のように扉の施錠が解除されてゆっくりと音を立てながら扉が開いていく。

「トーマスに会いに行くにはコツが居るんです」

入嶋はそう言って記憶を確かに当のベッドの下部を漁ってスイッチを押して、地下室へ続く隠し階段を二人に見せた。その手際の良さに二人とも訝し気な表情を見せたが「早く行きましょう」と逆に二人を急かして地下へと降りて行った。

「アレクさん、島内にこんな隠し部屋があったなんて不思議ですね」

「ケインはまだ若いから知らないだけだろうが、この島には驚くほどの地下通路と地下室がある」

「地図とか無かったんですかね」

「ミスター入嶋、地図に載せてしまっては隠し部屋の意味がないだろう」

 それもそうかと思いながら何とも軽薄なことを聞いてしまったことを恥じた。そうやって会話のリズムを乱して生まれた沈黙が続いた後、エレベーターはトーマスのいる階層へと到着した。

「念の為だ。二人ともこれを持っているといい」

 目的地までの道中でアレクセイはどこに隠し持っていたのか小型の銃器を取り出してケインと入嶋にひとつずつ分け与えた。

「アレクさん。これは?」

「私たちの計画の邪魔をしようとする人間が居てもおかしくない。その排除の為だ」

 その発言がどうしても自分に向けられているような気がして不安になる。どういう感情なのかわからない表情でその小銃を渡される。懐で隠し持っていたためか思ったよりも小銃は暖かく、そして重い。自分が持つべきものではないと直感したのかすぐさまジーンズのポケットに小銃を突っ込んだ。歩みを進めるたびに小銃が存在感を示して緊張する。

「今日は持っているだけでいい。使い方に関しては後日教えるとしよう」

 前を向いたままアレクセイは独り言のように呟いた。何故彼が使い方を知っているのかについては聞かない方がいいような気がする。ケインをふと見ると小銃を片手に持ったまま歩いているのがわかった。被害妄想と分かっていてもそれが自分に向けられるであろう銃口だと勘ぐってしまう。

「この部屋に忠さんの言うトーマスがいるんですね」

 ケインがそう言って三人は扉の前で立ち止まった。入嶋はトーマスと交わし、叔父とダリアに共有したあの作戦を思い返す。

「さあ、トーマスとやらに会おうじゃないか」

 アレクセイを先頭に三人はトーマスの眠る部屋に入った。

(筆者のひとこと)

予想通り25話を超える分量になってしまいました。あと5話で収まるかどうかというような展開にするつもりですがどうでしょうかね。30話で終わらせたいから30話だけ1万字とかどういうのはしない方向です。まあ何がともあれお楽しみに(なんだそれ)

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