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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
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㉔いつもと変わらない朝。変わってしまった日常。

 目を覚ますと見慣れた白い天井があった。全身がまだ堅いような感じがするのはきっと昨夜うまく寝付けなかったせいかもしれない。窓のカーテンは既に開け放たれて、柔らかな朝日が足元の方を照らしている。いつもと変わらない朝。変わってしまった日常。

 明日で世界の命運が決まるかもしれない。そう思うと憂鬱で仕方なかった。

 日本で普通の報道カメラマンだった自分はこの世に蔓延る不正義不誠実を明らかにすることをやりがいとしていた。しかしそれはその不正義不誠実を明らかにするだけで、その後のことなんて一切考えていなかった。今はこの非現実的な環境でより大変なことを成し遂げようと行動している。いかに自分が守られていたのかを理解して逃げ出したくなったが、逃げるわけにはいかなかった。

 ベッドの隣にある簡易的な洗面台で顔を洗い、タオルで強く拭いた。そしてあのメガネをかけて、救世主らしい仕事とやらをすることにした。ペタペタとスリッパの音を鳴らしながら研究所内を進んで行く、顔馴染みの研究員達に会釈しながら自分はこれから世界を救うんですよと心の中でそっと呟く。何故かケインの部屋に近づくにつれて心臓の鼓動が大きくなっていった。

 動揺を見せないように心がけながら部屋に入っていつものように適当に本棚から本を取り出してまた適当なページを開く、今日も知らない言語の本のようだ。

『おはようございます。忠さん』

『おはよう』といつものように伝える。

『昨日はどうでしたか』

 ここ数日で聞きなれた質問だったが、初めて聞かれたような心地になる。

『何も見つからなかった。と言いたいところだけど、ゲイルに関してひとつ発見したよ』

『それでは今すぐに集まって話し合った方がいいですね。ゲイルの動向的にゾンビアを島外へ送るのはそう遠くないと思います』

 入嶋は本物のゲイルに会ったことをケインにテレパシーを用いて報告した。机の上で開いた西洋美術史の参考書では名画〈民衆を導く自由の女神〉についての考察が載っていた。入嶋はそれを見て自分と女神を重ねられずにはいられなかった。

『アレクさんとすぐさま連絡を行います。他に何か発見はありましたか?』

 入嶋は本物のゲイルであるトーマスがどのような状態であったか、そして装置を使ってトーマスと対談をしたことをかいつまんで伝えた。

『本物のゲイルは真っ白い部屋の中央にある装置の上で仰向けになっていたんだ。近づいてみると横に見慣れない装置があって、それを何となく使ってみると対話することが出来た。彼は自分の事をトーマスだと言っていて、彼は自分の死がゲイルに影響を与えることを教えてくれたんだ』

『入嶋さん、待ってください。それ以上の話は集まってからにしましょう』

 数メートル先にいるケインがいつになく興奮しているように感じられた。



「なるほどやはりあのゲイルはトーマスという人物を模したアンドロイドであって、その人物の代わりにゾンビアの製作を行っていたというわけか」

 肘をテーブルに付けた状態で両手の平を顔の前で組んで落ち着いた声でアレクセイはそう言った。ケインは彼をじっと見つめ、入嶋はただ緊張のせいで止まらない手のひらの汗を膝の辺りで拭いていた。

「死がゲイルに影響を与えるというのは恐らく現行のプログラムが生を前提に組まれているからだろう。つまりトーマスが生の状態から死の状態でのプログラムに書き換えられるためにラグが起こると考えられる。ならば私たちが狙うべきはその瞬間しかない」

 ケインは同意を示すように頷く。入嶋もそれに従う。

「ところでミスター入嶋。君はそのトーマスと装置を使って会話をしたと言っていたね。出来れば私も会話がしたい。この作戦を完璧に行うためには必要なんだ。出来そうかい」

否定を許さないような物言いでアレクセイは入嶋に迫った。ただ入嶋は「出来ると思います」としか返すことが出来なかった。

「では今晩行くのはどうですか?出来るだけ早く接触した方がいいと思います」

「私は問題ない。ミスター入嶋の予定次第だが」

「大丈夫です」

「では今晩またここに集合してから行きましょう」

 ケインが話をまとめて三人でトーマスに会いに行くことになった。善は急げとはよく言ったものだが、あまりにも展開が早いのではと入嶋は焦りを感じていた。

 入嶋は憂鬱な気分で自室に戻ったが、すぐさまベッドで仰向けになったこれからの行動を考えた。トーマスに会えばきっとアレクセイはあの装置を使ってトーマスと会話するだろう。その内容は他者には共有されないからアレクセイがトーマスに何を言って、何を期待するのか全くわからないのが不安で仕方ない。

 約束の時間まで余裕があったので仮眠を取ることにした。用意してあった昼食をとり、またベッドで横になった。

(筆者のひとこと)

次回25話!アレクセイVSトーマス!キミは生き延びることが出来るか?というノリの10分アニメとして放送されてそうな展開です。

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