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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
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㉓ジョークは時に役に立つ

 とある研究室内では、ただ一台のモニターが投げる光だけがその部屋をかすかに照らしている。モニターに映っているのはこの島内の地図、そして目立つように赤い点滅が地図上で主張している。アレクセイはそれを眺めてもう二時間は経っていた。コーヒーカップの底にはすっかり水分を失って、ただ黒いシミが円を描いている。

「キミは想像以上の働きをしてくれた。感謝するよ、ミスター入嶋」

 アレクセイは入嶋に渡したカードキーに様々な機能を搭載していた。その中のひとつにGPS機能がある。その理由は紛失や盗難などのトラブルに対応するという最もらしいものを想像させるが、彼は入嶋を監視するためにその機能を搭載した。もちろんそういった理由をケインに話せば否定されるに違いなかったが、適当な理由をつけてケインを納得させることなど彼には簡単すぎることだった。

 望むモノはどのような手段を講じても手に入れるのがアレクセイの信念であり、そのためこれまでに何度もゾンビアのコントロール権を得ようと計画し、失敗し続けた。「もうすぐ、私のモノになる」と彼は堪え切れない笑みを漏らしている。

 入嶋が自室以外の場所で留まり続ける理由は多くない。ひとつはカードキーを落としたため。しかしカードキーが人肌程度の温度を熱感知し続けていることからこれはありえない。ふたつはその場で入嶋が何らかの攻撃を受けて倒れているため。しかし入嶋のバイタルサインは極めて正常だ。最後は入嶋が‘本物のゲイル’を発見したため。アレクセイは最後の理由に強い確信を抱いている。

 「計画はもう少しで達成だ。キミがどちら側に付こうがゾンビアは私のモノだ」

 窓外では完全な満月になりかけている月が周りの星に負けないくらいの光を放っていた。



 どこからか声が聞こえるような気がして入嶋は目を覚ました。全身の後部に感じる包み込むような柔らかさ、そして目に飛び込んでくる照明の優しい光。入嶋は対話を終えて現実の世界に帰ってきたことを理解した。それと同時に全身に強い重力を感じた。これがトーマスの言う負荷なのだろう。感じたことのない疲労感に似た感覚に顔をしかめながら声のする方へ顔を向けた。

「忠くん、大丈夫か?」

「タダシさん、大丈夫ですか?」

 声の主たちは一様に心配そうな顔をしている。

「急に椅子から転げ落ちたと思ったら、痙攣しながら白目を剥くからびっくりしたよ」

「もう三十分は意識不明でしたよ」

 記憶にないことを言われて混乱したが、何故かそこには安心感から来たのか茶化すような雰囲気があった。

「とにかく帰って来られてよかった。脳波を同期させるこの装置が脳にかける負担の大きさは不明な所が多いんだ。過去にはそのまま意識を取り戻さなかった者も居た。まあ初期段階での実験だったから仕方のない犠牲だったかもしれない。とにかく良かった。そう言えばトーマスは何と言っていたのかい」

 こちらの状態などお構いなく話続ける叔父さんを見つめながらトーマスとの対話を反芻していた。あの役目を自分が果たせるのだろうか。

「そうだね。二人にも協力してもらわなければならないんだ」

 そう言った声は自分の声なのに自分の声じゃないような気がした。これもきっとトーマスと対話したことによる副作用なのだろう。

「トーマスがそう言うなら断れない。何をすればいいんだい?」

「ええ、そのつもりです。手伝えることがあれば何でも」

「ありがとう。まずは叔父さんを静かにしてくれないかな。動けるようになるまで休みたいんだ」

 困り顔の叔父さんと笑いを噛み殺しているダリアの顔はとても滑稽で、この一瞬の気恥ずかしくなるような沈黙で話のペースをこちら側に引き寄せられたような気がした。ジョークは時に役に立つ。辞書に書いておくべき格言だ。



「ゲイルはゾンビアを完成させて世界第三次大戦の引き金とすることまでがプログラムされている。またその計画を妨げる因子はアンドロイドを駆使して完全に排除することもプログラムされている。つまりゲイルのプログラムを破壊しない限り、ゲイルはゾンビアを完成させて島外へ送るよう必ず動く。これがひとつめ」

 翌日の朝、入嶋は叔父とダリアの二人を出会った地下室へと繋がる部屋に呼び集めてこれからの動きを話し合った。

「アレクセイはゲイルのプログラムを破壊してゾンビアのコントロール権を得ることが目的だから、動くとすればゾンビアが完成した直後。仮にアレクセイがゾンビアのコントロール権を獲得した場合、それをどうするのかは不明。近日中にそれを確認するようにしたい。これがふたつめ」

 どうやってそれを確認するのか全く思いつかないが、どうにかするしかない。

「そしてトーマスの望みはゾンビアの完成とそのゾンビアが島外へ出ないこと。トーマスは研究員たちが生きた証となるゾンビアが島の守り神になることを望んでいる。考慮しなければならないのはトーマスの生死はゲイルのプログラムに何一つ影響を与えないこと。これがみっつめ」

 トーマスとの対話は色々なことを考えさせられた。何というかそれが理由でもあるのだけど、トーマスの望みは叶えてあげたい。

「以上の条件から自分たちはゾンビアが完成した直後にアレクセイよりも早く行動を起こさないといけなくなる。二人とも、自分の言っていることが分かるかい?」

 叔父さんは懐かしむような笑みを見せて首を振った。ダリアは険しい顔をして賛同を示した。

(筆者のひとこと)

初投稿から2年経って完全版が完結しそうな勢いです。それはそれで気持ちの良いことじゃありませんか?

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