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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
14/40

⑭ しかし、わからなかった

『そうか、叔父さんが俺をここに呼んだのか』

『そうです。博さんはよく入嶋さんの話をしていましたよ』

 思わぬケインの発言を意外に思う。叔父さんが俺の事について話していたのか?

『兄に似て知識は残念だけども、正義感と行動力は人一倍強い子なんだって教えてくれました。僕もその可能性に賭けて今伝えようとしています』

『そこまで買い被られちゃあ困るなあ』

 実際の所、そのように評価されている事実は嬉しかったし、警察官の父に似て昔から正義感の強い子どもだとよく言われた事実もある。出版社に入社したのも、この現代社会に蔓延る悪だの不誠実だのを暴きたいという動機が強かったからだ。と言っても今ではすっかり窓際の名ばかり社員になってしまったが。

『でもどうやってゲイルの野望とやらを止めるんだ?』

 入嶋は突拍子も無く与えられた役割を果たす前提でケインにそう尋ねた。

 読んでいるふりをしている何かの学術書には回転装置のようなものに張り付けられた被験者が回転するような状況を記した挿絵があった。何の実験なのか見当がつかないが、この行為から得られた結果は何かの役に立つのだろう。

『それについてはもう1人の協力者と計画しています』

 入嶋はその協力者という新たな人物よりも気にかかる点があった。

『それはつまり叔父さんはゲイルの野望を止める方法については何も残さなかったということか?』

『はい、残念ながら』

『叔父さんは止めなければならない野望を知っているのに関わらず、何ひとつ残さずに消えたのか』

 挿絵のあるページを支えていた右手で軽く髪をほぐした。それはケインに対して、叔父の行動の意図が理解できないという当惑を示しているようであった。

『いえ、入嶋さん。あなたがここにいるじゃないですか』

『俺が…?いや、待ってくれ。俺は何も聞いちゃいないし、何も知らない。ましてや叔父さんがこの島に居たこと自体が初耳だったんだよ』

『ええ、知ってます。それでも入嶋さんがこの島を、この世界を救う救世主になるのです』

 ここまで叔父さんを盲目なほどに信用する人間は初めてだった。いや、自分自身も叔父さんのことを尊敬しているし、疑うつもりなど毛頭ない。しかし、わからなかった。叔父さんは何故ゲイルの野望を止めなければならないと知っていて、それを俺に、このケインという青年に任せたのか。

 世界の命運が関わると知っていながら何故敵前逃亡してしまったのか。

 考えれば考えるほど頭がこんがらがってくる。まるでそれは世界各地の数学者が取り組んでいる証明不可能と考えられる数式の証明に取りかかるような挑戦であった。どんな数式にもその根拠があるように、きっと叔父さんの失踪にも何か根拠があるはずだ。だが、それがわからない。

『もう少し詳しく叔父さんの話を聞かして欲しい。ケイン君の主観が入っても構わないから』

 何か少しでも意図が、その意図が見えるようなきっかけを求めて入嶋は願うような気持ちでそのように伝えた。

『わかりました』

 そう届けるとケインはコーヒーを口に含み、ひと息ついた後に俯き始めた。

『博さんは失踪する一ヵ月前程から入嶋さんの話をし始めました。僕自身も博さんが急に身の上の話をするもんですから驚きました。内容は先ほど話したように、入嶋さんには正義感と行動力があるということ。あれはもしかすると入嶋さんに対するポジティブなイメージを作らされていたのかもしれません』

 入嶋は素直に鋭い考察だと感じた。同じような話を定期的にすることによってその話の内容を脳内に刷り込ませる。何というか科学者らしいなと恐ろしく浅い感想を自分で自分にこぼした。

『そして突然一週間前程度の頃に僕に対してゲイルの計画について話してくれました。余りにも真剣な目つきをしていたので、僕はすぐに事実であると感じました。そしてその後に「私が居なくなっても彼の計画は進む。味方を増やさなければならないんだ」と付け加えて話してくれたのを覚えています。きっと一人ではどうしようも出来ないと博さんも感じていたのでしょう』

 私が居なくなっても彼の計画は進む、か。入嶋は叔父が感じた無力感と似たものを以前感じたことを思い出した。大手裏稼業グループの幹部のスクープを拾い上げたが、それは記事にならずに会社の上司から「もう二度と関わるな。次は無いからな」とまるでそれが生命に関わる重大な事柄のように強く言われた事があった。

 叔父さんは一人では限界があると感じて同じ意思を持つ味方を増やそうとしたのか。そして自分がこの島に呼ばれた。そう結論付けると自分の力でこの島を、世界を救える気なんてちっともしないけど、叔父さんの意思やケインと共にあると思うと何か成し遂げられるような気がしてきた。

『入嶋さん、あなたは前向きな人なんですね』

 また脳内を読み取られていたのに今回は不快にならず、むしろ嬉しくなった。

 そうなんだ。俺は冷静なフリをしてポジティブシンキングの冒険好きなヤツなんだ。

『必ずゲイルの野望と止めてやりましょう。この島、この世界の為にも、そして博さんの思いに応える為にも』

『ああ、何だってやってやろうじゃないか』

 充実したような笑みをうっすら浮かべながら入嶋は異なるページの挿絵を眺めていた。そこには頭上に不思議な形をした機械を取り付けられた複数の被験者が共同で作業を行う様子が描かれていた。

 当然のことながらこれが何の実験なのかはわからない。



 それからテレパシーを活用した世間話をした後、入嶋はケインの部屋までやってきたアンドロイドたちに半ば強制的に移動を余儀なくされた。部屋から出て行く際、ケインがアンドロイド達を制止する命令を下し、席を立って入嶋に長方形の箱を渡した。

「これは何だい?」

「これはメガネです。この島ではこれが必要になると思います」

 必要という言葉がやけに含みを持っていたが、入嶋は深追いすることなくそれを感謝と共に受け取った。

 アンドロイドに挟まれる形で移動する道中、その長方形の箱を開いてみるとケインの言う通り縁の太いメガネが入っていた。歩きながらそのメガネのグラスの度を確認すると意外にもそれは度の入っていない、いわゆる伊達メガネであり、ケインなりの冗談かと空想した。

 しかしあれほどに真面目な青年が面白半分で必要になるというはずは考えられず、とりあえず何かしらの必要があると信じてそのメガネをかけて移動することにした。

 息が少し切れるくらい歩いた先に案内されたのは厳重に施錠されていた扉であった。黄と黒が交互に斜めに積み重なるあの工事現場などで見るようなペイントが至る所で施されており、ここは何か余程の危険なモノが保管されているという雰囲気を一層強めていた。

 アンドロイドに先導される形で入室するとそこには白衣を身に纏った研究員たちが様々に発色するモニターを真剣な眼差しで見つめていた。そのドラマのような光景に入嶋は見とれていたが、こちらに近づいてくる男がゲイルと分かるとその世界からを目を離して、ゲイルだけを見つめた。

「ケインからそのメガネを貰ったのか」

 ゲイルはこちらに近づきながらそう言い、ニヤリと笑った。

「確かに入嶋くんにはそれが無いと困るだろうね」

「困るって?どういうことだ?」

「ケインに何も言われなかったのか。ふん、ケインらしいじゃないか」

 笑みをこぼしながらゲイルはそう言う、こぼれた笑みが入嶋を十分に不快にさせたのは言うまでもない。

「このメガネには何か特別な効果があるのか?」

「もちろん。そのメガネは入嶋くんの脳内から発せられた電気信号を阻害して、勝手に考えていることを読み取られないようにしてくれる効果があるのだ」

「そんな効果が」

 入嶋はこの何の変哲もない縁の太い伊達メガネがそのような素晴らしい機能を持っていることを知って唖然とした。そして同時にそのような機能を持っていることを伝えてくれなかったケインを不思議に思った。

「ケインに教えてもらっていないという事はこれからの世話は難航だな」とゲイルは、はははと声を上げて笑う。

 何を根拠にそのように断定したのか問いただしたくなったが許した。このメガネのお陰で当分の間は脳内で好きなように思考を巡らせても良い事が分かり、何でも許せるような気がするためだ。

「話が変わるが、入嶋くん。君には見せたいものがあるのだ」

 そう言ってゲイルは談笑していた時とは大きく異なる真剣な目つきで入嶋の目を見つめた。大型の肉食動物が小型の動物を捕食の対象として捉えたようなその目つきに入嶋はただただ緊張するほかなかった。

(筆者のひとこと)

諸事情により改稿版の投稿が大変遅れてしまいました。改稿版の完結は必ず行うつもりですのでもう少し楽しみして下さると嬉しいです(誰に向けて?)本パートはある意味伏線になる部分が多いかなと思います。それを拾えるかどうかは力量が試されますね。私にはありませんが(笑)

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