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イン・ジ・アイランド  作者: ハルヤマノボル
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⑩「つまり居るはずの人々を隠したということなのか」

 入嶋は状況を素早く把握した。

 ゲイルと会話をしている内に倒れ、叔父さんとの思い出に似た夢を見て、ベッドの上で目を覚ました。目の前に居るのは恐らくナース、この部屋は救護室の類に違いない。そして自分の意識が自分でコントロール出来るこの状況は紛れもなく夢の続きでなく現実だ。

「私の名前はダリア。この病院のナースです」

 あれから何時間経過したのだろうと考えようとした時、目の前に居る黒人女性から声をかけられていたのを急に自覚した。「あっ」と情けない声を漏らしてしまう。

「ええと、入嶋忠です」と少しの間無視してしまったことを恥じるように丁寧に応じる。

 何故本名で答えてしまったのかと自問自答し、また「あっ」と余計な声を漏らす。入嶋はどうにかその気まずさを苦笑いで誤魔化そうとした。

「タダシさん。あなたは一時的に気を失い、ここに運ばれてきました」

 ダリアと名乗る彼女はそんなことなど意に介さず入嶋の置かれている経緯や状況を話し始めた。

 入嶋には純白の服装と個性である黒い肌のコントラストがどこか現実離れした印象を感じさせた。そのせいなのか心なしか彼女の話す言葉の一つ一つがどこか機械的な響きを含んでいるように聞こえた。

「タダシさん。あなたには大切なことを伝えなければなりません。この島、ロストワールドについて」

「それは安谷さんに教えてもらっているんだ。その原子力の事故やら何やらの話でしょ?」

「世界ではそのような認識になっています。私が今から伝えようとしているのはその認識で隠されたこの島の裏の姿です」

「裏の姿?」

 ふとこの島が何故存在しているのかという疑問を気に掛けてなかったような気がした。この目の前の彼女はそれを私に伝えようとしているのか。

 入嶋はそれを聞いてしまうと二度と引き返せなくなるような予感とそれを聞かずには居られないゴシップに携わる身としての性の背反する意思の中、決断しあぐねていた。

「この話を聞くことは強制ではありません。しかし聞いてしまうと少し面倒になるかもしれません」

 入嶋の悩む様子を察したのか、彼女は入嶋に退路を与えるようで後に退けないような物言いをした。

「いや、聞くことにするよ。もう既にロクな目に遭ってないしね」

 そう言って入嶋は笑って見せた。彼なりのジョークのつもりだったがダリアはそれに釣られることなく真剣な目で「わかりました」と告げた。

「この島を語る上で理解しなければならないことがあります。それはこの島に住む人々はこの世に存在していないとされていることです」

「は?」と入嶋は目を丸くする。突拍子の無いことの連続でそろそろそういった驚きに精神が慣れ始めたと思っていたが、まだまだダメなようだ。

「私もそうなのですが、この島に住む人々のほとんどは以前暮らした国や地域では既に亡くなった者として扱われています。この島はそういった過去を持つ人とアンドロイドが共存する世界なのです」

「ええとダリアさん、だっけ」彼女はコクリと丁寧に頷く。「俺も亡くなったことになっているんです?」

「タダシさんのケースは稀です。代わりとなるアンドロイドが稼働する限り、日本では存命という扱いになるでしょう。しかしいずれは事故死もしくは失踪扱いになると思われます」

「それはどういうこと?事故死だって?」

「はい、アンドロイドにも寿命がありますので」

 彼女の言う寿命とはバッテリーの類の事だろう。そして忘れかけていたがいくら外見が人間と変わりがないとしてもアンドロイドは機械だ。人間と機械は同じように年を取ることは出来ない。その差が露見する直前に姿を何らかの方法で消すのだろう。

 入嶋はそのように解釈し、なかなか考えられているんだなと感想をこぼした。

「私は戦火に巻き込まれて亡くなったと自国では扱われています」

「でもダリアさんは生きている。それはどういう事です?」

「タダシさんは鋭いですね」入嶋には彼女が苦い笑みを綻ばせたような気がした。「それがこの島の裏の姿であり、世界の闇の部分になります」

「本来であれば私は戦火に巻き込まれ住む場所や家族を失った難民になるのですが、その難民の受け入れに関して国家間での論争が激しいらしく、私のように宙ぶらりんの状態になってしまった難民たちは様々な都合によってここに運び込まれたのです」

「つまり居るはずの人々を隠したということなのか」

 彼女の慎重な頷きを目にした時、やけに部屋の外が騒がしくなるような気配を感じた。それは彼女の方も感じているようで、二人は開けっ放しの入口の方へ目を、意識を向けた。

「あることないことを勝手に話すナースなんてのもいるんだな。まあ良い、おかげで手間が省けた」

 武装した数名のアンドロイドたちに守られるようにして現れたのはあの白衣をまとった男、ゲイルであった。

「入嶋くん、キミにはまだまだやってもらいたいことが山のようにあるのだ」

(筆者のひとこと)

意識を失って遠い過去の夢を見てまた現実に戻る。よくある展開ですが、これを文章にするとなると非常にムズかしい。そう気づかされたパートです。

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