変わらない朝
「なぁ、お前またそれ読んでるのか」
「ん?別にいいでしょ?この本は小さいころからのお気に入りなの」
「知ってるけどさ、そんな子供向けの童話なんて高校生にもなって読んで面白いもんなのかね」
「バカね、童話はいくつになっても面白いものなのよ」
「あぁーはいはい。でもさっさと準備しないと学校遅れるぞ」
「えっ、もうそんな時間?今から準備するから下で待っててー!」
そんな慌ただしい声が聞こえるここはに幼馴染の遊里が住んでいる家だ。
遊里とは家が近くほぼ真正面で、小中高と同じ学校で毎日一緒に学校へ行っている。
今日も朝か遊里を迎えに来ているわけなんだが…だが…
「お前いったいいつになったら朝スムーズに学校に行けるようになるんだよ」
そう、これはたまたま遊里が寝坊しているのではなく、これが毎日なのだ
朝が特別弱いわけではなく、ただただ夜更かしで朝眠たいらしい
そんな遊里を起こしに来ることが俺の日課で一緒に登校している理由でもある
「ごめんね、この童話とは別に昨日すごく面白い本見つけていつも以上にのめり込んで読んじゃったから今日は本当に眠たかったんだよぉ」
制服に着替えた遊里が言い訳まじりで二回から降りてきた。
「いやいや、それ毎日ギリギリに起きてきてる遊里が言っても説得力皆無だから」
「そうは言うけど、今読んでるのは本当に面白いんだよぉ」
「そんなにも面白い本なのか?どんな本なんだ?」
本好きを自称している遊里があまりにも面白い面白いと連呼しているので正直気になっている。
たいていどんな本でも面白いといって読んではいるものの、ここはこうだったら私は嬉しかったなーなどの自分の感想を言っているのだが、今回のは不満一つなく絶賛なので期待は高まるばかりだった。
「えっ?気になる?知りたいの?どうしよっかなぁ」
イラッ
「どうしても知りたいなら教えてあげないこともないけどぉ」
イライラッ
「そうだなぁ、私は優しいから教えてください遊里様って言ってくれたら教えてあげる!」
わかってもらえただろうか、遊里はこういうやつなのである。
バカなのである。そしてすぐに調子にのるバカなのである。
「わかった。もう二度と起こしに来ないからな」
「ごめんなさいごめんなさい!友樹様お願いします!私を起こしに来てください!さもなくば私は毎日学校に遅刻してしまいます。」
一瞬で立場が逆転した。
こういうやつなのである。
「わかった、わかったから朝から土下座は勘弁してくれ」
「本当?これからも毎日起こしに来てくれるの?」
どうやら遊里に自分で起きるという選択肢はないということが分かった。
「あぁ、ちゃんと起こしに来てやるよ。でないとお前と一緒に卒業できなくなりそうだしな。」
「ありがとぉ!愛してるよ友樹!」
「はいはい、んじゃトースト食べたら学校行くぞ」
「はーい」
遊里の家は両親が海外で仕事をしているためほとんど家に帰ってこない。
まだ中学生だった遊里は日本で暮らしたいといい、遊里の両親と同級生で親友のうちの両親が話し合い日本での面倒を見ることになった。
俺としても遊里と離れ離れになるのは寂しかったので父母にどうにかしてほしいと懇願していたので日本に残ってくれて本当にうれしかった。
のだが…日に日に自堕落に成長していく遊里。
最初は朝も自分で起きていた(はず)だったのが今ではこれである。
家の掃除は嫌々俺と二人でやっているものの、やはりだらけている。
ただ家にある自室とは別の書斎だけはいつも綺麗にしているあたり本好きは本当なんだなと思う。
「ねぇねぇ、トーストにあんこって普通やらないらしいよ?」
「まぁ、そうだろうな。マーガリンやジャムほどメジャーじゃないからな。」
そう言いながら俺は冷蔵庫にあるあんこをトーストに乗せ、口の中へ突っ込んでいく
「友樹のそれ最初にやってるの見たときはツッコミ待ちなのかっと思ったわよ」
思ったどころか普通に頭おかしくなったと思われて心配されて記憶がよみがえる。
あまり一般的ではないかもしれないがある地方限定では割とよくあるメニューだと声を大にして言いたいわけですよ。
よく考えたらパンにあんこなんだからあんぱんだし、トーストが温かいと言われたらあんまんだと言えばいい。
しかしもっと声を大にして言いたいことは
「お前のトーストに塩辛もどうかと思うぞ」
そう、あんこを乗せる俺をさんざん馬鹿にしている遊里はなんとトーストに塩辛を乗せているのである。
というかジャムのように伸ばしてすらいる。
これはもうボケてるんだな?ツッコんでほしいんだな?って思わざる負えなかった。
「えぇ?こんなに美味しいんだから私はみんなもやればいいと思うんだけどな」
ここで遊里さんなんと布教したいとおっしゃり始めました。
これは危険だ。ただでさえやばいやつと学校で噂され始めているのに塩辛トーストやってみてなんて言ったら完全に浮いてしまう。もうすでにやや浮いているんだから勘弁してあげて
「人それぞれ好き嫌いはあるんだから自分にとっていい事でも、相手にとっては感じ方が違うんだよ。だから塩辛トーストを勧めるのはやめておこうな」
「ぶー。わかったよーこれは友樹と私の二人だけ物にしたいってことだね」
「もうそれでいいですよお姫様」
そんな話をしながらトーストを食べ終え、ふたりで玄関へ向かい靴を履き遊里が玄関を開けた。
外はまだ少し寒かった春先が嘘かのように暖かく、木々は新緑の葉を揺らし今日一日を清々しい気持ちで迎えさせてくれる。
そんな気持ちのいい朝、学校へ向かう途中でふと思い出した。
「なぁ、そういえば朝遊里が言ってた面白い本って何だったんだ?」
「言ってなかったね。今読んでるのは…」