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第九話 誘拐

「ファラティーボ様、お客様がおいでのようです。」


「む、誰だ?ティータイムの邪魔だ、帰らせろ。」


「名乗らずともあなたさまになら分かる、と仰られておりましたが…お心当たりが無いようでしたら、きっと変質者でございましょう。追い払っておきます。」



「いや待て。そいつを客間へ通すのだ。早く!」



 フフフ、来たか。

 あの小汚い狐のような盗人が、また獲物を見つけてきたというわけだな。


 ヤツは哀れだ、カネが無いからこの私のような大きな存在を頼るしか大物を仕留める手段が無い。

 

 …だがヤツの持ってくる話に旨くないものは今までただひとつも無かった。今回も上手く利用して懐を肥やさせていただくことにしよう…。


 そしていずれかは!こんな小汚い冒険者で溢れた町などから出て!首都に暮らす上流貴族たちの仲間入りをしてやるのだッ!


 財を築くことこそ何よりの至高!そのためにはどんな犠牲もいとわないのだ!



コンコン


「うむ、入れ。」


ガチャリ


「ご機嫌麗しゅう、ファラティーボ・ペコ伯爵。奥様方はどちらへ?お元気になさっておられますか?」


「ふん、そんなこと貴様には関係なかろう。私は待つことが嫌いなのだ。さっさと何を見つけたのか報告をするがよい。早くせんと追い出すぞ!」


「はっ、それではお話をさせていただきます。今回見つけたものは本当に大物でした。これまでにないほどの価値があるものでございます。それはまるで神話に登場する勇士が身に着けた…」


ガンッ


「やかましい、貴様はいつも回りくどいのだ!さっさと何を見つけたのか報告しろと言っておろうが!」


「も、申し訳ありません…。

 今回お教えしたいものとはですね、ズバリ、頭から足までのすべてが、ミスリルで出来た甲冑でございます。ミスリルとはどんなものか、伯爵ならご覧になられたことがおありになると思いますが。」


「ああ勿論あるぞ。しかし甲冑とはな。そんなに大きなミスリルの塊がこの世に存在しておるというのか? …私を騙そうとしているならばそうはいかんぞ。私には数十人のBランク以上の傭兵がついておる。毎月大金を払っておるのだ。そやつらにかかれば、貴様などひとひねりじゃ!」


「滅相も無い!ペコ様はこの私の目をお疑いになられるとおっしゃるのですか。私は世界中の財宝の数々を見てきました。あの甲冑はミスリルに違いありません。もしあれがミスリルでなかったならば、私は逃げも隠れも致しません。このチュエン・ダンの首をどうぞお斬りください!」


「ふふ、言ったな。それでは貴様を信じてやることにしよう。その甲冑とやらを手に入れる手立てはできておるのか?」


「ええ、実はその甲冑、一人の男が昼も夜も肌身離さず着ているようでして。そやつを上手くあそこへ誘い込んで…おっと。」


「盗み聞きをされぬよう、耳元でお話しさせていただきます。ごにょごにょ…。」





「…ふん、貴様にしてはやけに手の込んだ作戦ではないか。」


「もちろんでございます。きっとあれは10年に一度あるかないかの大チャンスであると思われます。ですから、今お話させていただいた通りに、確実に作戦を成功させるため、準備をしていただきたいのですが。」


「ああ、問題はないぞ。だが、もしも失敗したら、貴様がどうなるかは分かっておるだろうな。」


「もちろんでございますとも。それでは、私はここで失礼させていただきます。」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 よし、ペコの野郎を上手く口車に乗せることができたぜ。


 全く、あのゲス野郎を相手取るのは疲れるな。

 あんな見た目に性格をしておきながら、何様のつもりだか分かったもんじゃない。妻も4人目、愛人は雇った傭兵と同じくらいの人数…。

 子どもも数えきれない。あんなゲロ以下の奴が父親なくらいなら、スラム街にでも生まれた方がまだマシだって、いつか思う日が来るだろうな。


 一つ一つの発言がムカつき過ぎてはらわたが煮えくり返りそうだ。


 …しかし、ペコの財力に絶対的なものがあることもまた事実。隅から隅まで気に入らない野郎だ。


 あとはあの魔物使いたちの生活を一日見張って、傭兵たちと地下マフィアどもの手配を済ませるだけで準備は完了。

 

 日にちを指定して作戦を伝えればいいだけだ。

 俺だってカネは欲しいからな。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 半日パーティを見張った結果、ほぼ必要なすべての情報が明らかになった。

 作戦の決行は今日で良さそうだ。地下街の連中はカネに飢えているから、仕事だと聞けばすぐに飛びついてくるだろう。



 まず、やつらは町に入ってすぐのところにある、魔物使いのための宿屋に寝泊まりしているらしい。今朝、あの魔物使いの一行は、宿を出て町の外へと出かけて行った。


 二つ目に、あの魔物使いの従魔はあの2匹の犬と宝の甲冑以外には居ないということ。

これには特に根拠は無いのだが、大体の態度で予想はついた。



…おっと、誰か来たみたいだ。身を隠さなきゃあな。怪しまれたら一巻の終わりだ。


 誰かと思ったら、例の魔物使いたちじゃないか。

 よく見ればあの犬たちも綺麗な毛並みをしているな。…あいつらも獲物にしてやるか。


 やはり拠点はこの宿だな。よし。

ペコのところと冒険者ギルドの地下で、声をかけ始めるとするか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 目が覚めた。


 なんだか悪い夢でも見ていたようだ…。


 クッちゃんとルンちゃんはぐっすり寝てるけど…。


 ん…?マスターはどこだろう。トイレでも行ってるのかな。でもそれにしては静かすぎるし…。部屋のドアはなんで開いてるんだろ。




「たっ、大変だ!起きろお前ら!さあ早く!お前たちのマスターが…!セペがッ!」


 え、は?いきなりどうしたんだよおやっさん。

 クッちゃんとルンちゃんがマスターと聞いてもうすでに戦闘態勢に入ってるけど。


 って、よく見たらおやっさんも、鎖骨のあたりをガッツリ怪我してんじゃねーか!

 緊急事態か、俺も起きなければ。


―どうかしたんですか!?

―マスターに何かあったの!?



「ああ、今ヤクザみたいなやつらが来よって、急に入ってこようとするもんだから迎え撃とうとしたんだが、寝ているセペを連れ去って、俺もこのザマだ。きっと地下街の連中が何か企んでいるんだろう。おそらくは…その、ジュリオの体を目当てにして。」


 誤解を生むような表現が目立つけど、ここは真面目に受け答えしなきゃな。


 そうか…俺が町で目立ち過ぎたせいで、問題が起きちまったか。

 くっそ、地下街のヤクザども、俺ならまだしもマスターをよくも問題に巻き込みやがったな。


 絶対に許さねえ。


<そいつらは今どこにいるんですか?>


「恐らくじゃが、奴らの目的はお前たちを誘い出して捕まえることじゃろう。地下への入り口は冒険者ギルドの裏口にある。そこの階段を下って、廊下を進めば、マスターに会えるかもしれん。急げ!」

―行くぞ!

―うん!ジュリオも早く!


「ジュリオ、これを持っていけ!」


<パシッ、これは中ポーション…ありがとうおやっさん!>


「ああ!3人とも気を付けて行けよ!俺は怪我があるから一緒には行けないが…。セペを助けてやってくれ。」


―当たり前だ!マスターを傷つけるものは誰であろうと絶対に許さん。

―もちろん!



 俺はローブの内ポケットにポーションをしまった。


 俺たちは宿を飛び出して、全速力で真夜中の町を走り抜け、ギルドの裏口へ回った。

 …俺も気持ちは二匹と同じ地点にあったんだけど、体はそれになかなかついていってはくれなかった。


 二匹に遅れてギルドへ着くと、そこにはもう二匹の姿はなく、裏口の明かりの中へすでに入っているようだった。

 俺も中へ突入すると、そこには細身な男がぽつんと佇んでいて、俺の存在を確認すると、舌なめずりをして近寄ってきた。

 目の下には大きな隈があって、どう見てもヤバそうなやつだ。


 右手に握ったロングソードの切っ先を俺に向けて、そいつは口を開いた。


「ぐへへへへ。本日の主役さんのご登場だネェ。さっき走り込んできた犬どもは俺の自己紹介を無視して中へ進んで行きやがったが、お前さんはそうはさせねぇ。ミスリルか何か知らないが、お前さんの甲冑を回収すればカネがもらえるんだ。俺はBランク冒険者兼Sランク暗殺者!おまえ程度のCランクの魔物など一捻りのうちに切り裂いてやるッ!」


<寝言は寝て言え、カスが!>



 この野郎、俺の種族をナメやがって。

 小物に構っている暇はないが、クッちゃんとルンちゃんがすでに先へ進んでいるようだし、面倒ごとは一つずつ片づけて行こう。

 目にもの見せてやるぜ。俺は両手を変形させてミスリルソードを形作り、ロングソードを面に打ち込んでくる敵を迎え撃つ。



 しかしそれはあまりに滑稽な戦いになった。

 ロングソードの刃は俺のミスリルソードに当たった瞬間、バターのようにスパッと切り裂かれ、俺の頭に飛んできてガキッと当たり床へ落ちた。


 これにはお互い拍子抜けして、しばらく止まったまま見つめ合っていたが、S級暗殺者さんが腰を抜かし、殺さないでくれえと喚き始めたので、俺は足で相手のこめかみを蹴飛ばして気絶させ、先へ進むことにした。


 暗殺者とか言っときながらえらく真向から向かってくる敵だったな。大体Sランク暗殺者ってなんだよ…。自称か?そんなもん無いっつうの。



 それにしても、これが俺の新しい力か…。切れ味のせいで打ち合いにもならないとはな。

 普通の鉄製の装備程度では全く比にならないレベルの金属というわけか。ミスリルは。


 しかし今は暴力に酔っている場合ではない。マスターを助けに行かなければ。


 地下の長い廊下には赤い絨毯が敷かれていて、たくさんの人間が血を流して倒れていた。きっとクッちゃんとルンちゃんがやったのだろう。

 でもその多くは虫の息なだけで、とどめは刺されていないようだ。


 壁にてんてんと木製のドアが複数設置されていたが、開けても中は静まり返っていたので奥へ進んでクッちゃんとルンちゃんを見つけることにした。



 突き当たりの左を向くと、クッちゃんとルンちゃんが二人の男たちの前で、何やら立ち止まって話をしているようだった。

 マスターが危ない状況だっていうのに、何を喋くってるんだあいつらは。


 俺はクッちゃんとルンちゃんを追い越し、男たちの元へ走り寄り、斬りかかろうとした。


 すると、上から何かが降ってきた。


―あっ、ジュリオ!行くなばか!

―ジュリオっ!


「ふはははは!バカめ!ミスリルの甲冑が罠にはまったぞ!さぁ、ルロはそっち側を持て!奥の金庫へ運ぶぞ!」



 な、ななななんだ!?

 これは、金網…しかもなんだか少しピリピリする…電気網か。

 なるほどな、天井に電気網の罠があったから二匹はなかなか中へ足を踏み入れることができずにいたのか。


 でもなぜか、俺はあんまり電撃のダメージを受けないみたいだな。

 甲冑の表面を電気が通り抜けて、本体には到達しないっていうことか。

 そうとなれば話は早いぜ。


 俺は蜘蛛の巣を手で払うように金網を断ち切り、中から脱出した。



「なっ!なんだこいつは!電気網の中で動けるなんて!」

「腕が形を変えた…!?そんなの親方から聞いていないぞ!」


 <貴様ら、マスターをどこにやった?さっさと教えないとクッちゃんとルンちゃんが黙っていないぞ!>

「ガルルルル!!」

「バググググ!!」


「わっ、分かったよ、教えるから!い、命だけは助けてくれ!」

「13号室だ!13号室に親方とお前らのマスターがいる!」


―13号室か。最寄りの部屋が9号室だから、あそこだな。入るぞ!


 クッちゃんが少し向こうのドアを破壊力バツグンなドロップキックでぶっ壊し、ルングとともに突入していった。


 俺は残されて怯える二人の頭を掴んで互いに打ち付け気絶させ、クッちゃんとルンちゃんを追った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今日の夕ごろ、ダンの奴が俺のところへやってきて、地元の貴族のペコからの依頼があったことを伝えてきた。


  なんでも獲物は全身がミスリルでできたゾンビアーマーだかいう魔物と2匹のでかい犬っころだそうで、俺の傘下にいる地下街マフィアたちの力を借りればとっ捕まえて売り払うことができるだろうという話だ。


 そいつらは主である魔物使いにいつもひっついて歩いているから、その魔物使いの少年を捕らえてここへ連れ込み、廊下で罠を仕掛けて追ってきた魔物たちを捕獲する、という寸法らしい。

 確かに俺の配下たちはパワーだけでなく罠仕掛けなども上手いから、うちに頼み込みに来るのも無理はないだろう。


 しかもダンは、作戦は魔物使いたちがどこかへ行ってしまわない間に終わらせたいから、今日の夜中に行うと言い出して、俺は手下の連中を呼び集めて急ぎ準備をさせるようにした。


 ダンの話によると3匹の魔物はかなり手ごわいだろうといっていたが、俺の配下たちがたかだか3匹の魔物たちに負けるはずもない。目標の甲冑に至ってはたったのCランク程度だしな。


 ペコには獲物を、夜中の3時頃に見に来るように伝えておけとダンに言っておいた。


 なぁに、いつもの依頼なんざと比べりゃ大したことのない、簡単な仕事だ。

 俺はここでいつも通り、カネの入ってくるのをただただ待っていれば良いだろう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 夜中2時頃、予定通り魔物使いの少年が、手足を縄で縛られ口を布で塞がれ、さながら敵勢力マフィアの人質みたいな状態で部屋へ運び込まれてきた。


 ドサリと荒っぽく床へ投げうたれると、

 少年は目に涙を浮かべ、怒りと不安の混ざったような表情でこちらへ唸り声をあげていたが、その声はこれから捕らえられて運び込まれてくるであろう犬っころの遠吠えのように聞こえた。



「これはこれはマスター君、君のうめき声はまるで負け犬の遠吠えのようだね。悪いがお前の従魔たちは捕らえて、素材に変え、私の懐の足しにさせていただく。いずれ依頼主のペコが到着したら、解体ショーのスタートさ。世にも珍しい貴金属にふわふわの毛皮。ひとつは俺が買い取って首に巻いてやってもいいかもしれないね。

 それまで暇だろうけど、めったに見られないものだ。せいぜい楽しむがいいよ。」


 少年の髪は銀髪で、顔はまるでエルフの娘のように白く美しかったが、俺の言葉を聞いた途端、その表情は激しい憤りに包まれ、真っ赤に染まりあがった。


 はっはっは、哀れな魔物使いよ。従魔たちが自分を助けに来ることを祈っているのか?

ノーノ―。ここは俺の支配する世界。外界から完全に遮断されたこの空間から、お前が抜け出すことなど不可能なんだよ。



…それにしても、何やら外が騒がしいな。頭の悪い魔物3匹程度、手こずる相手ではなかろうに。

ははっ、しばらくこの魔物使いを弄んで待っているとするか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「オラッ、さっさと跪け!ふふふ…。」

「ッ!…」



ドカッ


 なんだ?ドアが開く音か?なんて荒々しい開け方をしやがるんだバカどもめ。


 

 振り返ると、二匹の犬たちが顔を引きつらせ、鬼の形相で俺と少年を睨み、激しい唸り声を上げていた。


 まずい…捕らえることに失敗しただと!?

 電気網まで用意していたというのに…。

 こんな状況は今までに無かった。もうすぐペコの旦那が来る時間だし…このピンチをどう乗り切るか。



―てめえぇ!!!マスターに何をしたッッ!

―マスターに何をしたんだって聞いているんだよこのボケナス!答えないんなら…今すぐブッ殺してやる!マスター、こいつをズタズタに引き裂いちゃっても良い? ...…分かったよ。



 クッ…何が分かったっていうんだ…念話で話されると分からない。


 ただ、このままではこいつらに殺されるな。

 俺は棚に置かれている刀をさりげなく手に取り、正面に構えた。



 ここまで来ればまともに戦えるだろう。マフィアに転身するまでは実力派の冒険者だったんだ…。

犬っころの2匹なんぞに…なっ!


 刀に嚙みつきやがった!うげっ!もう一匹が腕に…アァッ!

 手…手がもげるッ!ひぃッ、うぎゃああああああああ!


(`・ω・´)ボスのBL展開も考えましたがセペが可哀そうでやめました(`・ω・´)

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