第八話 レベルアップと新戦闘術
昨日は留守でして投稿できませんでした。ブックマークしてくれた方、ありがとうございます!
開帳の辞のくだりは、作者の実話です。
あの魔物使い、気になるな…。
まだ若いようだが、連れている魔物は二匹の犬と…宝の塊だ。
神話にしか出てこないような、でっけえミスリルの甲冑を着た…
…いや、あれはもしかしたら従魔ではなく人間なのかもしれないが。
どちらにせよ、あの甲冑の輝きは他の金属には決してないもの。
メッキだったとしても見せびらかしやがって、ムカつくし、
剥がし取ってやれば相当なカネになるだろう。
新しい獲物が決まったな…。
ペコの野郎にあの魔物のことを教えてやって、情報料をぶんどってやろう。
ふん…あの身分だけはやたら高いゲスで醜い豚のようなオヤジは、欲深さで言えば俺の生まれ育ったスラム街の連中と張り合えるくらいだろうしな。
闇社会の連中を何人も雇って、目ェ血走らせてあの魔物を欲しがるアイツの姿が目に浮かぶぜ…。
成功すれば、俺に大金。失敗すれば、あのゲス野郎が痛い目に。
我ながら最高のシナリオじゃあないか。
どうなるか楽しみだな、クヒヒヒヒ…。
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昨晩はゆっくりと宿屋で休むことができたから、今日は再び貴石洞窟へ行って、俺の経験値を溜めることになった。
昨日冒険者ギルドでは成長の痕跡が見られないって言われちゃったし、
何匹かゾンビをやっつければ割とすぐにレベルアップして攻撃力や俊敏さも上がっていくんじゃないかっていうのがマスターの話だった。
洞窟に着いて、クックとルングが勢いよく中へ飛び出して行く。
「こら、二人とも、今日は3人で自由に敵を倒してきていいけど、メインでレベルアップさせるのはジュリオなんだから、あまり張り切りすぎるなよ!」
―わかってるって!ゾンビの群れを見つけたらジュリオに教えてやるから。ジュリオ、お前もついてこい!
―わかってるよ。ジュリオ、はやく!
うん、皆俺のために色々気を遣ってくれてありがとう。
って、もうすぐそこにゾンビの集団がいる気配がするな。
クックとルングも敵に気づいたらしく、走り出した。
お、おい、どんどん二人の影が遠ざかっていく…。俺って走るの遅いんだなやっぱり…。
やっと追いついたと思うと、そこには10匹くらいのゾンビたちがクックとルングを襲おうと追いかけまわしていたが、やつらは捕まえるどころか、兄弟に触れることさえままならないでいた。
―やっと来たかジュリオ、じゃあ、こいつら10匹をまず、ぱぱっとぶっ殺しちゃってくれ。
了解。でも、ぶっ殺すって言っても、どうすりゃいいんだろうか。
とりあえず頭を狙って殴りまくればいいのかな?やってみよ。
ボカッ
うーん、俺の拳がゾンビの頭蓋骨を少しばかり砕いた感じはしたけど、一発じゃまだダメみたいだ。
ゾンビが今度は反撃に回ってきたけど、甲冑で守られている俺は適当にあしらって、
もう2撃頭にパンチを食らわせると、ゾンビの頭蓋骨がぱかっと割れて、床にどさっと倒れた。
甲冑がゾンビのねっとりした体液で濡れてしまったけど、そんなのこれからは気にしてられないな。嗅覚が無いのが不幸中の幸いだろう。
…ちなみに、これで経験値とかいうものはちゃんと入ってくれてるのかな?
特にいつもとなんら変わらないから、心配になるわ。
とりあえずここにいる奴ら全員を倒せば、何らかの変化があるかもしれない。
俺は一人ひとり、さっきと同じ要領でゾンビたちを片付けて行った。
―よくやったなジュリオ、今まで成長がないってことは初めての戦いなんだろうけど、意外と上出来だ。次の敵を探すぞ!
おう、クッちゃんに褒めてもらえた。
そのあと、俺たちは3つほど集団を探し出して、片っ端から駆逐したあとに、洞窟の外で待っていたマスターと落ち合って、町へ戻った。
役人とのかったるい確認も終わって(また新しいアーマードゾンビをスカウトしたのか、今度はキレイだなと言われた。)少し複雑な気分になっていたところで、
マスターが冒険者ギルドへ向かおうと言い出した。
俺の今日一日での成長を見て、これからの予定を決めることにしたいそうだ。
さて、所変わって(100m程度)冒険者ギルドの2階。
クッちゃんとルンちゃんには受付の前で待っていてもらって、マスター、受付さんと俺で魔法陣の部屋に入ることになった。
「はい。鑑定が終わりました。6回程度成長を経験して、レベル7になったみたいですね。おめでとうございます。ステータス面ではあまり昨日と劇的な変化は無いようですが、念話が使えるようになってよかったですね。それと…」
「ちょ、ちょっと待った受付さん!今念話って言いました?」
「ええ。…あっと、もしかしてまだ使っておられないのですか?ジュリオはもう念話でセペ様たちとお話しができるはずなのですが。」
…へ?
俺ってもう念話使えるの?うそ、言葉のコミュニケーションを取らない生活に慣れ過ぎたせいか全く気付かなかったわ。
―ジュリオ、念話が本当に使えるなら何か言ってみて?
え、えっと…どんな感じなのかな。
<あ…ああ…。>
やべっ、どこぞのゾンビの群れみたいな感じになっちまった。やり直す。
<通じていますか?マスター。ジュリオです。念話上手く使えてるでしょうか…?>
<おおお! 感動だよ、やっとジュリオと喋れるようになった。やっぱりジュリオは他のゾンビたちと違って、クックやルングと同じように考えることが得意だったんだね。せっかく念話が使えるようになったんだし、これからは気軽に話しかけてね。>
おおっ、すげえぞすげえぞ!
これで不便なボディランゲージともお別れできるな。
話を聞いていると、レベルが上がるっていうのがどういう意味なのか少し分かったぞ。人間で言う何かのコツを掴む瞬間を、成長を経験すると言い換えて、差別化したものなんだな。洞窟の中でたくさんゾンビを倒すうちに、俺は少しずつ戦いのコツを得ていった。それのことを示しているんだろう。
「念話、問題なく使えるようですね。それでは報告を続けさせていただきます。」
「はい、お願いします。」
「レベル7まで上がる間に、もう一つ昨日には無かった能力を手に入れたようですね。なんというか、ジュリオ君、腕とか、足とかに何か、変わったことは無いですか?」
<腕と足…?特に無いですが。>
「そうですか。私の鑑定によると、自由自在とまではいきませんが、ある程度手足の形を変えたり、伸び縮みさせる能力がついているような気がするのですが…。覚えはありませんか?」
手足を伸び縮み…?
生前なら元気に伸び縮みするところは一か所あったけど、それはもう今の体では撤去されてるし。
手足か。気付いてないだけで、あるのかもしれないな。一回やってみるか。
伸びの感覚を意識して、手の指々の関節を引き延ばすように、力を入れてみると、あら不思議。
5本の指がぐにゃぐにゃと形を変え、同化して、一本のミスリル板のようになった。
ビビった俺は、そそくさと元の形態に手を戻していると、マスターが興奮した表情で俺の手を見つめていた。
―ねぇジュリオ、それって上手く使えばすっごく強い能力だと思うんだけど!?
<そうですかあマスター?…ああそうか、甲冑のリデザインに使えるかもしれませんね!>
―ばか!違うよ、戦いに使うんだ。その手をもっと尖らせて、刀のようにすることはできないかい?
<刀?ああっ!そういうことか!やってみます。>
利き手の左手で挑戦してみよう。
さっきの指同士がくっついた形態に変えて、力の込め方を調整して平べったく形を整える。
横に伸びて平べったくなったところで、きりきりと押さえ込むように力を入れて...両側を鋭利に、刃物のようにしたが、これだとイマイチ格好悪い。
さらに伸びをする感覚を入力して、どんどんと伸ばして行くと……すげえ。
まるで首都の超高級武器屋の倉庫に眠っていそうな、刃渡り50センチほどの細長いミスリルソードに手が変化した。
これ以上射程を伸ばして攻撃することは感覚から推測して難しいようだけど、実戦には十分な能力だな。
反り返った盗賊の持っていそうな剣のようにもしようとしてみたけど、元が手だからか、あんまり横へは曲がらないみたいだ。
「ほう、これはすごい…。世にも珍しいミスリルソードを一瞬のうちに顕現させることができるとは。昨日のジュリオは丸腰でしたので、B+という評価になってしまいましたが、この能力を使いこなすことができるならば、Aランク以上のアーマードゾンビというのも夢ではありませんね。」
―ジュリオ、一気に強くなりすぎだよお…。その能力は両手同じようにできるんだろう?二刀流なら勝てる気がしないよ。もう少し刃渡りは長くならないの?
<無理です。手がつりそうになります。>
―へえ、ゾンビも手をつったりするんだね。
意外に結構すげぇ能力かもしれないよな、これ。
早くこの、手をミスリルソードに変える感覚を体に叩き込んで、実戦に役立てられるようになりたいね。
そうすればAランク以上の魔物になることも夢じゃないって言ってるし。
マスターは受付さんにお代を宿泊代につけておくよう伝えて、俺と部屋の外へ出た。
―マスター、どうだったんだジュリオの成長は?
―遅かったね、気になるよマスター!
「二人とも落ち着いて聞いてよ。ジュリオがAランク以上に上がれるかもしれない!」
―そ、そんなに早くか?聞いてねえよなあ、ルング…。
―そ、そうだよ…どうしてなの?マスター。
俺が早くも二匹の実力に追いついてしまうことが残念みたいだ。
そうだよなあ、その気持ちは痛いほどわかるよ。生前の冒険者時代、新入りの女の子が入ってきた初日に、
調子に乗った俺が剣さばきを見せてやろうと戦いを挑んで、すぐさま一本取られた時はしぬほど悔しかった。
その子は見た目も職業もヒーラー(癒し系)だったのに。
こりゃ上手いこと言ったな!はっはっはー…ふぅ。
昔のことなんて忘れちゃえばいいのさ。
人は思い出を忘れゆくことができるから生きてゆけるのであろう。
って、父さんが10代だったときの日記の開帳の辞に書いてあったしな。
開帳の辞ってページがある時点で厨二くさすぎて笑えたけど。
「ジュリオはね、手を剣みたいに変形させて戦うことができるようになったんだ。ジュリオ、やってみせてあげて!」
おっと、思い出話をしてる場合じゃなかったな。
横にくっとすぼめて、ぐーっと奥へ伸ばす。この感覚だな。
<はいよっと。>
―おおお!一瞬でミスリルソードになった!
―すごい、魔法みたいだ!
「だよねえ。今日はもう服屋に寄って、目立ちやすいジュリオのためのローブを買ったあとは帰る予定だけど、明日からはゾンビ狩りがもっとはかどりそうだね。二人は商店街で何か買いたいものはある?」
―じゃあ俺は干し肉!
―僕も!
「わかった、じゃあローブを買って干し肉を買って…と。オーケー、じゃあ行こっか!」
――はーい!
<はーい。>
商店街は、冒険者ギルドを出て西への大通りを進んだ、町の真ん中に位置している。
そこを突っ切ってもっと西へ行くと、住宅街があって、囲いの壁にぶち当たる。
というのが、おおまかなティブの町の構成だ。
商店街でも俺は、珍しそうに見られたり、敬礼をされたり、
俺を見た鍛冶屋のおっちゃんにあぶくを立てて倒れられたりと、なかなか大変だった。
服屋に着くと、マスターがカーキー色の丈が長いローブを俺に買ってくれたので、さっそく着て歩いてみることにした。
視界も別段問題はなく、体温が無い俺は格別暑いということもなくて、着心地がよかった。
なにより、それ以降は少しも他人から変な目で見られることがなかったから、それが一番安心できることだった。
干し肉を丸々二本買い、宿屋に帰って、マスターは俺たちに明日の予定を伝え、はやばやと寝床に入った。きっと疲れていたんだろうな。
クックとルングは、干し肉をたらふく食べたあと、ぐぅすかと寝息を立て始めた。
俺はというと、ミスリルソードの変形の練習をライトの横で1時間ほど集中して行って、だいぶ上手くなったことが確認できたところでやめにした。
そうして俺は、おやすみと念話で仲間に伝えて、ローブを羽織り、いつも寝床にしていた木の椅子にへたり込んだのだった。
急に訪れた悪夢の始まりは、ここだった。