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プレイヤーキラー  作者: 狗
欲望と野望
8/75

上州ハンマー



 この星に来て一週間がたった。



 スカライトの顔役ゲラスを配下に入れた事で話はとんとん拍子に進む。

元々田舎町な事もあったが、噂は瞬く間に広がる。

権力者が恐怖する存在、見るからに暴力で飯を食う風貌。


 俺はスカライトの鬼狸とよばれていた。



「鬼狸……名前付けた奴だれだか知らねぇが、センスのねぇ野郎だ」



 なんか間抜けなネーミングセンスだが、この世界に狸はいない。

町を歩けば皆が道を開け、礼をする。市長ですら俺に敬語だ。

ゲラスとパルス以外の馬の業者も統合し、あがりの半分が俺の懐に入る。

バルキリにはそこから金を渡し、イエローキャブでの情報を収集させる。



 バルキリの家で昼まで寝てたので、銀行に顔を出す。

パルスとゲラスが、数名の手下と馬を売っている。

扱う頭数も20頭を超え、売り切れ毎にテイムしに行かなくても常に売れるようになった。


 他の行商は俺を恐れて、ゲラスの手下になるか町から出ていった。

俺に半分渡しても、前より儲かっているらしい。



「おぅ、繁盛してんじゃねーか」



「プヒ、狸の旦那! ぷひぃーおかげ様で、繁盛させていただいてます」



 手を揉み手の様にスリスリしながら巨体を揺らし話すゲラス。

本当にこういう風に話す奴いるんだな。




「あ、狸……さんおはようございます」



「パルスも全然人に慣れたな、偉いぞ」




 俺はいつも通りパルスの頭をくしゃくしゃと撫でる。

色気づいたのか、くせっけの髪からは香水のにおいがする。

女遊びを覚えたようだな。




「狸さんにばっか頼ってられないからね! まかせといてよ」



「いうようになったじゃねーか、まぁ気張れよ」



「うん! まかせといて!」



 周りの俺への恐怖が、パルスの地位を上げたらしい。

いまじゃ皆に敬語を使われ、ゲラスと同じ立ち位置だ。

人見知りのコミュ障が治る最高の環境だな、全員がパルスにへこへこしてる。



 本来なら勘違いしたこのガキをぶん殴って畳めば、俺への恐怖は濃くなるが。

ゲラスがパルスを俺からの監視役と思ってるからな。

パルスへの教育より、仲良く見せた方がいいだろう。



 毎日ゲラスから10k(10000GP)が寝てても俺の懐に入る。

イエローキャブで豪遊しても100gpいかない。

この世界の農民が一家で一か月で300gpってほどだ。

ワインは6GPだ。俺がどれくらい稼いでるかわかってもらえただろうか。




 スカライトを手に入れたと言っても、ここはトラメルだ。

王都だろうとトラメルでは意味がない。

フェルッカの全ての町を配下にしなければ、この星の支配者と認められない。




「やっぱ装備買わねぇとな、このブロードソードなかなかだが鑑定するか」



 武器屋ってのもスカライトにはある。

港町で島の外に出るには、ゲートか船だ。モンスターも生息していない。

そんなんで武器屋は、武器らしい物と言えば銛くらい。

網やら釣り竿・釣り針と、そんなもんがメインの釣具屋になっている。



「親父いるかぁ?」



 入り口に釣り竿がならんだ店内に入る。

ここの親父は、馬が好きでうちの常連客だ。

馬が好きというか、自分の馬を走らせて競わせるゲームに金賭けるのが好きらしい。



「狸の親分、どうしたんだい? 釣りでも始めたのかい?」



奥から出てきた、陽気なオールバックの白髪に白いちょび髭の中年が出てくる。

これがうちの常連、ジョシュヤだ。



「ジョシュヤ、おめーんとこ何屋なんだよ。まったく」



「何屋って、魚群と潮の流れの読みは外さない武器屋ジョ・シュヤだよ」



「俺には釣具屋に見えるけどな、まぁ武器屋ならよかったぜ」



 俺は遺品のロングソードとメイスをジョシュヤの前の机に出す。

メイスの方は鉄の棒の先が大きく丸まったモールみたいなものだ。

正直価値は低いだろう。




「釣り竿にするのかい?」


「冗談か本気かわかんねーよ。さっさと鑑定してくれや」



 俺とジョシュヤの笑い声が店内に響く。

ロングソードが30k(30000GP)以上ならメイン武器で使う。

メイスは売っちまうかな。



 ジョシュヤが、眼鏡をだして真剣な目で鑑定する。

冗談ばかりいってた顔からのギャップだ、これは案外期待できるかもしれない。

ロングソードを鞘から抜き、刀身を横にし同じ目線で見ている。



「このロングソードが、18gpメイスが15gpかな」



「おぃ、冗談はいいから実際価値いくらなんだ」



 イラっとするが、落ち着いてせかす。

この親父とは、普通に仲いい飲み友達だ。



「狸の親方、俺は腐っても武器屋だ。武器鑑定のスキルも王都の武器屋にまけないくらい持ってる」


「鑑定で冗談は言わねぇ、これは普通に俺ら一般人の買う武器の最低品質だ」



 真顔で言われたら、実際そうなのだろう。

むしろ武器を見る目がなさ過ぎて恥ずかしくなる。ロングソードなんて骨董品知らねぇよ。

と自分の心の中で言い訳する。



「あ、あぁ悪かったな。ここで一番いい武器はいくらだ?」



「うちには伝説級の品があるぜ」



 ジョシュヤの眼光が光る。

そして奥の倉庫らしきドアを開け、絹の高そうな布にくるまれたものを持ってくる。



「最高の職人が、最高品質の木で作った釣り竿だ。木はリーパー製で、細工職人は王都の……」



 俺はロングソードとメイスを無言でしまう。

そしてジョシュアに背を向け、店の出口へ帰ろうとする。



「あー冗談だよ、狸のだんな! ただうちでいい武器はこの二つだ」



 そういってロングソードと金属製のこん棒を出す。

ロングソードの刀身はほんのり青白い光をはなっている。

1メーターの両刃で俺でもよい物だとわかる。

こん棒は真っ黒で棘が付き、60センチほど昔話の鬼の金棒のようだ。



「このロングソードはシルバー製で法儀礼済み、アンデットには無類の強さだ。値段は10k」


「この金棒はモンスターのマジックアイテムでシーサーペント特効だ! 漁のおともに」



 俺は交互に武器を見る。

まったく両方とも魅力を感じない。対人用が欲しいんだが。



「親父、対人の武器はないのかい?」


「あー包丁でも棒っ切れでも、人は叩き殺せるけど。自分にあった奴がいいんじゃねえか」



 俺の価値観も親父の意見に同感なんだが、魔法ことマジックアイテム。

相手がこれ持ってると怖いとこはあるな。



「ファルッカに行こうとおもうんだよな」



 親父はシルバーの武器を落とす

そして俺の方を怯えた表情で見る。



「悪いことはいわねー、やめときな。町のごろつきじゃあんたに束になっても勝てない」


「でもあそこの連中は、息を吸うように人を殺す。プロとかじゃねー日常が殺人だ」



 親父必死の説得に面を食らうも、余計興味がわく。

バルキリに知られたら、顔面ひっぱたかれて止められそうだ。

そんな事を考えていた。



「これをやるよ、だから絶対生きて帰って来いよ」



ゴトっと音と共に、両手でもつ大きなハンマーを渡される。

柄からハンマーの場所まで、黒い金属でおおわれている。

持ち手にはボロボロの赤い布がきつく巻かれ、滑り止めになっている。

ハンマーの頭は血管のような赤い装飾が施され禍々しい。



「シャドウ製のハンマーに、魔法がかかっている。魔法は1・5倍ダメージだ」


「うちの店ではこれが一番対人に向いている。鎧は今着てる皮鎧がいいだろう強化してやるから脱ぎな」



 たしかカーボウイのボンボンから巻き上げたやつだ。

いきなり真剣になったジョシュヤの言う事をきく。



「安心しな、この星に来るまで同じような場所で生きてきた。今回は下見だ」



 ジョシュアは皮鎧に光る粉をかけながら叩く。

そして俺の方を見て目を細める。



「冒険者の8割がファルッカに行った日に死ぬ、狸親分は確かに違うかもな」


「何言っても行くんだろ、取り合えずスカライトに行きな。土地勘もあるだろ」



「おぅ、じゃあ今から行ってくるぜ。誰にも言うなよ!」



さっきゲラスに渡された1日の売り上げ30kを小切手で机に置く。

親父は金額を見ると目を丸くして立ち上がった



「お、おぃこんなにもらえねーよ! おぃ。あれもう行っちまったのか。死ぬなよ……」



 ゲートに向かって馬を飛ばす。

ファルッカが俺を待っている、はやく仲間をこの星にすくって呼んでやらないと。

障害は全部ぶっ殺してやる。


雨が降りそうな、どんよりした曇りの中。

俺は馬をかけてゲートへ向かった。



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