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プレイヤーキラー  作者: 狗
欲望と野望
7/75

馬売りの半グレ ゲラス




 結果馬のビジネスは上手くいったのだが。

途中経過であった事を説明しよう。



 スカライトは田舎の港町だ。

広大な牧羊地が広がる島。だが人が集まる場所なんて決まっている。

バルキリに聞いたらあの3人は、ここらで有名なゴロツキだったらしい。

いつも酒場で酒飲んで揉める、金の為になんでもやると有名。


 そいつらに依頼した行商人もすぐ分かった。

イエローキャブで飲んでは、俺らの悪口言ってるんだから世話はない。

ここら辺の馬の行商を仕切ってるゲラスって男だ。

囲ってる水商売の女は、下手な情報屋より信用できる。



 このゲラスって男は、商売人とは言うが完全に渡世人だ。

町の不良をしきり、スカライトという小さな港町で幅をきかせている。

銀行前の縄張り(しま)や利権はゲラスの独占状態だ。

命を狙われた落とし前に、そっくり頂こう。



 人の生死を初めて目の当たりにしたパルスは、毎日動揺していたので。

2日ほど暇をやったわけだが、突然何もないところで笑い出したのは俺ですらびびった。

渇いた笑いと共に、蒼い目が死んだように色を失っていた。

まぁ、童貞喪失の時はそんなもんだろうか。



「さーて、ゲラスにもお礼しておかねーとな」



 初日は銀行で馬を売ってるゲラスの顔とヤサを確認する。

ゲラスのテイムする野生馬の群生地帯もつけたらすぐ分かった。

目には目をだと、ここで馬を皆殺しにするんだがそんな馬鹿な事はしない。

帰りに宿屋に奴隷少女と入るもんだから尾行に時間がかかった。


 やっと、朝家にかえりやがった。

家族構成は、息子と娘と妻がいるようだ。

あの奴隷の少女、娘よりずいぶん年下だ。いい趣味してるな。

どうやらいいパパを演じているようだ。


 ぽっちゃりした嫁とデブのゲラスが、玄関で喧嘩した後キスしてる。

ゲラスは子供2人と、手を繋いで馬車に乗った。

学校と職場一緒に通ってるみたいだ。

子供もなついてるようだな。




馬車が見えなくなった頃、草むらから熊のような大きな影が動く。



「なかなかいい家じゃねーか」



そぅ、俺だ。

張り込みの時、土産に使うはずだったワインを飲んでしまったので。

バックパックを漁る、なんか町で配ってる聖書が出てきた。

まぁ、これでいいだろ。30分程ゴロゴロ寝て時間を潰す。


 ゲラス家の入り口にある、ライオンが咥えた装飾の口輪。

要するにチャイムみたいなものだ、それをならす。

金属音の後に、



「はーぃ」



 奥さんが出てきた。

俺を見た奥さんは、即座にドアを閉めた。

俺はにっこり笑いながら、声をあげる。悪人顔も困ったもんだ。



「あ、早朝からすいません。ゲラスさんの部下でして忘れ物を取りに来ました」



 鎖の施錠をかけたまま、ドアが少し空く。

警戒した奥様がこっちをおそるおそる覗いている。



「主人が何を忘れたというのですか?」



 俺は目を線にして、とにかく引きつるほど笑う。

そして聖書を出す。



「家族の思い出の品を、今日教会で家族愛の代表者にゲラスさんが選ばれまして」


「すいません。見た目的に無理だって断ったんですが、俺の嫁は人を見る目はあるとゲラスさんに」



 嫁さんが鎖の施錠を解いた。

かなりぎりぎりだったが、思い出の品なんて盗むやついないだろう。



「うちの人もよく仕事で怖い人と付き合うから心配で。気を悪くしたらすいませんね」


「いえいえ家を守るのが主婦の鏡ですよ奥様、ゲラスさんは幸せ者ですね」


「あら、ヤダ。世辞がうまいのね。あの人に教えてあげてよふふふ、これよ」



 なんか真っ白な二枚貝の片割れの貝殻のをもらった。

こんな海岸に落ちてそうな貝じゃ。

しかし、奥様の胸を張った自身に満ちた顔を見てもらっておく。



「ありがとうございます! 今日が貴女にとって良い日になる事を聖書と共に祈ります」



 帰りに馬車にひかれた犬の死体があったので、その死体に貝殻を塗り付ける。

血を塗っただけで、小道具の完成だ。

余計な話をすると、恐喝になる場合に使う手だ。



「貝殻……本当にこんなゴミで大丈夫か?」



 チンピラ3人組の遺品を持って銀行へ行く。

案の定いつもの場所にゲラスが座りながら、馬を売っている。

首と一体化した二重顎。伸びきった服に妊婦の様な腹。

簡単に言うと肥満だ。


 服は良さげな絹のシャツと麻の短パン。

頭皮の女神も実家に帰られたようで、光を反射するほど薄い。

肉で見えないほど小さい椅子に座った姿は、白豚をほうふつさせる。


 横にいる足枷を付けた少女は奴隷の様だ。

ショートヘアの虚ろな目、ボロボロの羊毛の服を着ている。

顔はボサボサの前髪でよく見えないが15歳程度か。

足枷は鎖で杭に繋がれている、まるで犬だな。



 後ろの方に近づき様子を見る。



「お馬はいかがですか? 買ってくださいお願いします」



 ゲラスが少女の腰に蹴りを入れる。

鼻が塞がって息ができないのか、鼻から出る空気が笛の様に音を出す。



「ゲラスの馬屋プヒー……ゲ・ラ・スの馬屋て名前を宣伝しろって毎回言ってるだろ」


「プ、ヒー何度言っても奴隷は馬鹿だな。今日もお仕置き決定だプピー」



「頑張ります! 頑張りますからお仕置きは辞めてくださいお願いします」



 ゲラスは白豚の様な顔で下種な笑いをする。

裸でこん棒もってたらオークと勘違いしそうだ。



「この前は3人だから次は6人だなプヒー」



 少女の顔が前髪に隠れながらも、絶望に染まるのがわかる。

ロリコンもこの世界では、当たり前だが取り締まられない。



 泣きながら地に頭をつけ、ゲラスに謝る少女。

すると横でポーションを売っている瘦せた男がゲラスに話しかける。

土下座した少女の尻を凝視しながら話す痩せた男。

ソバカスだからけの、20代で痩せすぎて骨と皮だ。

いつ洗ったのかわからないべとついた黒髪。



「ゲラスさんお仕置きは混ぜてくださいよへへへ」


「これはザルコさん。ふひぷひ今日はこの後、宿屋でですな」



 ザルコという男は、売り物の黄色いポーションを数本持つ。

それをゲラスに渡す。



「ヒールポーションを投資しますよ、これで何度しても壊れませんからな」


「高級品を助かります、今日は寝れそうにないですねプヒー」


「えぇ、もう今から楽しみですよ」



 土下座した少女は体全身が震えている。

それをゲラスとザルコはにやけながら見下ろす。

震えようが、懇願しようがそれは男の嗜虐性を煽るだけにしかならない。

娘にこの姿を見せてやりたいものだ。



「そういや今日はあの下品な男とぼっちゃん来てないですね、ゲラスさん」


「もう彼らは来ないだろうねプププ」


「といいますと、もう既に手を打たれたのですか。怖い怖い」


「死んでないといいんだがねプホホ」




 そろそろ頃合か、噂話の的になってる今が機だ。

脅しを有利に展開するには、虚をついて主導権を握るタイミングが重要だ。



「そりゃ、残念だ」



 後ろから2人の肩を抱きかかえる。

突然の襲来に思考能力が吹っ飛ぶゲラスとザルコ。

ここは町のど真ん中ガード圏内だ、安全地帯だってのにこの慌てよう。



「な、おまえはぷひぃ! なんで」


「なんですか貴方はなんですか!」



 3人組の遺品の兜2つと、尖がり帽子を地面に投げる。

金属音と共に転がる。ロングソードの柄をバックから出す。

ザルコがロングソードを見て腰を抜かしている。

ここは町中だ、殴る事すらできないんだがな。



「残念ながらあいつらは死んじまったよ」


「俺が話があるのはゲラスだ。で、お前はどうする?」



「ゲ、ゲラスさん私は用があるのでま、また今度はぃでは」



  ポーションをシートごと風呂敷の様にまとめて凄い速度で消えるザルコ。

片付けのスキルなんかを使用したかの如くの速度だ。



「行き違いがあるようだが、証拠でもあるのかね?」



「今こうなってんだ、証拠なんて必要ねーだろ」



「分かった。目的は金かね」



 だらしない顔が締まり、商売人の顔になるゲラス。

腐っても馬販売を仕切る商売人。潮の目と立場は分かってるようだ。



「もう、お前から俺らを狙ったツケは貰ったから大丈夫だぜ」


「ツケだと? 話す事自体今日初めてな筈だ。交渉はいい。払えるだけ払おう」



 血の付いた貝殻を遺品の兜の横に投げる。

それを見たゲラスの太った細い目が見開く。

震えた手で、貝殻を拾おうとする。



 その貝殻を俺は足で踏みつぶす。

貝殻は粉々に砕け散った。



「さっさと帰らないと、死んじまうぜ」



 ゲラスは100キロを超える巨体では考えられない速度で動いた。

売り物の馬にのり、鞭を振るい銀行の人込みを疾走した。



「なんだ、なんだうわああ」



 人混みが避けていく、ゲラスは一切速度を落とさない。

俺はゆっくりゲラスの馬にのりゲラス宅について行く。

俺の中でゲラスは殺すより生かした方が得な気がしてきた。


 守るものがある人間は必死に働く。

恐怖を守る人間の分も背負って尽くす。

ならば、ノウハウや人脈のあるゲラスを生かして使った方がいい。



 馬から降り走り出し、玄関をあけゲラスが奥さんを見つける。

玄関を開けたまま抱き合っている。


 そして遠くから見ている俺に気付いたのか、嫁を誤魔化し馬に乗りこっちに来た。

嫁にばれないよう隠れてた俺は、木陰からゲラスの前に出る。



「分かった、あんたに従おう」



「理解が早くて助かるぜ、奥さんも無事で何より」



「っく……ふぅ、そうだな。私は何をすればいいんだ」




 もう夕方だ。

夕日に照らされた小高い丘の上に、馬に乗った俺ら二人。

牧草地の草が夕日で赤く染まり、風が草で波を作っている。

いい風だ、心地よい風が流れる。

しばしの無言が続き、2人で赤い神秘的な牧草地を眺める。



 俺は一瞬でロングソードを一瞬で抜き、ゲラスの腹に深く突き立てる。

ゲラスが苦痛に歪んだ顔で、地面に転がる。

風が草原を揺らす。



「俺を犯罪者にしないように自殺しな、お前の家族愛に免じて選択させてやる」


「家族か、自殺か選べほっといてもお前は死ぬ。そのまま死んで俺がファルッカ送りになったら、その日に手下を送って家族は皆殺しだ」



 牧草を苦しそうに掴むゲラス。

口からは血が流れ落ちている、腹にはロングソードが刺さったままだ。

ゲラスは両手でロングソードを持ち、自分に深々と刺していく。

目から口から血を流し必死の形相で俺を睨んでいる。



「約束しろ、アネムにも子供たちにも決して手は出さないとッグハ」



「見事だ、約束しよう。本当の約束だ」



「アネム・ミリア・ロン……お父さん無しでも喧嘩したら、だ、駄目だぞ。馬鹿なお父さんで……ごめ」



 泣きながらゲラスは草原に膝をつき、倒れる。

もう2、3分で死ぬだろう。

俺はスクロールを出す。グレーターヒールのスクロールを3つ。

ロングソードを一気に引き抜き、詠唱する。



「お前の命は俺の物だ、スカライトに組織を作る」


「お前はそれを指揮しろ、裏切れば一切容赦はしない」



 ゲラスは嬉しいのか怖いのか、分からない。両方かもしれない。

泣きながら俺にずっと感謝していた。

彼はデブで浮気性で、ゴロツキやとって人を殺す屑だが。

なにより父親で、俺の仲間を思う気持ちとダブってしまった。


 本気で守るものがある人間は、俺以上の脅威がこない限り決して裏切らない。

利で裏切らない人間ってのは信用できる。

何より自分より大切な物がある人間は魅力がある。

部下が2人になった。


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