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プレイヤーキラー  作者: 狗
欲望と野望
5/75

馬成金

チュンチュン



 陽気な小鳥が鳴いている。

暖かく、古本屋特有の古書の匂い。

日差しがカーテンの隙間からベットに木漏れ日の様にさしている。

目が段々開いてくる。パンツ一丁の俺の隣に人が寝ている。




「うぉ! 誰だおま……パルス! う、嘘だろ!」



「ん? ぁ、狸おはよぉ。んー昨日は凄かったぁ、初めてだよぉーあんな沢山飲まされたの。でも楽しかったぁ」



 俺はベットから飛び上がる、いくらなんでも男色の趣味はねぇぞ。

だが線が細い中世的な顔、刑務所ではよくある話だ。

寝起き特有の男性の生理現象というか、下半身は別人とは良く言ったもんだ。



「さ、酒の話だよな!? パルス!」


「へ? そうだよぉ……沢山飲み過ぎたー」



 眠いのか木漏れ日の中、蒼い目を擦るパルス。

白い男物のシャツが、男だから当たり前だがなんとも。

髪と目の色から青い果実……何を考えているんだ俺は、そもそもここは。




「何、馬鹿やってんだいここはアタシの家だよ! あんたらつぶれてるから」



 笑いながらエプロン姿のバルキリが出てきた。

寝起きの間違った方向の欲情は、正常な方向に修正される。

女性特有のしなやかな体のライン。

これはそそる、おもむろに尻を触ろうとするとオタマで額をぶたれた。



「本当にスケベだねー! 臭いからパルス君起こして風呂はいってきな!」



 俺はしぶしぶパルスを起こし、中庭のビール樽のような木の樽の風呂に入る。

この木の風呂4つ並んでいる。隣の樽に女みたいにタオルを全身に巻いたパルスが入る。




「ふぅーやっべぇなぁ」



「気持ちいですね~色々バルキリーさんにご迷惑を……ブクブクブク」



 本当に真面目君だなこいつ。

だがこれはいいタイミングだ。下心は自然に言い訳つけないとな。




「それならよぉ、2人でバルキリに恩返しするか?」



「え?なにすればいいんですか?」


「まぁ、あがったら話そうぜ」




 本当に話が早い、思い通りにどんどん進む。

俺は風呂から出て、バルキリの洗濯した半袖皮鎧カーボーイを着る。



 冷えた牛乳をバルキリが気を利かせて出してくれていた。

パルスと2人で腰に手をやり一気に飲む。

ゴッキュゴッキュと口が離せない牛乳の魔力だ。

スカライトは島とはいえ、牧羊地帯の広がる地域だ。

潮風によるミネラルで育った牧草を食む乳牛、牛乳が旨くないはずがない。



「さっきの話だけどよ馬を銀行で売るんだよ」



「ぎ、銀行ですか……」




 また下を向くパルス、なんか嫌な思い出や慣習でもあるのだろうか。

パルスがぶつぶつ言ってた話を要約すると。

馬を売りに行った時、同業者に手ひどく嫌がらせされたらしい。



「じゃあ俺に30GPで馬売ってくれよ」



 いつも20GPで売っているパルスは驚きながら俺を見る。

どうやら銀行へ売りに行く俺を心配している様だ。




「いいんですか、20GPでもいいですけど。慣習が、他の行商人が」



 どさっと麻袋に持ち合わせのゴールドを、テーブルに全部出す。

全財産は150GPだ5匹売ってもらう。




「おまえは友達だけど、これは仕事だ。だから1.5倍で買う。その代わり責任を持ってきっちりやってくれ。男同士の約束だ」




 パルスはもじもじしていたが、男の約束に腹が決まった様だ。

蒼い目に、強い決意がともっている男の顔になっていた。本当に扱いやすい。




「まかせてください! 行ってきます!」




 走って家から飛び出していった、若さってそうだな。若い奴は火の玉だ。

よく過去の経験から、説得や分かり合おうとする上司がいるが滑稽だ。

最初に軽く布石のアドバイスし、好きな様にやらせ失敗させて説教。

そうやって上下関係を明白にしていく。


 それで成功するなら、有能次のステージを用意する。

にしても100GPでどんどん売れる馬を、30GPで売ってもらう。

男の約束、責任を持ってとは俺もよく言ったものだ。

濡れ手に泡とは、まさにこの事。


 バルキリは仕入れに行ったし、俺は眠いのでもうひと眠りする。



 一時間後




「狸さん! 狸さん! 起きてください!」




 煩い声が聞こえる、目を覚ますとそこにはパルスがいた。

面倒だが飯の種だ。作り笑顔で手を引かれるままに外に出る。

そこには馬が5体整列していた。



「な、なんだ。え、もう集めてきたのか?」


「はぃ! 男の約束ですから」



 自慢げに胸を張るパルスの頭を、俺はくしゃくしゃと撫でる。

そして馬の権利を譲渡してもらう。

動物やモンスターには、使役できる数。スロットというものがある。

馬は最底辺の1で1人MAXで6だ。馬はテイムスキルがなくても操れる。

ドラゴンは5らしいが、テイムスキルがない人間がドラゴンを持つとすぐ野生化する。



 なんで俺は馬を6匹持てるって話だ。

馬を整列させ、皮鎧を着て銀行に向かう。

躾のできた犬以上に言う事を聞く馬、人間の言語を理解している。

これが調教スキルで調教をしたあと譲渡された成果か。



 

 銀行は早朝な事もあり、馬の行商人は見えない。

野菜や果物、燻製肉に酒やポーションなどの行商人が絨毯や布を広げ準備している。

銀行前だけあって人は沢山いる。

馬を売り始めると、商売敵がいないので馬が飛ぶように売れる。




「パルスどんどん捕まえてこい!」




 なんてぼろい商売だ、バカバカ売れる。

馬屋で買うと300GP、そりゃ100GPで売れるだろう。

馬をスロット限界の6匹買って馬屋に金を渡し、預けるだけでも馬屋で買うよりリーズナブル。



 昼になると馬の行商人が増えてきたので値段を80GPで売る。

あからさまな値下げに、同業者の視線が刺さるが特に無視だ。

それがまたどんどん売れる。もう20匹は売っている。

15匹が100GP5匹が80GP


 1900GPから20匹分600GPをパルスに渡しても。

1300GPの儲け、5時間馬のケツ追い回しても10GP。やっぱ頭は使うべきだ。



「見てくれこの艶! 毛並み! 命を預ける馬はいいやつを! 今日は特別80GPだ!」



 俺は喉がかれる勢いで叫ぶ。叫べば客がこっちを見る。

そして売れれば50GPの利益、一日飲んだくれても50GP。

スカライトの最高級のホテルでも50GPそれが一声だ。




 段々まわりの行商人の陰口が聞こえる。

相場がどうの、持ち場がどうの。

聞こえた時に、そっちに向かって歩くとすぐ離れる。


 俺の体躯や見た目もあり、誰も文句言ってこない。

本来の予定なら行商人が結託して、今まで仕切ってたやつが文句言ってくる。

その行商主をつけて弱みを握るか、恫喝する予定だった。

陰口程度なら、何しなくてもいいな。




それを毎日朝から繰り返し、三日目。


 9000GPを銀行に預けるに至った。

毎日パルスとバルキリの店で飲み歩いてこの値段の貯金だ。

大体150頭以上売った。パルスも4000GPはたまったらしい。

どうやらパルスの、ガキみたいな見た目で舐められたのだろう。

一切邪魔は入らなかった。

毎夜贅沢にイエローキャブで、金を散財した馬成金様様だ。



 だが三日目の朝事件が起きた。

いつもパルスのテイムしている草原の野生の馬が、全部殺されていた。

中には炎の魔法で焦げた者もいる。つまり人の仕業だ。



「馬に罪はないのに、なんて酷い事を……ごめん。本当にごめんね」


「っち、ふざけやがって」



 膝を地につけ、馬の死体の前でパルスが泣いている。

どうも俺と感性が違うのか、商売を邪魔された怒りより馬に対して謝っている。

俺は馬の死体から皮をはぎ取っていく。



「な、なにしてるんですか! 狸さん」




 黙々とナイフで皮とタテガミをはぎ取っていく。

パルスは蒼い大きい目で、涙を流しながらこちらを見据えている。



「こいつらの死を意味あるもんにしてやらねーといけないだろ、手伝え」


「糞、肉は血抜きしてねーから臭くて食えないな」




 泣きながら馬の死体から、皮をはぎ取るパルス。

どちらにしろ、この借りは返さねーとな。

舐められたままにしとくと最悪の展開が待っている。

また舐められる負の連鎖だ。



 野生の世界でもそうだ、捕食者を痛い目に合わせなければまた襲われる。

フグを釣ったからと言って、捌いて食べる人はそうそういないだろう。

こいつを舐めたら痛い目に合う。周りにそう思わせないと、不良はできない。

一般人の美徳は不良の世界では真逆なのだ。




 俺は馬の皮を肉屋に売り、人のいない海岸でパルスに聞く。

ざざーんと波の音と共に汚されていない真っ白な砂浜。

俺とパルスは無言で浜辺に座り、遠浅の海を見ていた。

そして俺は海を見ながら口を開く。



「パルス、モンスターはテイムできるのか?」


「僕はモンスターはほぼテイムできないけど。テイムスキルあるから、受け取れる最高レベルのモンスターならドレイクかな……。」



 ドレイクっていうのは小型のドラゴンだ。

高さ3メートルの体長6メートル程で火を噴き、爪も鋭い魔法は使えないが見た目はドラゴン。

首都のテイマーが銀行で売っているらしい。



「でも命令は連れて歩く以外できないし、最低でも6000GPはするよ。僕はやっぱ何もできないね。狸みたいに強そうでもないし本当かっこ悪いな」



「お前は、仕返しがしたいか? 相手が死んだとしても」




 パルスは俺を驚いた表情で見上げる。



「え?」



「お前の涙はどれくらいだ? 怒りはどれくらいだ?」



 こぶしを握り締め、砂を掴みパルスは震えている。

だが仕返しをする踏ん切りが、つかないようだった。



「友達や家族と喧嘩するよな、相手が明日死んでもいいなら謝るな後悔するな。そうじゃないならすぐ謝って話し合うべきだ。いずれ仲直りするなら、喧嘩して避ける時間が無駄だしな。まず自分の怒りを理解しろ」



 パルスは波を見ながらずっと考えている。

蒼いショートヘアが潮風で揺れている。



「ただ、今回は友達じゃない。お前がやらなくても俺がやる、お前はどうする」



 パルスは立ち上がり、俺の方を向く。

そして、泣き止んだのか赤くなった目を擦って俺と目を合わせる。





「狸だけにやらせるわけにはいかないよ!僕も悔しい。でも……」



「俺は止まらない」



「僕もやるよ! もうここの馬は全部死んだ子供も生まれない。ここは僕の思い出の場所だ」





 パルスに6000GPを渡した。


 そして8段階ある魔法の6段階目の魔法インヴィジ不可視。

つまり姿や匂いが動くまで見えなくなる透明化の魔法である。

これを魔法屋で1000GPでスクロールを買う。



 スクロールというのは、魔法のスキルがなくても魔法を発動できるアイテムだ。

勿論値段はその分かなり高く詠唱時間も2倍だ。一般人では手が届かない値段だ。

威力も最低にはなるが、インヴィジは動くまで永久なので効果は変わらない。




 そして作戦開始だ。


 パルスが朝から馬を10匹ほど現場に連れて、野生化させ放す。

そして真っ赤なドレイクをつれて、現場に来る。

ドレイクに停止の命令を出し馬の真ん中に置く。



「すげーな、まんまドラゴンじゃねーか。こりゃ勝てねぇわ」


「ドラゴンはこれの3倍の大きさですよ」


「あ、そうなの……」



 ドラゴンテイムできるようになったパルスと、揉めるのはやめておこう。

俺は心にそう誓った。そしてインヴィジの魔法を赤いドレイクにかける。

停止の命令が掛かっている以上、ドレイクは透明なまま動かない。

野生の馬とパルスだけが、牧草地帯に見える。

ドレイクのスロットは3だ。まだ馬なら3匹テイムできる。



「んじゃ、俺は隠れているから馬をテイムするふりしててくれ」


「わかりました!」



必ず今日も馬を殺しに来る、または悲痛な顔をした俺らを見に来るはず。

さぁ、作戦開始だ。やられたら絶対やりかえす!

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