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プレイヤーキラー  作者: 狗
欲望と野望
4/75

パルスと馬


 酔っ払い相手に見栄を張って、50GPのいい宿屋に泊っちまった。

まぁ、昼までやってたんだからお釣りも来るわな。


 女性は清潔感が第一、性行為も命がけってやつだ。

清潔な部屋はもちろん、爪切っとく事が重要だな。


 潮風の心地よい港町の朝。

腰も軽ければ、新鮮な空気が肺へ流れ込む。

鳥のさえずりと、程よい太陽の光と熱が俺を包み込む。

別れる際、宿屋の前でキスされてバルキリは仕事に向かった。

 


「あんたに会えてよかったよ! また絶対よってくれよな」



 気丈な女だったが可愛いもんだ。

女と仲良くなるには、やっちまうにかぎる。

男は好きな女を大切にしちまって、手を出せないことがある。

俺から言わしたら自己満足だ。


 こっちは女とみてるのに、相手は友達とみちまうもんだ。

1年たったらもう終わりだな。ずるずる勇気が出せず飯友になるだけだ。

まさにピエロ……よくある話さ。


 昔話はいい、ここには追ってくる軍隊も警察もいない。

楽しい楽しいセカンドライフの始まりだ。

宿屋から出て、日差しと潮風を感じながら銀行へ歩く。



「おーお天道様は働いてるねー俺も食い扶持稼ぐかな」



 金を稼ぐ方法にはいくつかある。

働かず貰う、つまりバルキリーのヒモだ。

昨日みたいなぼったくりを組めば毎日飲める。

いずれ噂になるし、女に愛想つかされたら終わり小物すぎてパスだ。

後は働くか奪うか、転売または働かせるだな。

丘の方に野生の馬がいたな、捕まえて売るか。



「ブヒヒヒヒン!」



 3時間後、丘の上に寝っ転がる牧草だらけの俺がいる。

どうもこの世界馬をテイム(調教)しないと乗れも売れもしない。

他人が調教したものには乗れて言うことを聞く。



「そういや、バルキリがスキルについていってたな。何度も試すとスキルを身に着けるとか、試してみるか」



 数時間後、さんさんと降る日差しの中。

俺は凝固した返り血だらけで、また草原に寝そべっていた。

横には一頭の馬の死体がある。


 あまりにも言う事聞かないので、殴り殺してやった。

血だけ抜いといたので肉屋にもってけば金にはなる。

だがこういう野生の馬は、あまり旨くない。

しかも殴り合って興奮した血が回ってるので、家畜の餌か皮……やはり10GPだろう。


 泥だらけに殴り合って2時間。牧場に来てからは5時間その成果が10GP

10GPなんて、一時間で飲んだら消える金だ。

一日身を粉にしても100GPいかない。

お前は100gp以下の人間と言われてるみたいで腹が立つ。




 ふと横に馬を追いかける、やせ形の青い髪のみが印象的な小柄な青年がいた。

この星の人間らしく、綿だか羊毛だかのチュニックにズボン。

男らしさが全く感じられない、弱弱しそうなガキだ。



「こっちへおいで……君のようなペットが欲しかったんだ。ずっと一緒にいてあげる……」




 木っ端恥ずかしい台詞を、馬に話す青年。

遠目に見ても、見るからに農民なうだつの上がらない格好。

馬口説いて物にできれば世話ないわな。




ブルルルルルゥ



 あれ、あいつの後ろ馬がついていく。

どうなってんだこれは。



「おぃ、そこの!」


 

 むくっと草むらから出た俺の姿に青年は尻餅をつく。

馬が俺に敵意を剥き、青年と俺の間に入る。



「な、なんでしょうか」


「いや、聞きたい事があんだけどよ、おぅこの馬根性すわってんな」



 俺を睨みつける馬に手をふり、青年の前に座る。

青い髪以外に、蒼く大きなぱっちりした瞳。

容姿はいい。磨けば大貴族の小姓なり、かなりいい線行くだろう。

身なりはボロボロだが、一瞬その目に吸い込まれるような錯覚。

青年は俺の敵意のなさに安堵したのか、馬をどかす。



「あ、あのどうかされましたか? 煩かったら謝ります!」



 俺は心の中でにやりと笑う。

ヤクザや悪い奴と対峙した時一番やっちゃいけない事。それは意味のない謝罪だ。

利用されるか、舐められるしか未来はない。



「そうなんだよ、俺が気持ちよく寝てるのに起きちまった」



 青年の顔から血の気が引いていく。

足は震えている、さすがに俺も悪人顔だし実際悪人だがビビりすぎだろう。

そういえば俺の体、馬の返り血だらけだったわ。



「ご、ごめんなさい! もし気に入られたならこの馬いりますか?」



 馬くれるのかよ、驚いたが貰えるもの断る事は絶対ない。

なんせ必死に1日働いても馬買えない。つまり高級品だ。

それが寝てたら手に入った、やはり俺は運が付いている。

100gp儲ければまた酒が飲めるしバルキリーとも遊べる。



「おぅ、そうかならいいぜ。でもよ兄ちゃんなにやってたんだぃ?」



「テ、テイムの練習をしてました」



「テイムっていうとスキルか動物と話せるのか兄ちゃん」



 俺はここでお得意の満面のサービス笑顔で笑う。

貰うもの貰ったら、今度は情報だ。

出会い最悪でこっちが主導権握ってるなら印象はどんどん上がる。



「は、はぃまだ。その少しですけど」



「すげーじゃねぇか! 悪いなこんな事言って馬返そうか?」



「いえ!全然こちらが悪いですし、それはどうぞ差し上げます」



 まぁ、そう言うとは思ってた。

返せと言ったらまた恫喝するだけで、絶対返すことはないけどな。

やや下を向いて目を合わさず話すその仕草は、自信がない人間特有の動き。

髪と目の青さで苛められたトラウマでもあるのか。



「俺の名前は狸だ、馬のお礼に飯でも奢らせてくれよ! 俺もかっこつかねえ」



「そ、そんな僕は、あ、名前はパルスっていいます。近所で馬屋見習いしてます」



 こいつ初対面相手にヤサまで教えやがった。

完全に世間知らずの馬鹿だ。馬鹿は金になるし、舎弟も欲しかった所だ。

絶対逃がさない。100gpを生み出す御しやすい機械だ。

俺はパルスを連れて当たり前のように、イエローキャブに入る。



「僕、酒場に入るの初めてです」



「普段仕事終わったら何してるんだ?」



「馬を馬屋に20GPで買ってもらって、ご飯を食べて本を読んで……寝ます」



 話下手な奴の特徴だ、話が長いのに要点がない。

俺の中でパルスの人としての評価が落ちていくなか、価値が上がっていく。

馬鹿で真面目な奴ほど、染まってない手下にする原石だ。



「バル、エール2つとつまみ頼む」



 カウンターからバルキリが出てきた。

長い茶色い髪に、くびれた腰と色気のある目。

昨夜を思い出してまたぐらが勃ちそうになる。



「あら、早い出会いだね。その可愛いお客さんはだれだい? 綺麗な色の髪だね」



「あーこいつはパルス。未来の天才ていまー様よ、今日からダチだ唾つけるなよ」



 俺は豪快に笑いながら、パルスの水色の髪を撫でてバルキリーにパルスを紹介する。

バルキリーはにっこりパルスに微笑む。



「この人、見た目こんなんだけど悪い人じゃないからよろしくね。天才さん」

 


 パルスは耳まで真っ赤にして下にうつむく。

人に慣れてない人間が、酒場の女に慣れてるわけがない。

耳まで真っ赤にして、こいつ童貞なのかと好奇心を誘う。



「かわいいねー不思議なコンビだね。はいよエールと子羊の香草焼き」



「お、こりゃ旨そーだ。パルスに乾杯!」



 パルスは、グラスを握り弱弱しく乾杯する。

髪をほめられ、照れるにしても行き過ぎだ。天才と持ち上げすぎたか?



「……乾杯」



 俺は相変わらずキンキンに冷えたエールをグビッグビッと飲み干す。

昼から馬追いかけて走っただけあって、冷えたエールは俺の血液と混ざっていく。

パルスは舐めるようにエールを飲み、苦そうな顔だ。



「パルス、エールとコーヒーはな誰でも最初はまずいって相場が決まってるんだ」


「そ、そうなんですか……」


「一気に飲んじまいな、それを繰り返すうちにこれ無しじゃいられなくなるぜ」




 パルスはエールと俺を交互に見る。

腹を決めたのか、パルスは一気にエールを飲み干す。

ジョッキを置いたパルスの口元は泡だらけだ。



「うぇ~やっぱ不味い……あ、すいません! すいません!」



「ハハハハ不味い物は不味い、謝るなよ! 俺たちは友達だろ? それともそう思ってるのは俺だけかい?」



「そ、そんな……嬉しいです」



 俺がパルスの肩を強引に組み、エールを飲む。

またパルスは下を向いて照れてる、バルキリのが100倍男らしいなこれは。

だが誰でもそうだ、俺も中学上がりたての時は女と話すの恥ずかしかった。



「いいか、パルスなんでも嫌な事に挑戦した奴だけが成長するんだぜ。」



「エールがうまいのも、お前のテイムだってそうだ。なんでも楽して手に入れたら使い方はわからねえ」



 パルスは動物のテイムには誇りをもっていたのか、納得したみたいだった。

エールをお代わりして馬鹿正直にどんどん一気飲みする。



「おぅ、その意気だ飲め! 飲め!」



 子羊のローストに噛り付きながら酒をあおる俺

羊の熱い油が、舌にまとわりついて独特の旨味が口に広がる。

黒コショウのよく効いたスパイシーな味わいに舌鼓を打つ。

それをキンキンに冷えたエールが流してくれる。


 パルスも酔っぱらってきたらしい。

身振り手振りが大きくなって、テンションが上がっている。




「いずれねぇーぼ、僕もドラゴンをテイムするんですよ!そして王都で何匹もなりゃべ……」



「そりゃ、すげーじゃねえか! まぁ飲め!」




 気が付くと夕方、そこにはテーブルに頬をつけて寝ているパルス。

真面目な奴を、気分よく酔わすと面白い。

潰れたパルスを下目に、俺はつぶやく。



「これで、馬の心配はねーな」



 馬は高級な消耗品だ。

その心配がなくなった、しかも馬屋に20GPで馬売っている。

行商みたいに町で直売りすれば100GPが相場だ。

俺が40こいつ40でも80GPなら飛ぶように売れる。


 パルスは潰れながら俺に礼をいっている。

自分の知らない世界を知って楽しいのだろう、若い奴にはよくある傾向だ。




「た、狸さんあ、ありがとう……むにゃむにゃ」



「感謝してーのはこっちだぜパルスちゃん」



 水色のパルスの髪をなでながら上機嫌の俺は、グビッとまたエールを煽った。

どーもこいつの髪はサラサラで撫でるのが気持ちい。

何より金の卵を産んでくれるガチョウちゃんだ、明日の不安とおさばらさせてくれた天使。

そんなパルスは気持ちよさそうに、小動物の様な寝息を立て寝ていた。

俺はそれを横目に、エールから強い酒に切り替える。

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