酒と女と冒険者
港町スカライトは、中世ヨーロッパの街並みを残した商業都市だ。
開放的な雰囲気に溢れ、店や学校そして家々が石畳の道でつながれている。
沖合からの風は潮の匂いがし、そして冷たい。
周囲の丘は雨に濡れて緑に輝いている。
「いい匂いだ、自然ってのはいいねぇ」
俺は上機嫌で町を探索する。
普通の人間はまず銀行に行き金を預けるらしいが、やはりここは酒場だ。
北の方にでかい飲み屋があるらしい。
町の真ん中の銀行付近は人が込み合い、セリのような行商の声が響く。
その行商達に値切る冒険者や市民。値段はあってないようなものだ。
「馬はいかが~栗毛に赤毛になんでもあるよー今朝捕まえてきたばっか100GPだ」
「サイコロふって勝負だ! 掛け金は10GP~1000GPまで受けて立つぜ!」
賑わってるようで何より、だがそれよりも腹が減った。
宇宙船で逃亡してるおとといから、固形食糧2個くらいしか食べてない。
カレーのルウみたいな固く濃い味のそれ。
肉・野菜・チーズと味は何種類かあるが総じてまずい。
馬を皆が止めてる酒場の横に止め、西部劇のような扉を開く。
「いらっしゃ~ぃ! スカライト自慢の酒場イエローキャブへようこそ!」
テーブルには飲んだくれた中年集団がちらほら。
冒険者のような全身金属鎧の3人に、カウンターに数名男女。
昼間っから酒とはいい身分だ。これもこの世界らしさだな。
鎧着てるのは大体冒険者で、冒険者の半分はアバターをかった富裕層だそうだ。
とりあえずカウンターに座る。メニューを見る限り安い。
ワインボトル6gpだ。
「エールとつまみ適当に頼む」
スタイルのいい気の強そうな、20代くらいのバーテンダーに注文する。
バーテンダーは木のジョッキに泡の滴るエールを俺の前に置く。
「見ない顔だねー冒険者には見えないけど、まさかFから来たのかい?」
キンキンに冷えたエールに、生唾を飲む。
冷蔵庫なんてないはずだが、冷えてやがる。
一気に口をつけ飲み干す。
五臓六腑に染み渡るとはこの事だ、冷たい炭酸が喉を焼く。
「プハー! F? この星に来たばっかでな、そこらへん教えてくれよ。あとお代わりだ」
10GPをバーテンダーにチップとして渡す。
空のジョッキとチップを下げるバーテンダーは笑っている。
腸詰めを木の皿に無造作にとると、俺の前にだした。
「いい飲みっぷりだね、場慣れもしてるし気に入ったよ! これサービスね私の名前はバルキリよろしくな」
俺は礼を右手をあげて言うと、エールをあおって腸詰めをつまむ。
プチっと弾ける皮の中から、温かい豚の肉汁が口に広がる。これはうまい。
久々に飯を食べた事もあり、手が止まらない。
「俺の名前は、そうだな狸ってよんでくれ」
自分の名前なんて、犯罪者やってるうちにコロコロ変わる。
いつの間にか二つ名が本名よりゆうめいになっちまった。
「狸?変わった名前だね、さすが外人さんだけあるね。まぁスキルとFについて話すよ」
「Fっていうのはファルッカ、つまりカオス世界の方さ私も1・2回行ったことあるけど。お勧めはできないね。殺戮、窃盗、略奪、強盗、詐欺が毎日見れる、騙されたり弱い奴が死ぬ世界さ」
俺の目が輝く、悟られないようにエールを飲み干す。
これだこれ、そういう世界はどこにでもある。いきなりビンゴだ。
「そりゃ物騒だな」
「見た目的にやっぱファルッカとトラメルに住んでる人間は違うね、あんたはファルッカーに見えたよ」
ファルッカーってのはファルッカ人の事をいうのか。
トラメルとファルッカはゲートで行ける並行世界だ。
つまりこの港町スカライトも、トラメルにもあるしファルッカにも存在する。
「だいたいファルッカ人は最低限の装備に、対人想定の武器や防具を持っているね。逆にトラメル人は対モンスター用の装備に装飾した武器や防具をもってるよ。ほらあそこ」
3人組の男が視線の先にいた。
真っ黒なフルプレートアーマーに、黒いソードと楯黒いマント漆黒の戦士を思わせる。
金色の斧に金色のフルプレートが輝き、マントまで金色な金一色の男。
一人は魔法使いと呼ばれる映画で見た様なとんがり帽子だ。
「鉱石によって武器や防具の色は変わるんだ、あれは金のある駆け出しのお坊ちゃんだね」
簡単に纏めると重装備で、一撃のでかい隙のある武器。
金持ちそうな外見はトラメル人冒険者の特徴らしい。
たしかに中世の貴族の子息はそういう傾向にあるな。
鉱物の中にレアメタルがあり、それによって武器の性能が代わる。
鉄>黒>金>桃>緑>青
桃色のアガパイト以上の鉱石で作った武器や防具は1000k(1000000GP)を超える。
大きい家が買える金額だ、桃以上の鉱石はファルッカにしかないらしい。
ファルッカで採掘して、使用回数の決まった伝説の金槌で最高の鍛冶屋が打つ。
伝説の金槌は一律30回使うと壊れ、色がついている。
桃の金槌で、桃の鉱石を使い桃武器を作るそうだ。
「モンスターとかいるのかここ」
「あんた本当に何も知らないんだね、異世界からそれに剣と魔法に憧れてきたんじゃないのかい?」
「でかいダンジョンが7個小さいの合わせて11で、モンスター同士争う種族もいるよ」
本当に剣と魔法の国なんだな。
「おぃ、バーテン! 君は僕達を馬鹿にしただろう」
突如金色のフルプレートの男が、カウンターまで来てバーテンダーに詰め寄る。
かなり酔っている様だ。顔はフルプレートで見えない。
喋り方から絵にかいたようなボンボンだ。
「いえいえ、聞き間違いですよお客様」
俺は立ち上がる、身長やガタイは俺の方が上だが丸腰だ。
確か町中で揉めてれば、ガードがくるから安全とかいってたな。
他人をあてにしなくても、魔法使いは気になるがこいつらなら大丈夫か。
「馬鹿にしたのは俺だよ。なんか文句あんのか?」
「え… …なんだよあんた。NPCの肩もつなよ。俺らはプレイヤーだぞ」
俺の顔は完全に無精ひげの悪人顔だ、立ち上がるとたっぱもある。
想定と見た目が違う、プレイヤー以外には考えられないガタイの良さだ。
なんせこの星の人間身長170を超える人間ですら高身長でまれなのだ。
俺は190ちょいある。
「プレイヤーさんか、連れが絡んで悪かったね飲みなおそうそっちの料金は奢るよ悪かったね」
笑いながら魔法使いが立って寄ってくる。
NPC
こいつらもゲームじゃない事くらい分かっている、身分差別みたいなもんか。
ただ胸糞悪い俺は
「そうか、ご馳走になるぜ。話分かるなあんたら、悪かったな」
と満面の笑みで答え、バーのヴァルキリにウインクをして会計を盛らせた。
会計にぶつぶつ文句を言っていたが、俺の手前ではカッコつけていた。
「え、150GP……ま、まぁ150GP程度安い安い、オーク5匹でも狩れば余裕だしな」
俺はオークの強さも分からないが、こいつらが倒せるなら大したことないだろう。
久々の酒も入ってた手を叩いてのってやった
「さ、さすが強さがにじみ出てますわ! 俺揉めなくてよかったわーご馳走様!」
その日はばーで飲みあかした。ヴァルキリの仕事終わりに、一緒に違う酒場にいった。
話は悪口から盛り上がる。酒代も盛った金100GPで飲み明かした。
バルキリーは酔うとくっつくタイプらしく。
俺の腕に何度ももたれ掛かってきたので、腰に手を回し介抱するように触る。
嫌がらないので、服の中に手を入れて腰を触ると俺の腕にしがみついてきた。
胸が腕に当たる、これは行けるパターンだな。
「バル大丈夫か?」
胸を触ると吐息が漏れたので、鉄板だ。
大体女とやるときは、話で盛り上げて下心ない下ネタで意識させる。
ボディタッチで本気で嫌がるかどうかだ。
なかなかいい女で、酔いつぶれたバルキリの体を宿屋でいただいた。
初日からただ酒とただで女、順風な異世界生活だ。