ブユウ・アロー・ユウキ
「やめろ」
「え? 兄さんなんて? あぁお先どうぞ当然の権利ですよね」
気のきかせたような、下種な笑い顔にしゃくれた顎。シレネが俺に話しかける。
俺はふぅーっと息を吐き、傭兵達を見回す。
俺は礼の満面の笑みで、頭で作った設定トークをしていく。
アローはユウキを抱き寄せ震えながら俺を見上げている。
「あー兄さんたち済まないね、領主に頼まれてその親子を生け捕りにしろって言われてんだ」
「成程、まぁ味見してからでもいいじゃん?」
「いやいや、人語しゃべれるから変に話されても問題になるんだわ」
「ふーん、あんた真面目だね。モンスターのいう事信じないでしょ、モンスターは人じゃないから人権なんてないんだよ? 安心しなよお兄さん」
そこまでして、オークとやりたいのかこいつらは。
俺とした事が、嫌悪感が顔に出てしまったようだ。
「あーもしかしてむかついちゃった?」
「いや、全く。とりあえずこのオークの権利は俺の物だから」
ッシュとロングソードが俺の頬の横を掠める。
俺は手を振りながら、憤怒を後に誓い営業トークを続ける。
ここはトラメル、人を殺せば自動的にファルッカ行きだ。
「おぃおぃ、物騒だなシレネさんなんの冗談だいファルッカ送りになるよ」
「このオークを賭けて決闘しようじゃないか、そもそも黒弓のアローだ。手柄奪う気なのわからないかな? 馬鹿なのかな?」
「決闘で、死んでもファルッカ送りにならないんですか?」
シレネは懐から赤い手袋を出して俺に投げた。
そして右手に赤い手袋の片方を装着して、しゃくれた顎をさすって脅す。
「左手につけるか、逃げるか選びな。こっちはフル装備6人戦っても死なない程度に半殺しだよ」
手下の傭兵が笑いながら野次を飛ばしている
相当このシレネという男、腕に自信があるのだろう。
「これを付けたら相手が死んでもファルッカ送りにならないのか?」
「あんた図体でかくてドンくさいとは思ってたが、馬鹿な上に無知とは哀れだね。これは決闘アイテムで相手を殺してもカウントされない。何より無知なのは俺を100殺のシレネとしらない事さ!」
俺は赤い手袋を受け取ると、左手につける。
赤く広い光の円ができるやいなや、シレネは剣を構え突きの様に突進してくる。
俺の獲物がハンマーだから、間合いを詰めればいいと思っている様だ。
俺が普通の人間で、このハンマーも普通なら良い戦法だ。
「串刺しさぁ!」
「あー茶番は終わりだな」
俺は逆に前に走りだし、間合いを詰める。
ジョウシュヤ特性1.5倍スピードハンマーに俺の腕力を乗せる。
下段から上にフルスイングする、残像すら見える速さだ。
「な!?」
大振りのハンマーがシレネの脳天を一瞬で破壊する。
首より上が吹き飛んだようだ。
「しゃくれた顎治してやったぜ、花火にしちゃ汚ねぇな」
そして地を蹴り、唖然とするシレネの手下の兵士の真ん中へ飛び込む。
しゃがみながらハンマーを円を描くように振り回す。
傭兵5人の足が吹っ飛んだり、折れたりしている。
「ぎゃあああああああああああああ!」
「ぐおぁぁあぁ!」
俺は傭兵の武器を蹴っ飛ばしていく。
飛び道具はなさそうだ。
「鎧着てるのに、随分もろいな……俺が強いだけか」
「た、助けてくれなんでもする!」
「痛い! 痛い!」
「がぁ、あああぁ」
血の海の中傭兵達は、全員足を折れたりなかったりで。這い蹲っている。
俺は怯えたアローに近寄っていく。
アローの体がビクッと震え、斧を拾ってきたらしいユーキが斧を構える。
「こんな時に獲物離さないとは、やるじゃねーか! つっても人間の言葉わかんねーな」
ゆうきは斧を持って、震えながら……
自分の母と俺の間に入る。
俺は満足したような顔で、バックパックからグレーターヒールの魔法を取り出す。
詠唱に少し時間を待たねばならないが、自動でスクロールが光ってくれる。
アローの右手が逆再生を見るように、治っていく。
「エ、ア……ナゼ」
そして構えるユーキの斧を握ったユーキのこぶし毎握る。
身動きが一切できない、込められた俺の力で感じるはずだ。
しかし凛と俺を見据えたユーキの眼差しは、オークの子供とはいえ綺麗に見えた。
俺は地に這いつくばる傭兵を指さす。
「あいつら殺せ」
意味は分からなくとも、言いたいことは伝わった様だ。
一歩ずつ傭兵に向かっていくユウキ。
母親の横に立つ俺に警戒はしても、逆らう気はない様だ。
「やめろやめろおおお!」
無慈悲にユウキは足が動けない傭兵の命を、斧で摘み取っていく。
横から一人一人殺されていく傭兵達は、いつ自分が殺される番か正確にわかる。
逃げようと地を這う者、俺に命乞いする者。
最後張って逃げた者の真上に斧をふりかぶったユウキが到着する。
「グシャ」
俺はそれを腕を組んで、見届ける。
最後の傭兵を殺し、血だらけの斧と体で俺によって来る。
俺に勝てないのが分かってるのか、斧を捨てた。
「アロ、ガ、ゲグ、アロ、タスケテ」
「あれ? 何で、おめー人語喋れるんだ?」
次の瞬間ユウキの体が光を放ち、七色の光の線がユウキを包み大きくなっていく。
俺の膝くらいの小さな体は、170センチを超えるほどに。
筋肉が隆起して、持っていた片刃の手斧も両刃の大きなダブルアックスに。
そして頭は俺の殺したブユウのように羊の頭骸骨に覆われていた。
アロも口を開けて我が子を見ている。
「……進化ってやつか」
ユウキは頭蓋骨の兜を脱ぎ、俺の前で座った。
「オマエ、チチコロシタ。シカシシンノキョウシャ。チチシアワセ、ハハスクッタカンシャササゲル」
「コノイノチホシイナラヤル」
アローは口を開いた後に、つぐむ。
それを繰り返し、泣いていた。
オークの掟か、進化種族が偉くなるのか疑問が沸くが。
オークが仁義を通した。俺の器量が返答で問われるってもんだ。
「俺は強いか?」
「ツヨイ」
「強さってのはな、自分の我儘を通す力って事だ。大切な物を守ることも、欲しい物を得る事もすべて力しだいだ。男なら恋人と母親生涯この2人の女は守れるだけ強くなれ」
「セイレイガ、チチブユウノコエヲツゲタ。アリガトウ、ワタシモオナジキモチダ」
「いきなり人語うまくなりやがって、笑わせるぜ……ガラでもねーな。じゃあな」
俺は何故か、こういうのに慣れてないのか走り出していた。
ユウキの親父は有名なオークだったんだよな、死体回収してくればよかった。
いや、それはかっこがつかない。しかし……
気がついたら駐屯地に戻っていた。
ドエムルとパルスがジャイアントスコーピオンに生肉を上げている。
遠巻きに人だかりが……そりゃできるだろ。
俺に気付くとドエムルがまた向かってきた。
パルスが止める前に俺の前に走ってきたドエムル。
こいつまだやる気か、と俺はドエムルににらみを利かす。
「あ?」
「この前のパンチもう一回お願いします!」
「あ? え? 何言ってんだおまえ」
「狸の親方! いや兄貴とよばせてください!」
なんかドエムルの顔が赤く染まって、鼻息が荒い。
すねに傷を持つような傭兵団の頭とは思えない、なんというか変態のような顔だ。
何というか百戦錬磨の俺が、後ずさりしている。
「おねがいします! あんな凄いのオーガいやもっと、たまらないですハァハァ」
いきなり上半身の皮鎧を脱ぎ始めた。
筋肉は締まっていて、歴戦の古傷が刻まれた戦士の肉体だ。
俺はどうしていいのか唖然として、口をあけたままドエムルを見てしまった。
「バシーン!」
パルスの鞭がしなり、ドエムルの足に命中する。
跪くように倒れるドエムル。
「パ、パルス様!」
「人様の前に出るにはその卑しい餌豚の性格を、再教育してあげないとね」
「パルス様! 私は卑しい豚です是非罰を! 是非!」
パルスのハイヒールで尻を踏まれたドエムル。
気がつけばドエムルの傭兵団、全員が調教済みのようだ。
皆涎をたらしてパルスを見ている。
最初の女をみる涎の方が正常といえるだろう。
「あ、た……狸。この子達の調教終わったら馬車戻るね。今日は何してたのかな?」
「あ、あぁ……なんか疲れたから寝るわ。今日はなんか全部調子狂うわ」
「そ、そなんだ。ゆ、ゆっくり休んでね」
ドエムルがヒールで踏まれながらパルスを見上げる。
「パルス様は狸様の前だと、別人になられるんですね」
ドエムルの背中に鞭がバシーンと振るわれる。
そしてドエムルの背に馬乗りになる、赤と黒の革ボンテージ女王様コスチュームのパルス。
「グッフ! ハァハァ パ、パルス様」
「お披露目も出来ない恥ずかしい豚だよお前は、豚が人の言葉しゃべってるんじゃないよ」
パルスは太ももでドエムルの背中を締め上げる。
ドエムルの手下は羨ましそうにそのやり取りを見ている。
もはや駐屯地の名物になったといっても過言ではない。
「ブ、ブヒ! ブヒヒ!! ブヒーーーーーー!」
その声を馬車で聞き、耳をふさぎながら頭を抱えて寝る俺がいた。
「ガキのオークの方がマシって俺の手下どうなってんだ……」