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プレイヤーキラー  作者: 狗
欲望と野望
15/75

オークの連携

 ここの司令官の馬車がありそうな馬車群中央に向かって、歩いて行く。

周囲は人間とオークが切り結んでおり、金属音と悲鳴がこだまする。

地は赤く染まり、両種族の死体が散乱している。


 激戦の戦場でも、向かってくる相手を瞬殺しすぎると相手方は向かってこなくなるものだ。

吠えても範囲には近づかず、俺が近くによると戦闘中でも必死に下がる。

戦う人間の兵士は俺を見て士気が上がり、背を向け逃げるオークを屠っていく。

指揮をとるわけでもなく、俺がいるだけでこの戦場の精神的主柱になってしまった。

つまり将の役割をしている。

ただまったく面白くない。



 そんな時、遺品のペンダントが地面に落ちる。

ペンダントのロケットが開き、兵士の愛娘の写真が目に入る。

俺は無言で、その遺品を拾う。



「お礼はしっかりしねーとだよな、気分悪ぃわ」



 俺は指揮官の方ではなく、矢の飛んできた右の森に進路を変える。

矢の掃射で死んだ飼い主の顔を舐めている栗毛の馬がいた。



「おめーも、仇討ち行くか」



「ブルルルルルゥ」



 その馬に乗り右の森へ掛ける。

木々の合間を抜け、向かってくる3人組のオークをハンマーで吹き飛ばしていく。

騎馬に乗った人間というのは、巨大な熊と同じくらいの大きさだ。

オークは小柄で視点を例えるなら、目の前にダンプが突っ込んで来ると考えてほしい。

それが武器を持って、正面から突進してくるのだから怯む。

その怯みは一瞬で命を奪う。



「ギ、ゴギギイギ!」



 俺の殺戮劇を遠目で見ている集団がいた。

オークの部隊長である彼は、どれもボロボロだがリングメイルにロングソードを装備。

人間の兵士クラスを、数多く屠ってきた歴戦の強者である風格がある。

ぼろぼろのロングソードを掲げ、そのオークが吠える。

周りのオークが集まり、ロングソードを持ったオークに頼るようオーク達が吠え合う。

犬歯をむき出しで吠える姿はジャングルの猿のようだ。



「ガァー!ガァー!ッグガ!」



 3人組が集まってゆく。集から陣へ戦略が進化する。

俺の正面に数で対抗するべく、36匹のオークが陣を組み正面に陣取る。

全員が槍でも持っていれば槍衾が組める。しかし包丁や鈍器ではそれはかなわない。

その群れに俺を乗せた馬が突進し、数匹が蹄で踏みつぶされる。

その後で上空から、残像すら見える速度で振り回される金属の塊。


 その悪鬼羅刹がハンマー振るたびに、目の前の同胞の体が弾ける。

赤黒い鮮血が、草や木を染め内臓を地に飛び散らせる。

集まった事が、逆に不幸を呼んだ。

圧倒的戦力差の前では、集まる事は愚策だ。

分散した蟻が数十匹集まろうと、踏みつぶす手間が減るだけだ。


 右手でハンマーを振り回し、左手でオークの頭を掴んでは振り回し潰す。

ロングソードをもって中心にいた歴戦のオーク隊長は、歴戦の強みを見せる事もなく。

他のただのオークと同じように、吹き飛ばされ死んだ。

そのオークの最後に目に映った者、暴力その物だった。

俺は自分でも気が付かないうちに……笑っていた。



「グガ!ググググウッガガ!」



 俺の突撃後生き残った10名ほどのオークが、背を見せて森へ逃げ出す。

逃げても背を負う馬の方が早い。戦意をなくしたオークの背を摘み取っていく。

もはや殺し合いではなく蹂躙だ、恐怖は伝染しオークはどんどん俺から逃げていく。

逃げる相手を殺すのは楽だ。



「おい! 雑魚らしく、死に方で俺を楽しませてくれよ!」



 逃げたオークが殺されるのを目撃したオークがまた走って逃げだす。

横道にそれたり、木に登って逃げたオークは生き残る。

だがもう恐怖に怯え戦えない。



「ギャッガァ!」



 木の上からオーク3体が、俺にとびかかってくる。

進路方向から待ち伏せされたようだ。

一匹は普通に地面に落ち、一匹はハンマーで飛ばされた。

馬の速度もあり振り落とされたオークは、ゴロゴロと転がり地面でバウンドする。

一匹だけナイフを口に咥えたオークが、馬の尻にしがみついた。



「キイィィ!」



 馬の尻をよじ登り、振り落とされないようにナイフで俺の背を刺そうとする。



「っち邪魔くせーな」



 俺は手綱とハンマーを両手に持ち、背後に迫るにオークに後頭部で頭突きをかます。

怯んだオークに右裏拳ならぬ裏肘。

エルボーをお見舞いすると、断末魔と同時に馬から落ちてった。



「ギャアアアアアアアアアア!」



 運悪く、オークは森の木に馬の速度でぶつかる。



「グシャ!」



 視界にはオーク3人組が20組以上バラバラに見えるが、この有様を見て我先にと逃げ出す。

直線状のオークを血祭りに上げ猛スピードで馬と駆ける。

殴った場所がへし折れ、鈍器の衝撃がオークの内臓の行き場を失わせ口から吹き出る。



「お……見つけたぜ」



 小高い森の中の丘の様な草原に、オークが300程弓を丘下へ向け撃っている。

おそらく正規軍の馬車バリケードに向かって撃っているのだろう。

正規軍の方から飛んでくる弓が何匹かに刺さり倒れるが、一心不乱に弓を撃っている。

距離は100メートル、障害物はない。このまま行く。




「おし! 仇を撃つぞ! 気合をいれろや!」



 馬のわき腹を蹴り、突進する。

どうやらこの馬もやる気だ。相手が主人を殺したのが分かっているのだろう。

顔に血管が青筋を立て、鬼の形相で主人の仇を睨み突進していく。



 弓のオーク達も気が付き、300匹全員がこちらに弓を撃つ。

丘から発射された矢は放物線を描き、幾多もの矢が天を染める。

俺は体をかがめ、腰を浮かし全速力で馬を走らせる。

左肩に矢が刺さるが、皮鎧に防がれ貫通しなていない。これなら多少強引でも問題ない。

アドレナリンが脳を赤く染め上げ、痛覚が鈍くなる。


 丘下で待ち構える50匹の守備隊を突破すれば、オークスカウトを一気にぶち殺せる。

今の俺にオーク50匹は妨げにもならない。

オークと騎乗した俺の身体能力差は、50という数では覆せない。



「豚の様に断末魔をあげてくたばりな!」



 俺は大声で叫ぶ。その叫びに、理解はせずともオークは怯む。突入準備ができた。

もうすぐこのオーク達の断末魔が聞こえ、懐に入った弓兵はなすすべもなく狩られる。

数の安心をこの20匹を一瞬で突破して、恐怖へ突き落とす。


弓兵を守るはずの、オーク戦士2匹が戦う前から左の森に向かって逃げ出した。

戦場の恐怖は伝染病だ。弓兵側がこれで1匹でも逃げれば崩壊が始まる。



ヒュルルルルルルゥゥウ!



 風を切るような音と共に、オーク2匹の首が跳ね飛ばされる。

血に濡れた大きな斧が俺の方にも、ブーメランの様に回転して迫る。

そして騎乗している馬の首を落とすつもりらしい。

投げ斧が刺さるのをハンマーでたたき落とす。



「ふぅ、ちょっとは使えそうな雑魚が現れたみてーだな」



 斧は地に叩き落されると、煙を噴き出し消えた。そして持ち主の手に元へ戻る。

雄羊の如くねじくれた角のついた頭蓋骨。

オークヘルムと言われる兜だ。


 読書家のパルスに調べさせたオークの生態。

その中の進化種の項目に当てはまる奴だ。オークリーダー以上だったか。

オークの強い戦士が装備できる羊の兜で、顔全体を覆っている。


硬そうなリングメイルと両手斧で武装している。

身長は170程で、筋肉質な胴体を隠す程の両刃大斧。

浅黒い肌の色から見るに、大型なオークだ。

リングメイルから出た腕は、丸太の如く太く筋肉質だ。



「ガゴオォォオォォォォ!」


 

 周囲のオークが雄たけびを上げる。

皆が手をあげ士気が跳ね上がる、それだけこの体躯のいいオークが強者と言う事だ。

弓兵は正規軍が迫ってきたのをけん制する為に、矢を元の場所に放つ。



「グ……ゴロス」



「人様の言葉しゃべれるのかよ豚君」



「ナイゾウヒキダス……クソカケル」



「口説き文句としちゃ、60点てとこだな」



 斧を頭上に振り上げ右上段の構えを取り、じりじりと円を描くように動く。

斬り下ろす攻撃に限れば、全ての構えの中で最速の攻撃の構えだ。

逆に言えば捨て身、剣道などで格上に対して構えると煽りと思われる構え。



「俺相手に上段とかなんの冗談だゴミが」



 騎乗した俺に、上段とはやはり蛮族は蛮族だな。

馬鹿力が自慢の様だが、一瞬で殺してやる。

俺の目が血走る、馬の腹を蹴り突撃する。



ヒュッン!



 黒い矢が馬の太ももに当たり、馬がバランスを崩す。

そこに大斧が振り下ろされ、馬の首が飛び血を噴き出しながら倒れる。

俺は地面に投げ出され、転がりながら着地する。



「っち……っな!」



 目の前に大斧を振りかざしたオークが俺を見下ろしている。

そして一閃斧を振り下ろす、俺は半分転がりながらよける。

轟音と共に地面に大斧がめり込み、土ぼこりを上げる。


スキルか何かで強化されている。鈍い痛みと共に、背中に黒い矢が刺さる。

豪速の速度で振られる斧を避けながら、後ろの矢を意識する。

痛みから察するに、毒は塗られてないのが不幸中の幸いだ。



「っぶねーな、この黒矢が邪魔だな」



 この黒矢だけは、他のオークの矢と違い皮鎧からでも刺さる。

しかも森の中で同じ場所から二回撃たないので、予測もできない。


オークヘルムのオークは骸骨を被って顔は見えないが、何か笑っているように見える。

調子に乗って斧を速度と威だけで何回も振る。

斧振り切りのタイミングで、黒い矢が飛んでくるのでそれを避ける。

そこにまた構えなおした斧を振られ、攻撃のタイミングが難しい。



「……糞が」



 冷静にならねばならないのだが、怒りで我を忘れそうだ。

こんな格下が弱者なりの連携をとって、余裕すら持つだと?

俺相手に余裕? 舐めてんじゃねーぞ。



「グヒ」



遂に笑いやがった。

俺の頭で何かが切れる音がする。

振られる斧にハンマーを打ち下ろす、相手はバランスを崩し黒矢が飛んでくる。

俺は矢を避けずに一歩前に進む! 矢が背中に刺さる。

がこの痛みなぞ、舐められる痛みに比べば意味はない。



「っぐ」



「おおおおおぉぉおぉぉお!」



「グ、グガ!?」



 歯を食いしばり、斧を構えなおすオークヘルムにハンマーを上段から本気で振り下ろす。

斧のガードを突き破り、ひしゃげた斧。

オークヘルムを割り、頭と首は胴体の中に沈む。


 そしてもっかいハンマーを死体に目掛けて振る。

鈍い音と共に、死体はミンチになる。





「人を舐めるときは命を賭けろ、お前の命じゃ俺を舐めるには安すぎたな」



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