オーク
どうもパルスの奇策が功を奏したらしく。
山賊崩れの様な傭兵だが、戦場では有名な連中らしい。
ドエムル率いる傭兵団精鋭50人が部隊に入った。
全員冒険者の資格を持っているので、魔法強化牡牛より強い事は判明している。
俺らの前の馬車に乗っている様だ、後ろの馬車はサソリ5匹。
「あーあのサソリはどうしたんだ?」
「あ、あれ? ダンジョンで捕まえて来たんだよ!」
さらっというが、スカライトにそんなエスコートできる強い人間はいない。
居たらここにいるはずだ。
「ダンジョンってパルスだけじゃ無理だろ」
「うん、ゲラスさんと馬具買いに王都に行った時ナンパされて」
「ナンパって誰が」
「あ、僕が」
「あー、まぁいいそれでどうなったんだ」
「僕がテイムできるレベルで強いモンスター欲しいって頼んだら、手伝ってくれたの」
「そうか。で、そいつは誘わなかったのか?」
「なんか歩いてる時もずっとお尻触ろうとするし、宿屋に凄い誘うから逃げちゃった」
「そうか……」
パルスを女と勘違いした男か、今話してる内容も女みたいだが。
新しい世界に目覚めない事を祈るばかりだ。
一瞬パルスでエロい妄想をしたが、やはり男は無理だ。
頼んだらやらせてくれそう……何を考えてるんだ俺は、そこの線引きはする。
世間様的に、昔俺のいた場所ではロリコンは苛められるのに男色はスルーだった。
刑務所の常識がマインドコントロールされているのか。
馬の嘶きと共に、馬車がとまる。
窓を少し開けると砦についたみたいだ。
砦防衛ときいていたが、普通に兵士が笑いながら話している。
戦闘していたのはかなり前にすら見える。
馬車を降りると、眩しい程太陽の光が降り注ぐ。
まだ昼くらいだな。ドエムルが話を付けたらしく、ここからは馬だ。
パルスは降りるとまた人が変わる。
本人必死なのかそのキャラを気に入ったかは俺にはわからない。
とりあえず、役人に話をつけてきたドエムルがパルスの元に走る。
そして水滴のついた冷えてそうな黒いブドウを渡している。
「パルス様どうぞ!」
パルスは興味なさげに葡萄を受け取ると、一粒取り皮ごとゆっくり口に含む。
その姿をドエムルや傭兵たちが凝視している。
パルスの蒼く透き通った冷たい目が、あたりを一瞥する。
そして傭兵の持ってきた筒に、パルスは口に指を入れ余った葡萄の皮を取ると入れる。
「パルス様! 一生ついてきます」
「ずっとそんなこと考えていたの、君変態だね」
―――絶対パルス、お前好きでやってるだろ。
どちらにしろ俺の立ち位置を一から作らないといけないな。
と考えながらパルスの方を見ているとドエムルに睨まれた。
勿論俺も目をそらさない
ドエムルの身長は170センチ、俺は190。
この世界では随分高身長でがたいもそこそこ、それなりに自信があるのだろう。
俺はドエムルに近づいていく。
ドエムルは眉間にしわをよせ、俺を威圧している
「あ? てめー誰睨ん」
俺の右ストレートが顔面にめり込みドエムルが地面に吹っ飛ぶ。
そこに走り、ドエムルの顔面を力を込めて何回も踏んずける。
地面が鼻血でそまり、倒れこむドエムル。
ドエムルの手下が俺を止めようとするが、体をおさえようとするだけだ。
その手下を殴り飛ばし、ドエムルの背中をまた蹴り飛ばす。
ドエムルは動かなくなり、土埃まみれのゴミのように転んでいる。
「狸!待って!」
パルスが間に入ってきた。
俺はパルスをぶん殴ろうとしたが、女装したパルスは女にしか見えない。
地べたにうずくまるドエムルを庇う様に、間に入ってきた。
男と分かっていても、勢いがそがれる。
「っち、教育しとけ」
吐き捨てるように言い残し、馬車の中に戻る。
馬車の中で干し肉を噛みちぎり、ワインをぐびぐび飲んで蓋をする。
何事も中途半端はよくない、中途半端に喧嘩をすれば遺恨が残る。
根性あるやつは何度でも向かってくる。
しかし敵対したら殺されると思えば、根性だけで人は向かってこない。
「あー不完全燃焼だ、なんかねーかな」
俺のいる馬車の横を、兵站部隊と思われる食料を積んだ馬車が進む。
護衛が馬で回りを警邏してる事から前線に向かうのだろう。
頭では立場もはっきりできたし、良かったと思いつつも。
勢いをパルスに消された分、暴れ不足だ。
馬を飛ばしてオークって奴を威力偵察してみるか。
俺は腹ごしらえをすると、馬に乗って物資部隊らしき馬車をつけ前線に向かった。
警邏しているのは全員同じ鎧、馬具から正規軍みたいだ。
数は馬車の中にもいると考えて、300人程度かな。
チェインメイルと銀の兜。武装は槍に、腰に掛けたメイスかロングソードって所だ。
馬に乗った正規軍風の男に話しかける。
「おーい、この食料は前線にいくんだろ?」
「そうだが、あなたは?」
「あ、失礼した。俺は義勇軍の兵なんだが仲間とはぐれちまってね」
「成程、そういう事なら前線のトリン平原へ向かうから一緒にくるといい」
「トリン平原はどんな感じだい?」
「平原は残党狩りだ、それまでの道は確保されているからピクニックみたいなもんさ」
「なるほどねー」
あまり激戦は期待できないが、まぁオークって奴を直に見とかないとな。
この中年の兵士と一時間程、世間話を交えながら情報を得ていく。
なんだかんだ打ち解けた。
「そうそう、これが俺の娘でよーこんな戦争はやく終えてかえりたいぜ」
写真に限りなく近い絵が、中年兵士のネックレスのロケットに入っていた。
なかなか嫁も娘も美人だ、娘はまだ8歳程度か。
「親父は嫌われるぞ、今が一番なついてる時期だからな早く帰りな」
「いやいやいや、俺は父親のお嫁さんにっていうくらい可愛い子に育てて見せるさ」
「みんなそーいうんだよな! ガッハハハハ」
「あんた見た目の割にいい奴だよな、最初警戒した……ぜ」
ッドサっという音と共に中年兵士が馬から落ちる。
腹に矢が刺さっている。
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
無慈悲な矢が天から降り注いでくる、倒れた中年兵士の背中にどんどん刺さる。
馬も倒れそこら中で悲鳴が上がる。
「敵襲! 敵襲うぅぅ!! オークスカウトだ!」
ガンガンガンと鐘の音が鳴り響く。
兵士が慌ただしく動き出し、戦闘が始まった。
「全員抜刀! 弓隊打ち返せ! 右側の森だ! 物資を乗せている馬車は全速力で拠点へ走れ!」
300名の物資輸送部隊の指揮官が指揮を執っている。
正規軍だけあって迅速に指揮官に従い、馬車を盾に弓を打ち返している
矢の雨がやみ、オークの歩兵部隊が突撃し乱戦とお決まりのパターンだ。
俺の馬の脳天に矢が刺さり、俺も地面に着地する。
死んだ馬の鞍を外し、持ち上げて楯にしながら中年兵士の死体に向かい歩く。
俺は足元で死んでいる中年兵士に一瞬手を合わせ、ペンダントをはぎ取る。
「……名前もきいてなかったな」
「ぎゃあああぁ、助けてくれやだやだぁ! ぐぁぁああ!」
戦場では、感傷に浸る暇もない。
横にいた兵士が馬から引きずり降ろされ、腹を錆びた包丁で裂かれ殺された。
オーク達は笑いながら何度も兵士を突き刺している。
森から身長150センチ程のオーク歩兵集団が突撃してきた様だ。
口からは牙を生やし、不潔そうな布で下半身だけかくした浅黒いオーク達。
乞食の様な小便の匂いが鼻を刺す。どうやら次の獲物は俺か... ...。
「俺も暴れたい気分だ、おらさっさとかかって来いよ」
オークは3体で1組の様で、一人が武器を武器で受け止め残りがめった刺しにする戦法だ。
奇襲というのもあり、矢傷を負った兵士や単独の者から狙われている。
「ギギイイイイイギキィ!」
「何言ってるか分かんねーよ」
黄ばんだ犬歯をむき出しにして威嚇しているオーク。
その顔面にハンマーをフルスイングする。
加速したハンマーの先はオークの脳天を吹っ飛ばし、割れたスイカの様に地を染める。
残り2匹が死体遊びからこっちに向かってきた、獲物はこん棒とナイフか。
「ガ、ゴガゴオゴオオゴゴゴオォ!」
「粋がってねーで、さっさと来いよ」
「グガゴオオオオ!」
前に出てきたナイフを持ったオークの足に、右上から袈裟切りのようにハンマーを振り下ろす。
ゴキンと鈍い音と共に、両足の骨を折った様だ。
吹っ飛んだオークの頭をうえからハンマーで叩き潰す。
「ギャアァァァァァ!」
それを見て逃げようとするこん棒オークを走って追っかけ、頭からハンマーで叩き潰した。
遠巻きにいたオークは蜘蛛の子を散らすように逃げる。
「悲鳴は人間とかわんねーんだな」
体格差から、小学生相手に喧嘩した気分だ。
ここらへんは俺のせいで一気に消えちまった。
とにかく指揮官の元に向かって歩いて行く。
「ギイィィイィ!」
叫んだオークの頭が柘榴の様に弾ける。
何匹が襲ってきたが、一撃で終わる。
身長が大人と子供くらいの差があって、武器もナイフとハンマーでリーチが違う。
すばしっこいかというと、動きは鈍い。怪力と聞いていたが、正直分からない。
「オークってこんなもんか、にしてもどうやって換金すんだ。金もってねぇしな」
バルキリと出会った日、一緒にいけ好かない冒険者の伝票を盛った。
その冒険者がオークの事話してて、気にはなっていた。
汚いオークの下半身の布を、死体を蹴って脱がしたが金目のものはなかった。
とにかく指揮官の方に行けば、何か進展があるだろう。