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プレイヤーキラー  作者: 狗
欲望と野望
13/75

パルスの意外な一面


 この世界のオークは、浅黒い肌と獣のような目と牙を持っている。

身長は150センチ程で、この世界の一般人160センチより低い。

その体格はゴブリンよりも一回り大きく、非常に力が強いとされている獣のような目と牙。

山間や沼などに住む食人亜人種族だ。

旺盛な生殖欲があり、他種族の哺乳類系亜人にならオークの子供を産ませれる。

一か月に4~6人程生まれる。


 何故オークの話を始めたかというと、間もなく戦場のコブスにつく馬車の中だからだ。

50名集めるはずの戦力は……現状2名。なんとも情けない。



「成程、元より2名で行かれるつもりでしたか。戦費や兵站の話は、信用を確かめ合う為……勉強になる」



 エラッソが感謝していたので、そういう事に。

むしろ2人いれば余裕という流れで話をしてしまった。

まさか手下ほぼ全員が最低条件クリアできず、冒険者登録出来なかったなんて。


 冒険者のテストというものがある。

モンスター討伐の義勇軍は冒険者登録が最低条件だ。

冒険者以外は戦争中でも軍と情報共有できない。責任も個人でとらされる。

無駄な犠牲を出させないよう、底上げを狙ったシステムの様だ。


 テストは食肉用の雄牛と囲いの中で、武器防具を装備し一対一で戦いをさせる。

角のない若い雄牛に、援護魔法3サークル目の魔法ブレスをかける。

身体能力と筋力が上がる魔法が精霊の息吹きことブレス。

家畜と戦い勝って命を奪い、それを喰らう。

敗れた者の命を食べる事で、覚悟を決める儀式が冒険者の儀式らしい。

ブレスをかけられた牛は、関節や急所以外の防御力があがり鎧の様に剣をはじく。



「ブモオォォォオォォ!」



「おっしゃ、牛なんて盾でそらして剣でドンよ!」



 数秒後、若牛に吹っ飛ばされ柵に叩きつけられる挑戦者。

思ったより強化された牛は強いらしい。

冒険者登録組合の吟遊詩人が、象牙でできたハープを鳴らすと牛は沈静化される。



「そろそろ僕の出番かな」



 フェンシングで使われるような剣を、くるっと振り男が柵の中へ。

羽根つきの三角帽子に真っ赤なマントは、三銃士を彷彿させる。



「悪いな、君の命を踏み台に次のステージに自分を超えてゆくよ。痛みも苦しみもなくこのレイピアで止めを刺すのが最低限の慈悲。どうかこの罪深き僕を恨まないでくれ」



 数秒後、若牛に吹っ飛ばされ柵を言葉通り飛び越え草むらに突っ込む挑戦者。

それはスムーズに、吹っ飛ばされるために並んでいるような挑戦者たち。

ポロンポロンとハープが鳴る。

大人気のアトラクションの様に、どんどん並びどんどん牛に倒される。

常にハープをポロンポロンと鳴らす、吟遊詩人の顔も苦笑いだ。



 スカライトのゲラス配下のチンピラも自称冒険者も、誰も牡牛に勝てなかった。

酒場でドラゴンを殺したと自慢していた冒険者は、開始30秒で柵から強化牛に投げ出された。

そもそも冒険者じゃなかった。


 かなり期待というか、計算に入れていた自分が恥ずかしい。

そして村の冒険者になりたい、若い連中全員が失格した。

俺の出番だ。



 吟遊詩人はクスクスと笑いながら俺に話しかける。

何かと所作が、鼻につく男だ。


「狸さん誠に言いずらいのですが、参加者547名中合格者は……0です」



 正直絶望してるの俺だが、こいつはエラッソに雇われている。

この結果が伝えられるのは非常にまずい。



「あー……悪い悪い、言ってなかったな。俺の手下は皆大きい仕事でダンジョンに行ってるんだわ。これは俺がスカライト市長になったお祭りイベントでな。エラッソに兵站軍費の話したのは信頼を確かめただけだ。気にしないでくれよはっはっはっは!」



「あ、あぁ! そういう事でしたか。一般人のイベントだったのですね。さすがに依頼者のエラッソウゼーン様に報告にするにしても、余りにも酷い結果だったので。その旨もお伝えしときます。あ、狸様も一応定例的にやっていただきたいのですが」



「おぅ、牛が使い物にならなくなるから祭りの後でやるさ」



「大丈夫です回復系魔法使いも数名きてますので。ふぅ……今お願いします、もしかしてできない理由とかありますか? 体調が今日はよろしくないとかでしたら仕方ないですねぇ~」



 俺を完全に疑った様な吟遊詩人の目。

俺も張りぼての虎かどうか、確かめるつもりだろう。

こんな文科系のもやしの様な男に俺が舐められている。



「ははははそりゃ、そうだな。じゃあ今からやってくるわ」



 俺が柵に入ると、落第した男連中が他人事の如く腕を上げ応援する。

会場の温度は沸点にまで達している。



「うおおおおおおおおおおおぉぉお!」



「狸さんの番だ! 頑張ってくれ! 市長!」



「しっちょう! しっちょう! しっちょう!」



「では開始!」



「ブモオオオオオオオオオオ!!」



 薄白い光を放った牛が突撃してくる。

直線的な突進の上に遅い、皆突撃して吹っ飛ばされると言うより柵まで押されていた。

俺は素手で何もせずに突っ立ったまま、牛が突っ込んで来るのを見ている。

鈍い音と共に、俺の腹に牛の頭が突っ込む。



「これに吹っ飛ばされたのか、あいつら……まじか」



 俺の腹を押しながら、ふんふん押そうとしている牛。

俺は牛に押されたまま、吟遊詩人の方を見てにっこり笑う。

牛の胴体を持ち上げ、力の限り吟遊詩人の方の柵に牛を投げつける。


 柵上に牛は激突し、柵が粉々になり瓦礫の上に横たわる。

吟遊詩人や、その近くの見物客は腰を抜かしている。

俺は吟遊詩人に近づいていく。



「柵が使い物にならなくなっちまったな、おいエラッソに伝えとけ。俺の仲間がダンジョンから戻ったらお前の手下が馬鹿にした責任は取ってもらう」



 吟遊詩人の男は、半泣きで腰を抜かしながら俺に謝った。

その後吟遊詩人から聞いたのだが、冒険者登録用の相手は山羊を使うらしい。

おそらくエラッソの兵站費用をけちる為、合格者を減らす指示だろうが。

こいつが独断でやったと言い張るので、部下の不手際をエラッソに金で解決する様に伝えろ。

と伝令代わりににした。




 翌朝戦場に向かう馬車で、真っ白いローブに包まって馬車の対面に座るパルス。

パルスは、俺の気絶させた強化牡牛との戦いにあの後勝てた。

馬を6体テイムして、牡牛けしかけるというえげつない手だがテイマーなら武器扱いらしい。


 戦場でいちいち馬買うのも馬鹿らしいが、パルスが居れば馬を捕まえてこれる。

ボロボロになって踏みつけられて、死んだ牛は昨日の晩飯だ。

さっきから窓を開けたり、閉めたりしている。

馬車は列になり、街道を走っている地方自治体から義勇軍が集まってるのは本当らしい。



「た、狸! 緊張するね、僕戦争とか初めてだよ……」



「はぁ……」



「狸!? どうしたの? 怒った? 僕変な事いったかな……ごめん」



「パルスじゃねーよ。はぁ、ちっとほっといてくれ」



「分かったよ狸! あ、あそこ見て煙が出てる! 凄いよ見て」



 初陣で動揺しすぎて、落ち着きのない中性的な顔の少年パルス。

女の恰好をさせたら、間違いなくいい女に見える。

旅の同行者もいい女ではなく、女顔の男だと思うと悲しくなる。



 香ばしい、燃える煙の臭い。

この香りに俺は顔をしかめ、武器を手元に引き寄せる。



「火薬の硝煙の匂いか……戦地は近いみたいだぜパルス」



 横を見ると、靴を脱ぎ棄て素足をバタバタさせながら窓の外を見ているパルス。

ローブで膝まで生足見えるってことは、皮鎧すらきてない。



「おぃ、遊びにきてんじゃねーんだぞ。そろそろ気を引き締めろや」



「き、気持ちわるぃよぉ」



 馬車酔いしてやがった。俺は右手で自分の顔を覆い前途多難に悩む。

使えないにもほどがあるぞ…… 



「さっさと着替えろ」



 ローブの中でもごもご水着を着替えるように皮鎧を着る。

煮え切らない野郎だ。遠くで大砲の音が聞こえる。



「ッヒャ!」 


 

 その度に飛び上がるパルス。

気合も期待もない相方に、事の展望が全く見えない。

何度も声にならないため息がでる、遠足の引率者じゃないぞ俺は。



 どうにか駐屯地についたようだ。

馬車群がとまり、名前や身分を行商が叫び皆が下りていく。



「スカライトからかの有名な鬼狸パルス御一考です」



 馬車から降りる広場には、小汚い傭兵が集まっている。

正規軍は、重要な人物以外出迎えに参加していないらしい。

ボロボロの皮鎧や一部だけの金属鎧。武器も突ければいいような刃こぼれしたソード。

見た目は中身とはよく言ったもので、商売敵の援軍に野次を飛ばしている。

俺ら馬車群は徴収された地方自治体の農民兵が主だ。



「どいつもこいつも大したことねーなぁヒャッハッハ」



「かかしに剣持たせたほうが使えるっすねー次とか2人っすよ2人」



 俺らの馬車が開き、赤いカーテンから

黒い金属の塊に赤い血管を思わせるような装飾禍々しいハンマーが顔を出す。

そして身の丈オーガの様な筋骨隆々の男が現れる。

真っ黒な髭と真っ黒なボサボサの髪、全てを憎むような冷たい目。



「ここが戦場か」



 傭兵たちは強さや恐怖に敏感だ。

咥えてたタバコを落とし、口をあけたままの男もいる。

飲んでた酒瓶を皆が地面に置く。



 俺がにらみを利かせていると、次にパルスが下りてくる。

赤と黒の縦縞のコルセットに黒い革の帽子、そして網タイツ。

まさにSMの女王様だ、女顔だけあって完全に上玉女に見える。

戦場に、ハイヒールの女。まわりの野郎から歓声が聞こえる

俺がなにより驚いた。



「っな! っぱる」



 すぐさま俺の変えた空気が弛緩し、野次が飛ぶ。



「かっわいぃ! 姉ちゃんこの後どうだい?」



 俺のビビらせた空気が台無しだ。

俺も驚きの表情を出さないように努力したが。

完全に俺ですら、不意打ちの急展開に飲まれた。



「ヒュンッ」



 荒野に鞭が振りかざされ、鞭の跡が大地に刻まれる。

そして冷たい目で傭兵たちを一瞥するパルス。完全に別人だ。



「神より私を崇めなさい」



 周りの山賊達は無言で、リアクションが取れずパルスに魅入っている。

パルスがつかつかとヤジを飛ばしていた傭兵の頭に近づいていく。

そして無精ひげの顎を片手の指で掴み、口がつきそうなほど接近する。



「誰が休んでいいと言ったのかしら」



「お、あぁ。ん」



 傭兵の頭は突然の展開に狼狽している。

なんせ俺ですら収拾に頭が追い付かない、当事者の傭兵隊長は混乱の中だろう。



「椅子」



「お、あ。いいぜ座りな」



 座ってる椅子を差し出そうと立ち上がる傭兵頭。

それをパルスは、軽く突き飛ばし椅子に座らせる。

その山賊を背もたれに、上から足を組んでパルスが乗っかる。



 座られた傭兵頭は、タイミングを逃す。

ただ、その青い髪からいい女の匂いがするのだろう。

ここは戦場で相手はオークだ気持ちは分からなくもない。

傭兵頭はパルスのうなじの匂いを嗅いでくんかくんかしている。

完全に俺は部外者。パルス劇場のおつきの人になっている。


 

 パルスが人間椅子に座ったまま鞭を振り、周囲がびくっとする。


 カサカサカサ、カチカチカチ。

上顎と脊椎動物の足音、なにか後ろの馬車からでかい虫のような足が出てくる。

見た人間の顔は引きつり、馬車の馬が怯え暴れている。



 ジャイアントスコーピオン

体長3メーターあるサソリのモンスターだ。

一発で毒持ちと分からせる外見。4畳半を埋め尽くすような体積と、低い体高。

固い表皮は日の光を反射し鈍く光る。それが5体次々と馬車から降りてくる。



「役者はそろったわね、椅子お前の名は」



「ド、ドエムルと申します!」



「あ、あ貴女様のお名前は!?」



「下僕の分際で私の名前が欲しいの?」



「あ、あぁ……はぃ!」



「私の名前はパルス……私のためだけに生きなさい」



「はぃ! パルス様!」



 傭兵とパルスの上下関係が綺麗にはまった。

口を出すにも、あれだし結果良い形になってるし。

なんか違う気もするんだが、これが最善だった気もする。



 馬車の中で無言がまっていた、窓の外を見るパルスを何度も見てしまう。

パルスも女王様の見た目で外をずっと見ている。



「その服、どうしたんだ?」



 俺の方に一気に振り返るパルス。

白い肌は熟れたリンゴのように赤みが掛かっている。

相当恥ずかしいのだろう、俺なら自殺ものだ。



「狸ぃ! 恥ずかしかったよぉ! 服?これヴァルキリさんの若い時のやるでその……」



「そうか、ヴァルキリのか。確かに、そうだな」



「狸の力になりたいっていったら、ヴァルキリさんに相談したの!」



「それがそれでそれか」



「そうなのおぉ! 恥ずかしかった!」



 自分の膝に顔を覆い隠し、耳を真っ赤にして全力で恥ずかしがってる女王様。

違和感しか生まれないが、本人は穴があったら入りたいのだろう。

俺は結果を出す人間に説教は垂れない。

だがなんて言っていいか分からないのも事実だ。



「良くやったな」



パルスはビクッと動いたように見えたが、顔は上げない。



「もういっかい!」



「調子に乗るな」



 頭を軽くすっぱ抜いた。

もうすぐ戦闘だな。あの傭兵をそのまま兵士に取り込もう。


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