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プレイヤーキラー  作者: 狗
欲望と野望
12/75

エラッソとの商談



「よーするにだ、オーク退治に参加して欲しいってんだろ?」



  事の顛末は、こうだ。

スカライトの市長は、85歳と実務を取り仕切るには厳しく本人も引退を望んでいる。

後継者を探しており、俺に白羽の矢が立った。

市長の決め方としては、前市長が血縁・親族以外の後任を指名する。

その候補者の資料を議会にあげ認定をもらう。



 資料が議会からスカライト付近の地主や貴族に間者から回り、それを利用しようとしたらしい。

情報の早さは全てを見透かせる、探偵を雇う占い師みたいなものだ。

オーク退治を俺が引き受ける=スカライトの市長に当選させてやるの構図。

元々退治しなくても、すでに指名されている俺の市長は確定。



「うちの領のオーク退治をしてもらい、それを条件に市長に私がしてやれば恩を売れ我が派閥にスカライト市長が入る。オークもいなくなるしで問題無し!……あ」



 こいつボンボンにしか見えないのに腹黒いな。

悪びれるどころか、自慢げに騙そうとした人間を前にして話せるものだ。

貴族の腹芸ってやつか……俺が口を半開きエラッソを見ていると



「気分を悪くさせてしまい申し訳ありません。我が智謀……自分が怖くなります」



「お、おぅ。その手柄立てると、ウゼーン家にはなんかあるのかい?誉れとか誇りとかよ」



「さすが狸殿! この私めが愚弟ソウエラを大きく突き放し、名実共にウゼーン家当主になるのです」



 やっぱ前言撤回馬鹿だ。

重要な事を何も考えずに話す、ゆとりって奴か。

見栄ってのはバレちゃいけない。弱みとして取られたら逆効果になる。

この馬鹿貴族は、ソウエラってのとお家騒動中というわけだ。



「仕事の話を進めよう。この屋敷を囲んでる、エラッソの直属トリン軍じゃ無理なのかい?」



「我々は秩序と礼法を重んじる、誇り高い儀礼軍。そんな野蛮な行為は」



「パレード専用のお飾りさんか」



 図星を指されたように、エラッソは顔をゆがませる。

俺への恐怖からか、反論はできない様だ。

一回とった上下は絶対に譲らない。

こうやってちゃちゃをいれ攻めては、当たり前の形にする。



「……オッホン。由緒正しき貴族家の子息や血縁のみで構成されてまして、犠牲者は出せないのです」



 簡単に言うと実戦経験0で、戦争に2.3回出た農民の方が強い。

お坊ちゃま軍隊って事か……こんな奴らが天下りで、現場指揮官として派遣されるのか。



「んで、現在の戦況は? 敵の規模はどんなもんだ?」



「現在トリン軍主力は、義勇軍と共に南から攻めてきたオーク軍を前線基地都市コブスで交戦中です。敵は部族同士が連動しており、兵の数は1万を超えると聞いています」



 1万って、昔テレビゲームで無双する奴やったことあるが。

一撃で倒せる相手でも1万とか、時間どれくらいかかるんだ。

ゲームと違って疲労もたまるしな。

地図で見る限り、コブスって副首都トリンの喉元じゃねーか。



「今こっちの戦力はどれくらいあるんだ?」



「トリン軍4000と義勇兵が3000、義勇兵は毎日集結しています。現在は義勇兵を広報で集めつつ、攻撃に出る機会を籠城で待っています。総司令官はロビン様です」



「義勇兵は傭兵を主体としており、数では劣るも砦による地の利で戦線は優位に進んでいるようです」



 戦況の決まっていない、勝ち始めの戦に入れるとはおいしい話だ。

義勇兵が傭兵って事は、コネクションを作るのも悪くない。

俺が兵を作るとしたら、スカライト付近の半グレや飲んだくれの文無し冒険者。

戦力としたら強い一般人で、すぐ調子に乗る連中だ。


練兵するには、勝ち戦を経験させるのが一番いい。

何よりイエローキャブの常連に、若い時ドラゴンを倒したという爺さんがいたはず。

何回か奢ってるから、頼めば悪い返事は帰ってこないだろう。



「勝ち戦か、分捕った物は全部もらっていいんだよな、おぃ」



「もちろんです! お引き受けいただけるのですか」



 エラッソが立ち上がり目をキラキラ輝かせている。

金と権力の使い方をしらないボンボンは、決まって不良に利用され喰われる。



 最悪負けそうになったら、副首都トリンに逃げ込めばいい。

ブリテン星の街どこを見回しても、トリンほどの守りを持つ街はない。

城壁と石で出来た塔の何層にもなる鉄壁の守り。

空中には魔術師が防衛陣を幾層にも張りこんであり、もはや結界だ。

石工技術者が集まる街で、市民も兵役があり有事には槍を持ち兵となる街だ。



「軍費と兵站をエラッソお前が持ちな」



「え、私がですか? 兵站・軍費は議会の決まりで、貴族の私兵化を防ぐためにも……」



「私兵化が駄目? 俺を自分の派閥に取り込むって最初言ってただろ、その意気込みはどうした?」



「参入していただけるのですか!?」



「参入はしねぇ、俺は誰の下にもつかない。スカライト義勇軍ではなく、俺を頭にした傭兵団を作ってオークを叩けばいいだろ」



 エラッソは顎に手をやり、下を向き考えている。

損得分岐点を考えているのだろうが、一文無しの俺からしたらここが一番重要。

雨が止んだとはいえ、スカライトはまだ雨季だ。

出稼ぎに行く条件は給与の条件最重要である。



「俺との友好的なパイプ。自費を切って義勇軍を作りトリン軍に協力する誉れ、俺なら確実な武功をあげるだろうな」



「そ、それは魅力的です。狸殿が派閥に参入していただけねば厳しいのが実態ですね」



 予想通りだ、当然断るだろう。

軍費兵站ってのは、値段の書かれてない小切手の様なものだ。

まして自分の支配下にない軍では、金の支出に把握も調査もできない。

信用だけでお金の運営を任すと言う事になる。

そして、その相手は目の前にいる山賊の親玉の様な俺だ。


ここで交渉の切り札のはったりを賭け、勝負に出る。

切り札がハッタリなのは、張子の虎というかギャンブルだ。



「実はお前の弟のソウエラからも、同じような話が来てんだよな」



「な、なんですと!」



「どうも使者が偉そうで、気に食わなかったがお前さんは本人が来たんでな」



「私の管轄地のスカライトにまで手を出すとは、己が為にウゼーン家の試練の邪魔。当主にたる器の欠落!」



 顔真っ赤という言葉が、お似合いな顔だ。

ソウエラって名前を知ったのはお前の言葉からだけどな。

相手の憎んでいる第三者とはなんと便利な物だろうか、有り得ない話でも全て責任転嫁できる。



「俺もその戦線には参加するつもりだ。しかし軍費は、市長なり立ての俺には無いに等しい。」


「出来れば筋の分かるエラッソ、あんたに頼みたい。俺もあの弟が嫌いであんたが好きだ。あんたとは戦いたくないな」



「た……狸殿、わかりました。ウゼーン家の誇りにかけ、このエラッソ・ウゼーンができるかぎり軍費・兵站は持ちましょう。これから良い付き合いをよき友としてここから始めましょう」



「男の話が分かる男は好きだぜ」



 俺とエラッソは銀の杯を乾杯しワインを飲む。

その後飲んで思ったのだが、結構気が合うようだ。

利用して財産乗っ取るつもりが、間抜けな弟分ができたようで悪くはなかった。



 酒は凄い力を持っている。





 兎にも角にも、金は保証された後は人を集めてオークを血祭りだ。

モンスターって俺、あのドレイクしか見た事ないが。

オークってさすがにあれより弱いよな。


少し不安になりながら、潰れたエラッソや兵隊達を横目にイエローキャブのハンモックで眠りについた。




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