エラッソ・ウゼーン 貴族襲来
他で作品を書かれてる方に応援されました!
下がったモチベーションが一気にあがりました。
人間て単純ですね。
雨降って地固まるとはよくいったもんだ。
男勝りなバルキリの女の一面を見て、深く知ったと言う事か。
窓を叩く雨の音で目が覚める。
この世界で今は、雨季という雨の降る時期らしい。分かりやすく例えるなら台風だ。
2週間以上雨が降り続け、せせらぐ透明の小川は濁流となり川から溢れている。
牧場の多い港町スカライトは、家畜は納屋に閉じ込められ海辺は立ち入り禁止の看板が立っている。
暴風雨により銀行前ですら行商は自殺行為、イエローキャブも絶賛営業停止中だ。
俺は下着のみの姿でベットから立ち上がり、窓の外を見る。
「雨……雨雨雨雨雨! 雨降りすぎだろ! 仕事も遊びも何も出来ねー金がぁ……」
人の数倍稼ごうが、人の数倍使えばお金はたまらない。
酔っぱらうと、大富豪になったつもりかかっこつけて店の人間全員に奢ってしまう。
一回奢ると、次回もそれが定例の様になるのは世の常。
田舎町の大きい飲み屋イエローキャブはもちろん4件全てで、狸親分してしまった。
「さすが、狸親分! 豪気ですな」
「おぅ、当たり前よ! 気にせず飲みな!」
何が気にせず飲みな! だお前が一番気にしろ。
と雨を見ながら反省する、貯金残高はもう20GP。
どうせ毎日1000GPは入ると豪遊、雨季になり2週間。
全ては尽きていた。
スカライトの人間は冬ごもりならぬ、雨季ごもりで食料や金を雨季になる前に貯める。
貯めれる人間は貧乏でも金を貯め、貯めれぬ人間は富豪でも貯めれない。
金に対する意識の問題だ、金より人間が好きなタイプは何か目的がないと貯めれない。
俺は革袋の財布を見る、40枚の小さい金貨が革袋の底でつつましく光る。
「今日の支出は、飯付き宿代20GPのワインが8GPか。あれ? この豪雨の中、明日の俺はどうすんだ? 」
俺は天井を見上げ、拳を握る。
土壇場まで何も考えてなかった、雨がここまで続くとは。
スカライトの顔役の俺が、ツケなんてできるわけがない。
信用できる身内、後輩に女……パルスとバルキリの顔が浮かぶ。
「借りるしかないよな、いつも奢ってやってるし……はぁ、情けねぇ。なんでもいいから仕事ねぇかなぁ」
そんな今日も案の定大雨だが、何か外からけたたましい違う音が聞こえる。
この音は、馬車は泥を撥ねながら走つ音。
外は暴風雨だ。相当立派な屋根付きの馬車でなくては走れない。
「ガタガタガタガタガタ!」
馬車が荒っぽい音を立てながら、走ってくる。
馬のいななきに、蹄の音が雨の中でもはっきり聞こえる。
相当数の馬車が隊列を組んで走っている。
シーツを纏めほおり投げ、宿の2階の窓から騒がしい1階を見下す。
カーテンの隙間から見るに、人だかりは武装している。
金属鎧の兵士らしき人間達が集まっている。
「金の匂いがするぜ、にしても何でこんな宿屋に泊るんだ? まぁ一番歴史あるボロ……老舗旅館だしな。貴族なら、歴史なんたら理由つけて人件費削減するか」
自問自答しながら、薄暗い部屋で窓から下を覗く大男。
どう貴族様とお近づきになるか考える俺だったが、違和感を覚える。
皮鎧と黒いローブにハンマーを迅速に装備する。
雨で視界が悪いが、おそろいの龍の紋章の入った楯に金属鎧の集団。
おそらく、どこぞの正規軍かなんかだ。何より宿屋を包囲する様に、囲みだした。
いくら頭がぼけてようが、軍隊がここを囲む理由といえば俺の可能性が跳ね上がる。
「……出口も固められてるな」
俺が拠点としている部屋は、角部屋。
いくらこの宿が融通が利くとはいえ、軍隊から守ってくれはしないだろう。
なんで踏み込まれても、裏庭に降りれる縄梯子を用意してある。
「100計逃げるになんたらっとな、っち!」
その裏庭には騎士らしき男と、金属鎧の長槍兵士が50名ほど整列している。
ガード圏内では、大人数で相手を長い棒で抑えつけ拘束するのが一番だ。
殺意がなければ、ガードは来ない。
助けを求めるにも、ロボットの様な彼らの24時間巡回コースは決まっている。
ならば攻撃だ。だが俺のハンマーは下手すると一撃で相手を殺す。
逃げながらそんな余裕もないし、殺せば一瞬でファルッカ行きだ。
「っち殴れねーってのは面倒だな」
俺の仲間は、抑えられたのか? 何故こうなった密告されたのか?
とりあえず逃走経路を見つけないと。いや、逃げ場はない。だが圏内だ突破はでき……
銀行は犯罪者でも使えるっていってたよな。
あいつらは何者だ? この世界に警官なんかいないよな。
思考が加速していき、無駄な感情論から削除していく。
今何をするべきか、冷静に深く冷たく思考を凍らせていく。
聞きなれた抵抗する声が聞こえる、宿屋の主人リョッカンだ。
ガード圏内で殺されることは無いとはいえ、リョッカン男だぜあんた。
ドン! ドン!
突如扉から、ノック音にしては荒っぽい音がする。
金属鎧のかすれる音、ドアの外には数名から数十名兵士がいるのは確実だ。
「直ちに開けたまえ! これはトリン軍執行部からの勅命である!」
気取った感じのトーンで呼び出している。
異様に偉そうだが、暴力を元にした組織の下っ端はいつの時代もこんなものだ。
周囲の態度への誤解。周りは自分が怖いのではなく、組織が怖いのだ。
謙虚の逆、チンピラの皆通る道だ。
兎にも角にも、逮捕系でないなら口八丁でけむに巻くしかない。
ガード圏内だし、タイミングをみて弾き飛ばして逃げるか。
「俺に何の用だ?」
両手でハンマーを構え、部屋の奥の窓側の椅子に腰かけ静かに聞く。
答えより先に兵士が、宿屋から接収した鍵を使い扉を開ける
「パッパラパラッパラー!」
突如軍隊ラッパの音が部屋にこだまする。
音楽隊は、赤く金の刺繍が入った、高そうなレッドカーペットが俺へ一直線にしかれる。
と同時に国歌らしき奏楽を開始し、国歌の奏楽終了後引き続きまた違う国歌を奏する
羽付き帽子に、ヒラヒラのついた貴族服。長いキセルを咥えた男。
こいつが指揮官の様で、レッドカーペットを踏みしめ俺に向かってくる。
周りの兵士が、護衛しつつごまをすっている。
指揮官の横にいる兵士が、何か令状の様なものを両手で持ち叫び始めた。
「我々はトリン軍として君を質疑する! 私はエラッソ・ウゼーン信徒にして、鉄の称号を持つ勇敢な騎士だ。貴様の様な下民が対等に話せたこの瞬間を誇るがよい」
「ここにおわす方こそ、エラッソ・ウゼーンその方である。ウゼーン家の次期党首にして、トリン軍大学では成績優秀……」
長々自慢げに腰に手を当てて、他人の自慢話を話し続ける兵士。
遂には、感極まったのか目を瞑って上を向いて話し始めた。
俺はその兵士の鼻を掠める様に、思いっきりハンマーを下から上に振り上げる。
「ドゴ!」
ハンマーが天井にめり込み、土砂が砕け散り粉塵が舞う。
そして天井に大きな穴が開き、砂煙と共に土砂が落ちる。
薄暗い部屋に砂が舞う。令状を読み上げる兵士は尻餅をついて動けない様だ。
ぼんやりと大きなハンマーと俺の巨体を見上げる兵士。
やっと我に返ったらしい。
「わ、私を……私はトリン正規軍エラッソ隊副官補佐のゴルミだ……だぞ!」
「それが遺言か?」
「ここはガード圏内だぞ!」
唾を地に吐く。立ち上がろうとするゴルミを足で押し座らせる。
下を見下し片目を大きく開ける俺。ハンマーを、腰を抜かしたゴルミに向けて両手で大きく振りかぶる。
「で?」
ゴルミの顔が青ざめていく。
緊迫した状況で、10名ほど部屋に突入した兵は茫然と俺を見ている。
「パチパチパチ」
拍手が部屋に鳴り響き、拍手の先に全員が注目する
羽付き帽子に、ヒラヒラのついた貴族服。長いキセルを咥えた男。
腰にはサーベル。胸には数々の勲章がこれ見よがしに張られている。
「やはり、この田舎町に来てよかった。本で見た蛮習を直に見れるとはホホホホホ」
ハンカチを口元に置きながら、腹の立つ高笑いをあげる男。
こいつがエラッソ・ウゼーンらしい。
こいつの笑いのせいで、兵士の恐怖が揺らいだようだ。
「どけ」
俺はエラッソを無視し、入り口を封鎖する兵士をどかして外に出る。
妨害してきたが、体躯が違う。兵士の肩を持ち力をいれどかした。
まだ先ほどの恐怖が残ってるのか、抵抗も大したことなく道を開ける。
とにかく、今は仲間や仕事の現状確認だ。
「フフ、お待ちください。今回は仕事の依頼できたのですよ、スカライトの鬼狸と呼ばれる貴方に」
俺は背を向けたまま部屋の入口で止まる。
雲行きが変わった、どうやら逮捕なり権力者と喧嘩する流れではないらしい。
何より2週間引きこもって明日豪雨の中野宿しようとしていた俺に甘美な響き、仕事という言葉。
エラッソの方へ向き直る、兵士は俺を中心とした円のように離れていく。
いくら気持ちでは尻尾振っても、最初が肝心だ。
最初俺は断るけど、頼むから引き下がらないでくれよ。
本当に頼むぞ、よくわからない貴族さん。
「トリン軍ってのは礼儀を知らずだな。そこらの村人の方が頼み事する礼儀って奴を知ってるぜ」
「っな!」
「ふざけるな!誇り高きウゼーン家の騎士である我らに対し!」
周りの兵士たちが騒めく。
他人を劣っていると決めつけ、自分自身の自尊心を高めようとする。
こういうタイプは田舎だの無礼だの見下した相手に、礼について指摘されたら腹が立つ。
取り合えず、侮辱すれば帰らないだろう。
頼むぞエラッソ俺に仕事をくれ、賃金釣り上げたいだけで喧嘩したいわけじゃないんだ。
兵士の騒めきは、片手を上げたエラッソに制止される。
エラッソはオッホンといわんばかりの咳をする。
「ほぅ、ウゼーン家次期当主に平民が説法とはこれはこれは……」
「まったく天を知らず、我が家名……地を知らず。そして人、己を知らぬ」
周りの兵士も同調して笑いだす。
嫌な笑いだ。自ら何も無し解けず権力に寄り添う事で得た地位。
その地位を笠に、自分が強くなったと勘違いした笑い。
だがそんな事はどうでもいい。
なんかエラッソのこれから言う、どうでもいい事に説得された流れで。
最初はやる気なかったが、エラッソの説得に納得し請け負う。
結果的におだてながら仕事をもらう。これだ! 説得前にもうひと押し!
「よくわからねーけど、俺を舐めたお前が死ぬって事は分かるぜ」
俺は無表情で当然のように言い放つ。
言い過ぎたか? いや、びびらせても金額釣り上げれるし大丈夫だな。
部屋の空気が俺の発言で一気に代わる。兵士は喋ろうと口を開けては口をつぐむ。
一触即発と勘違いした兵達は、その口火の責任をとりたくないのだろう。
「貴族を殺すといいましたか?」
やばいこの展開は、ビビってない上に仕事貰えない奴だ。
にしても根性あるな。頭が切れるタイプなら交渉より逃げた方がいいか。
エラッソは鬼の首を取ったように笑っている。
なにか奥の手でもあるのだろうか、ここはガード圏内俺には何もできないはずだ。
なんせこの星の知識については確実に負ける、現状把握で負ける状況は逃げるべきだ。
俺は2F角部屋のドア付近にいる。
退路は、部屋から出た廊下の窓から飛べば確保できた様なものだ。
窓をチラッと横目で見て、シュミレーションする。
逃げると決めたら、脅すだけ脅した方がいい。
グッバイお仕事、確定豪雨の野宿。最初からプラン2のごますり作戦ででればよかった。
値を吊り上げようと欲をかきすぎた。
「あぁ、言ったね頭か耳どっちが悪いのか知らねーがもう一回言おうか?」
「お前は死んで豚の餌だ」
エラッソは両こぶしを握り震えている。
だが、恐怖によるものではない。おそらく屈辱に怒り心頭のご様子だ。
「トリン国法刑法貴族職務執行法第2条2項!」
「市民以下の身分による、貴族家と認定された家に対する財産及び権利の侵害は死刑!」
「この者を拘束せよ! 私自ら首を討つ!」
いきなりベラベラ叫び始めたと思ったら、法律の話らしい。
しかし法律なんてものは、権力者が統治しやすい為に作る物。
ペットにトイレの場所を定めるようなものだ、どちらにしろ罠ではなく安堵した。
法律に必要なのは納得と、破った時の恐怖と権力による拘束力。
この世界にはどちらも通じない。
「ガード圏内で首を討つのかい? 刀が首に届く前にあんた死ぬよ」
「俺の手を汚さずに、俺の言った事実行するとは話が早くて助かるぜ。忠犬だなお前」
俺は馬鹿にするように笑う、正直仕事貰えなかった八つ当たりだ。
それに顔を真っ赤にさせるエラッソ。
兵士たちもお坊ちゃん付きで、立派な装飾に傷一つない鎧。
処刑はしても、まともに戦った事もないだろう。
「今死ねば周りは巻き込まぬ慈悲であったが、これは仲間全員に罪が必要だな」
「そーかい、無駄な心配しなくていいぜ」
「仲間を罰される事に、少しでも良心が傷んだようだな? これが権力だ! わかったか猿が」
「お前の様な男がウゼーン家に逆らうなど、仲間も皆殺しだ! そもそも私を殺せたとして、必ず我が同胞が貴様を許さぬ。拷問という拷問をお前にかけて死ぬ姿を笑ってやろう」
こういう人間をヒートアップさせると馬鹿みたいによくしゃべる。
昔からお決まりの台詞には、お決まりの返しがある。
脅しってのは、一瞬で実行に移せる背景があるから脅しなんだ。
誘拐する前と後では、脅しも威力が違う。
「じゃあその時お前は何やってるんだ? 死んでからニコニコ笑えるか試してくれよ」
「な……」
「喧嘩になろうが、殺し合いしようがまず最初に死ぬのはお前だぞ」
「し、仕事の依頼をしに来ただけの私を本気で殺す気か!?」
「お前は俺をナメた。それは殺人より重い罪なんだぜ、このスカライトのルールだ」
一回脅すなら徹底的に、相手の想像を超えた時恐怖は倍増する。
一回でも泣きを入れれば、その弱気が開けた隙間から恐怖が流れ込む。
精神のダムを結界し、恐怖が心を満たす。
ここでびびって謝ってくれれば、根性あるなおまえ仕事うけてやってもいいぞ確定。
皆でウインインな関係に!
「す、すまなかった非礼を詫びよう。有名人に仕事を紹介してコネクションを作りたかったんだ」
来た! 一気に逆転満塁ホームラン!
仕事が! 金が! 何より貴族にパワーバランスを奪っての関係!
こっから搾り取るぜ人生! 俺の人生の新生!
と心で小躍りしつつ、呼吸を落ち着かせ勝利確定のフォローを入れる。
「ウゼーン家の党首が謝罪したんだ、一般人ならミンチにしてるがその価値のある謝罪を受けよう」
こういうプライドだけの人間は特別扱いするに限る。
そして謝罪したという事実を、繰り返し既成事実に持ち上げ兵士に知らしめれば。
自分の主人が謝罪した相手に、偉そうな態度は取れない。つまり下になる。
なぜか兵士達は拍手している。
主人の謝罪に拍手とは、こいつらエキストラ以下だな。
「狸殿、貴殿にもう一度非礼を詫びよう。ウゼーン家の誇りにかけて!」
こいつも一回ほめたら、馬鹿の一つ覚えの様に謝りやがって。
ウゼーン家てそもそもなんだか知らないわ、バルキリやゲラスあたりに聞くか。
どうやら市長の家で、仕事内容を話したいらしい。
リョッカンの拘束をとかせ、謝るの大好きエラッソに謝らせ俺の顔は立った。
40枚のなけなしの全財産の入った袋をリョッカンに投げる。
「親父! 迷惑かけたな、つりはとっとけよ」
「狸の親分……旨い飯焚いて待ってるからよ! 戻ってきてくれよな!」
「っふ、俺を誰だと思ってんだ。一番上等なコース用意して待ってな」
リョッカンに背を向け手を挙げた俺の所持金は0GP。
また金の算段ができると、全財産駆けて見栄を張っちまった。
兵士たちが宿屋の入口で左右に整列してる。
俺の後ろにエラッソがつき、俺をひたすらほめている。
「おぅ、案内しな」
どうやら雨が止んだようだ。
雨に濡れた地を潮風が通り抜け、ここちよい涼やかな風が頬に当たる。
雨降って地固まる、さてどんなシノギになるかな