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雀の生き方

作者: いちよう

月が柔らかく光り、風が麗らかな夜だった。

無精ひげを蓄えた痩身の男が煙草を吸っている。紫煙は桜の花びらと共に闇に散らばる。男は木造住宅の狭い部屋の二階の窓から夜桜を見ていた。孤独を感じることのできる時間。男にとって最も贅沢な時間だった。

男が寝支度をするため部屋に目を移すと、何か動いた。男はチカチカ光る蛍光灯から、ぶらり垂れ下がる茶色い紐を引っ張り、電気をつけた。すると、卓袱台の上に一羽の雀が横たわっていた。男は急いで駆け寄り、雀を掌に乗せ覗き込んだ。どうやら雀は羽を痛めているようだ。痛めている羽で羽ばたき、男の部屋に入り込んだらしい。

男は埃だらけの救急箱から消毒液を取り出し、雀に手当をした。男は明日の仕事に備え、窓を閉じ、雀に米粒を二、三あげ、床についた。

男は、しとしとと小雨が降る朝、目を覚ました。雀は昨晩よりも回復しており、歩けるようだった男は雀のために傷の手当てをし、底の浅い皿に水を入れたものと米を数粒、床に置いておいた。黒く、骨が折れている傘を差して仕事に向かった。

その後、男は数日の間雀の世話をした。

ある晩、男はいつものように窓を開け、外を眺めつつ煙草を吸っていた。その時、男の横を素早く雀が飛び去った。

男は一瞬体をこわばらせたが、すぐに煙草を吸い直した。男は独り幸福そうに笑みを浮かべた。

翌朝、目が覚めると、また羽を怪我した雀が部屋を歩いていた。いつ、どこから入ったか男は不思議に思ったが、深く考えず、昨日までの日課であった世話をして、家を出た。

この雀も、ある夜、男が煙草を吸いながら庭の紫陽花を見下ろしていると、男の横を飛び去って行った。

翌朝、また雀がいた。三度目だ。しかし、男は不思議には思えど、変わらずに世話をした。

その後も、独りで暮らしていた男の元に、怪我をした雀が去っては戻ってくることを繰り返していた。男が一人になるのは、翌朝にはまた怪我をした雀がやってくるため、雀が飛び去った後の夜だけだった。しかし、男は死ぬまで、怪我をした雀らの世話をし続けた。男は独りでいるよりも幸せだった。

しかし、本当は狡猾な雀らが自分たちを自分たちで傷つけてた。男に手当てをされ、餌をもらうことで何代も生きてきたのだった。雀らは生きるために協力して、男を利用してきただけだった。

男はそれを知らずに満足げな笑みを浮かべて死んだ。

男の亡骸は雀らに食べられた。


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