不思議の国のサンダーバード
『サンダーバード』は『2001年宇宙の旅』以前にひとつの未来観を提示していました。
イギリスの特撮SF人形劇『サンダーバード』のリメイク版がNHKで放映されています。今回の作品は模型特撮にキャラクターのCGを合成させたものだそうです。
以前、ハリウッドで俳優の演じる実写版としてリメイクされたことがありましたが、映画そのものはあまり話題にもならずにひっそりと公開されました。
結論から言うと『サンダーバード』のリメイクは難しいと思います。
『サンダーバード』は人形が演じる世界のリアリティが魅力だったからです。人形たちの存在感にミニチュア模型のリアルな特撮が加味された作品だったことが当時の子供たちに熱狂的に支持された理由です。つまり、人形と模型によってどこまで未来世界を構築できるか、ということが作品の追求していたテーマでした。模型で再現された未来世界のなかにリアルな人形たちが生活している、という構図です。
子供を対象とした作品なのに、現実世界を投影した奇妙なリアリズムが溢れていました。
こんな例がありました。劇場公開された『サンダーバード6号』という映画の中でスカイシップという飛行船が悪人に乗っ取られます。乗員を殺害した悪人は制服を盗み、その遺体を空中から海に落とすのです。(この場面はロングショットです)この感触は文章ではうまく表現出来ないのですが、人形が人形を殺すというシュールな感覚と言えるでしょうか。
子供に提供する作品なのに、あくまでも迫真性にこだわるという制作者の意図がわかります。同時期にNHKで放映されていた国産人形劇が『ひょっこりひょうたん島』であったことを考えると、その制作意図の違いが明瞭です。
『サンダーバード』が提示していたのはハイパーメカの飛翔する夢いっぱいの未来世界でした。科学に対する懐疑的な見方をもつ現代から振り返ると、『サンダーバード』はきらびやかな未来観の集積だったのです。
そのせいか、『サンダーバード』を語るとき、大人は、一種の気恥ずかしい感情を伴います。
読んでいただきありがとうございました。