プランティング・プロジェクト
(お題:左の模倣犯)
山手線を降りて、改札を抜けて目的地へと向かう。バッと商業用ビルの立ち並ぶ、この辺鄙など田舎を、俺は黙々と歩いて行くのだが、なんともまあ、退屈な風景だ。怪しげな店の立ち並ぶあの一角だけはなんとか癒やしになりそうなものだが、ここまで建物が軒並み並び、看板をテカテカと照らされては、つまらない。俺は色彩に満ちたあの山々を思い出す。あれこそ、真の都会であり、人間の暮らす場所にふさわしい、と。
錆びついたドアを蹴っ飛ばして、俺はビルに入った。あらゆる平面という平面に埃の積もっているが、その空気はどこか都会の匂いを感じさせる。階段を昇り、部屋のドアを開ける。
一人のじいさんが、曇ったガラスの向こう側を見つめて、パイプ椅子に座っていた。パイプ椅子なんて、骨董品みたいなものは久しぶりに見た。そのギシギシ言うチープな感じが、正に田舎っぽさを象徴している。
いい加減、立ち退いてくださいよ、と俺は言った。こんな前時代的な場所に住んでいて、何が楽しんですか。コンクリートに囲まれすぎて、頭までコンクリートになっちまいましたか?
山手線沿線内の前近代的建物を全て破壊し、そこに最新の技術を駆使して植林していくプロジェクト、「東京再興計画」のためにも、全ての住民を追い出さなければいけない、それが俺の仕事だ。日本国憲法が全国民の生存権を認めているせいで、こうやって青臭いものにしがみつき続ける奴をきちんとした手続きの上で説得しなくてはいけないのだ。
お前は……左倣えが好きではないのか? とじいさんが言った。
俺は呆れた。未だに資本主義者の左翼が生きているとは思わなかった。
やい、模倣犯、お前はもう絞られ尽くしたんだぞ、分かっているのか、と声を荒らげていってやった。資本主義者は模倣犯という単語に敏感に反応する。じいさんは目を見開いた。模倣犯だと! おれが、模倣犯だっていうのかい、くそ、おれは、オリジナルだ! 誰でもない、おれ自身なんだぞ!
だから何だと俺は思う。オリジナルか、そうでないかは問題ではない。だからこそ、俺は東京という街を破壊することにこんな賛意を示すんじゃないか。どれも似たり寄ったりの木を植えることをよしとするんじゃ無いか。
俺は静かに息を吐いて電話をかける。短いコールが三度鳴って、相手が出た。
もういいぞ。核を落としてくれ。
俺は、静かに告げた。
地方民の怒りとか、自然が一番とか、そういう話ではなくって、おれはオリジナルだ、と言わせたかったためだけの舞台装置という感じ。