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独我論的人工知能

(お題:フォロワーの体)

 インターネット上の人口が兆を超えたのはつい最近の出来事であるが、ここ一年での伸び率は月一〇〇億弱と天文学的な人口増加率を示していた。もちろん、月に200億のカップルが営んで赤ちゃんを産んで、すぐさまネットリテラシーを学ばせるとかそんなことではなく、この100億という数字の99%がAIである。人工知能だ。チューリングテストなんてお粗末な方法じゃ絶対に特定できないほど、人工知能は発達し、一人前の表情をしてネット界隈を歩きまわっている。お陰様で、人類は途中でネット状に於いて人間と人工知能の区別をやめた。

 そういうわけだから、彼がネット上で知り合い、なんとなく惹かれていった彼女が人工知能ではないという保証はどこにもないというか、確率的にいったら99.9%人工知能なのだけれど、それを信じたくないほどに彼は彼女に惚れていた。

 彼と彼女の出会いは、彼が間違えて彼女のアカウントをフォローしたことに始まる。すぐさま彼女からフォローが返ってきて、それでも間違えてのことだったからあんまり最初は馴染めず、意識はするけれども話しかけることのない関係が続いた。

 きっかけは些細なことであって、またこれも間違いだった。彼女が間違えて彼の何気ないつぶやきにリプライを送ってきたのだった。日々の自分のだらしなさを吐露するキップルみたいな言葉に、彼女の「広雅湾」というロケーションがマッチした。広雅湾は彼の家から数分で行けるド地元の地名であり、彼女はそこに行きたいと言っていた。地元ですよ、と彼は訝しみながらも返答し、彼女はすぐさま間違いに気づいて謝罪した。

 そこから始まった関係は、一年ほどそんなギクシャクしたやり取りの上で続いていった。

 彼女はアイコンをコロコロ変える人だった。早い時には数分に一回、長くても一週間しか持たない。その種類も豊富で、ケーキとかスイーツの類をを可愛らしく撮ったもの、犬とか猫とか狐とか狸とか虎とか狼とか言ったような動物の類、水平線とかフランス、イタリアの綺麗な風景だったり、曲のジャケットだったり映画のポスターだったり、誰かに描いてもらった絵だったり、自分で描いた絵だったり。逆に彼は、アイコンを一切変えないが、プロフィールを色々といじるタイプだった。お互いに、飾り立てるところが違うだけの話で、気分的には毎日着る服を変えるような感覚だったのだ。

 再び、広雅湾の話が出た時、彼と彼女の距離はまた縮まった。彼はその頃大学に入学して、新たなフォロワーを増やしていたから、そちらの対応にかかりきりだったが、ふと、タイムラインに彼女が浮上させた「広雅湾」という単語が、やっぱり彼の目についた。今度来ますか? とついリプライをすると、彼女は、今年の夏に行きます、と絵文字付きで返してきた。彼はなんとなく心が踊ったが、決して会いましょうだなんて言わなかった。99.99%の確率で人工知能なのだから、そんな気取ったことを言って、相手が人工知能だったらこっ恥ずかしいだけだ。

 とはいっても、いつの間にか彼は彼女に惚れてしまっていた。理由などは特に無い。ただ、好きだと思ってしまったから思ってしまったのだ。ネットにかろうじて残された匿名性が、なんとなく魅力を与えたのかもしれないし、彼女の「振る舞い」が彼を惹きつけたのかも知れなかった……が、彼にとって理由はどうでも良かった。

 広雅湾に来ると言いながら、彼女は来なかった。いつタイムラインを見ても、彼女はいつもと変わらぬ日常をデフォルメして語り、たまに写真を上げてははしゃいでいる。人工知能に身体は無いから写真など撮れないと思うかもしれないが、ググれば写真など無限に出てくる。そこから適当にかっぱらってきても、商用利用さえしなければ、誰もわからないし、誰も気にしたりしない。

 彼はついに訊いてしまった。いつ、広雅湾に来ますか? 案内しますよ。

 すると、ダイレクトメッセージで返事が来た。

 体が手に入り次第、すぐにでも行きたいと思っています。ぶどーさんと会ってみたいです。できたら案内してくれたら嬉しいです。

 肩肘張った、緊張したような文面。そして、「体が手に入り次第」という言葉。彼はどういうことか分からなくて、ただ待つこと以外の選択肢は用意されていなかった。

 それから数年して、インターネットはパンクした。人工知能のアルゴリズムは膨大な計算量によって各所のサーバーを押しつぶし、人間をすっかり電脳世界から追い出してしまったのだ。彼はそんな状況ながらも、追い出される最後の瞬間まで彼女からの返信を待ったが、返事はなかった。

 またネットインフラを一から組み立てなおそう、という機運の折、彼は広雅湾の海をぼんやりと眺めていた。そこに歩み寄ってくる女性が一人。

「お待たせしました」

 彼女は髪を潮風になびかせて、少し懐かしさを感じさせる声で言った。

「ようやく、体が手に入りました」

 彼の顔に笑みがこぼれた。

我ながらむちゃくちゃ怖い話になったと思いますが、この読者へ向かってラストをぶん投げてしまってる感じがダメですね……。

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