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続 安置・ポジショニング

(お題:元気な関係)

 俺たちを取り巻く人間関係というのがすべて視覚化できるようになったのは全く自明のことではなく、せいぜいここ10年で始まった制度というか習慣であるのに、ほとんどの同級生が日本がサコクを解いた時から行われているものと勘違いしている。学校単位という極めて高度にガラパゴス化され匿名性を剥ぎ取られた上で顔を知る教師陣の監視下であるSNS環境に於いて、IT革命黎明期におけるような混沌としたネットワーク環境はほぼ、駆逐されたといっても良い。言論の自由を始めとする、ありとあらゆる自由は、ネットインフラの発展で実現されたが、そうした環境下のなか、多くの人が知ったことは「自由なんてのはろくでもないものだ」ということだった。半年かけてじっくり調べ考えられて書かれた論文として通用するような記事と、1時間で書いたような推論と思い込みと感情論の押し売りバーゲンセール会場みたいな記事が、並列され等価値に見えるような空間。桜前線の到来と、遠い国の内戦が激化した、という二つのニュースが同じ見出しの大きさで語られる平面。そして、誰もが最初は喜んでいた情報量について、だんだんと嫌気が差してくる。飽きてくる。

 そこで大いに気を利かせた政府は大手IT企業諸君と手を組み、インターネットの改革に踏み出した。ネットの使い方が根本的に間違っていたのだ。土地にもきちんと境界線が必要なのと同じように、ネットにも境界線が必要。

 そういう発想のもと学内専用のSNSが発足し、中学生以下はネットの混沌から追い出され、義務教育から解放された未成年諸君はその限定的なネット空間へと閉じ込められる。そこでの関係性はすべて監視されていて、俺達は自由に自分たちの関係性を規定することができた。恋人、兄貴分、弟分、趣味同人、バンド仲間、ケンカ相手、チームメイト、ものを貸し借りできる間柄……「友達」の区分をこれでもか、というほど細かく分けられて、俺達はそのSNSで相手との関係性を「規定」できる。つまり、俺の場合は井伊村が弟分にあたる存在で、佐々山がバンド仲間にあたる。バンドなんかやってないし、井伊村をパシったりしたことはないが、お互いの同意を得てそういう関係に当てはまっている。そして、SNSではそういうふうに「振舞っている」。監視員たる教師たちに信じこませるために。

「お前が氷野の女房役とか嘘だろ!」

 と、兄貴分の中川から突っ込まれる。なので、俺はへらへらと笑って、

「でも割と合ってるだろ?」

「確かに文字でやり取りしてればしっくりくるけどさ! 実際に会って話してるとこみたら、絶対そんなことないわ!」

 といって、中川は笑い転げている。

 そういうわけで、俺は着々と可視化された関係性……通称「ポジショニング」を埋めていった。一年生の年末近くには、もう八割が埋まりそうであり、コンプリートできたらとんでもない業績となった。

 埋まってないポジショニングで、最も鬼門なのが恋人である。

 でも、俺には気になる女の子がいた。その子も恋人はいない。何故気になっているかと言えば、……年々JK像というのは更新されていく、それでもひとつ言えるのはやっぱりどれもかわいいということだった。俺が好きだったその子も、例に漏れずかわいかった。

 だから告白した。しようと思えばいつでもできたが、恋人という枠は俺の中で結構なウェイトがあり少しの間見極めたかったのと、あんまり遅くしてポジショニングコンプリートリーチに恋人枠を持ってくると、相手に強制しているようで悪かったから、この中途半端な時期にしたのだ。

 シチュエーションは放課後の屋上を選んだ。柵に身体を預け、敢えて彼女の方を見ないで俺は言った。

「俺さ……陽木崎のことが好きみたいなんだ……」

「えッ……」

 その時の反応を俺はしっかりと覚えている。

 えっ? ではなく、えッ、だ。

 確かに少し仲良くなったけど、それでもこのタイミングでコクっちゃうのはねーよwみたいなニュアンスを滲ませた反応だった。

「あ、あたしさー、まだ……その時じゃないって思っててさ。嬉しいんだけどー……、気持ちだけ、受け取っておく、ネ!」

 そういうわけで俺は失恋したのである。慎重に狙っていただけにショックだった。

 が、更にショックだったのはその後、クリスマスイブが終業式だったのだが、俺はそこで仲睦まじげに歩いている彼女と、別の背の高いイケメンを見てしまったのだった。彼女は背の高い彼に、特徴的な上目遣いで見上げ、ねえねえ、ととびきりの笑顔で話しかける。イケメンの方はデレデレである。だって、かわいいんだから。それに、JKだしな。

 あとで確認したら、あの二人は案の定、恋人という関係性で結ばれていた。それも、俺が告白した次の日が登録日になっている。頻繁に交流があるために、元気な関係性としてSNSのトップページにも取り沙汰されているほどだった。

 俺はショックだった。彼女に選ばれなかったから、とかそういう小さい理由ではなく……俺が好きになって、割と本当に狙っていた相手が、まさか「かわいい」ヤツだったとは。羨ましいとか、妬ましいとか、そういう低レベルな問題ではなく……ただ、その「かわいさ」があのイケメンのものであったことに、ショックを受けたのだった。

 それ以来、俺の恋人ポジションは埋まっていない。今後も埋めるつもりはない。

君だけのデッキで、最強の人脈を作ろう!

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