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天使の微笑む星

(お題:初めてのこだわり)

 ある日、俺の家に宇宙人がやってきた。三足歩行で、前足と後ろ左脚を器用に動かし、後ろ右脚でバランスを取るようにして大きな頭をぐらぐら揺らして来たのだった。

「ハロー、下村くん。ハッピバースデー」

「なんで俺の誕生日知ってんだよ」

「人間名鑑を見たのさ、なんてったって君達は将来有望なエンジェルだからね、成長はきちんと記念するのが僕達の優しさなのさ」

 メシを食ってるわけでもないのに、くちゃくちゃくちゃくちゃ、不快な音を織り交ぜながらそいつらは言う。

 俺達は十数年前まで戦争をしていた。地球人VS宇宙人は宇宙人の勝ちだった。考えてみりゃ、例えば絶海の孤島があってそこに暮らしてる先住民と、そこに船で乗り付けてきた奴らが戦争をして、どっちが勝つかだなんて自明の理にも程がある。

 ハイベリアと呼ばれる惑星から地球を開拓しに来たこの三本足の宇宙人連合と条約を取結び、当面の間は占領下にあった後、最近やっと独立したばかりだ。奴らは地球の言葉を学び(まあつまり英語だ。奴らにかかれば日本語も英語の訛りの一つとしてカウントされるわけだが)、地球に趣味の悪い建物を立てて、俺達とふつうに暮らしている。そう、ありえないほど普通に暮らしている。何年か前までは、あとで地球人を皆殺しにするに違いないと思い込んだ奴らが、不意打ちなんかして宇宙人を殺していたが、彼らはその事件を「地球が貧しいゆえ」と考えた上、『発展途上星』と位置付けてこうしてちょくちょくボランティアの宇宙人がやってくるようになった。

 こいつもそのうちの一人だ。

 ブンーニアと名乗ったそいつは、俺の家に上がり込んできた。誕生日だからと言って、気楽に家に入れてやる筋合いは皆無なのだが、奴らの図々しさは俺達の常識をはるかに上回る。

「僕はこうして、毎日色々な人の誕生日に立ち会っている。ガリガリに痩せた人間とか、ヨボヨボに太った人間とか、いろいろ見てきた。でもね、彼らはみんな前を向いて生きている。誰一人として絶望しちゃいない。貴重な燃料資源も鉱山資源も無いこの惑星だけど、みんなで一致団結して生きていこうとしている。僕はそこにとても感動していてね。やっぱり『いきもの』は強いんだ、ってハイベリアに毎日通信で報告しているよ」

「ふぅん、それで?」

 ブンーニアは椅子に腰掛けた俺を見て「ずっと立っていることが難しい種族なんだな」と同情に満ちた視線を俺に送ってくる。

 それから、頭の隅から小さなデバイスを取り出してスイッチを入れて、とてもやさしい声音で言う。

「誕生日なんだ。君は幸運にも……えっと、いくつになったんだい?」

「25」

「そう、25年間生きてくることができた。これは、いろんな人に愛されていなくっちゃできないことさ。神なんかじゃなくて、ね。そして、ここからまた新しい一歩を踏み出していくんだ。君は25歳をどうやって生きていきたい?」

「……あくせく生きるだけだ」

「ああ……なんて前向きなんだ。僕たちはこれからも君達のことを支援し続けようと思う。過去には戦争で殺しあったかも知れないが、今では仲間だ。ああ、こんな素晴らしいことはほかにはないぞ。僕は……実際に戦争には出ていなかったし、EHGA……えっと、君達の文化でいうところの大学? に入るまでは、なんにも考えていなかった。けれど……、こんなにつらい生活を強いられている人がいる、って知った時、いてもたってもいられなくなった。初めて、こんな自分の『しなくちゃいけないこと』にこだわりが持てるようになったんだ」

「……そうかい。そりゃ、良かったな」

 俺は努めてぶっきらぼうに言った。──俺はあの戦争の時、まだ子供だったが……家を粉々にされた。必死でこいつらの最新鋭の兵器から逃げ惑った。たくさん友達が死んだし、親父も死んだ。おふくろは今、奴らの兵器のばらまいた病原菌に苦しんでいる。だがコイツラはあっさりとこの惑星の微生物に免疫を持つ方法を開発し、百年前から一緒に住んでいたような面をして歩き回っていた。

「話を聞かせてくれてありがとう」

 ブンーニアとか名乗った宇宙人の若者は、また例の気味の悪い歩き方で俺の家の外まで這い出ていくと、礼を言った。

「……とんでもない」

 俺はひどく気の沈んだ声で言う。

 相手はふふん、と口なのか鼻なのかよくわからない器官を歪ませて、

「今はまだ辛くて、到底明るくなんかなれないかもしれない。でも……明けない夜はない。いつかきっと、夢が叶う時が来るよ」

「……そうかもな」

 こいつは、俺が貧しいからこんなぶっきらぼうで人間味(といってこいつに通用するか知らないが)に欠けていて、無感情なのかと思っているのだろうか。

 戦争が終わってからは日本は……というか、世界は、少し人口を減らしただけの、なんにも変わらない資本主義社会に戻っただけだ。俺もただのサラリーマンだが収入は安定しているし恋人もいる、おふくろも病気だが医者の宇宙人たちの開発した薬によって快方に向かっている。

 これが俺の普通なんだ。それなのに何が、あいつらには可哀想に映る? 惑星間を一瞬で移動するだけの財力がないからか? スパコン並の処理能力をもつ、そのでっかい(三本足がなきゃ支えられないような)脳みそがないからか?

 俺にはこうするしか選択肢がないから、その中を生きているのに、どうしてお前なんかに誕生日を祝われる筋合いがある?

 俺は服を着替えて、外出の準備をする。俺は俺の普通を生きるために、準備をする。ブンーニアは明日もまた、誰かの誕生日を祝うのだろう。ちっぽけな地球の公転期間である一年間を慈愛の顔つきであざ笑うために。

書いてから、伊藤計劃「The Indifference Engine」読んだ時の感じを思い出しました。

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