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へビとトカゲ

(お題:絶望的な慰め)

 俺は頼まれたブツを持って、暗い山道を登っていた。あらゆる原料の値段が政府によって、べらぼうに高騰したりゴミみたいに安くなったりを繰り返している時代では、こういう安定した市場価格を持った密売が主流となっている。だが年々政府の監視の目が厳しくなってきて、町中では監視されていないスポットがない、そういうわけでこんな電気の通う気配の無い山道を、液化水素を背負ってえっちらおっちら登って行かなければならないのだ。

 真っ暗闇の中を、暗視ゴーグルを付けて進んでいく。俺の服装は真っ黒け、こんな服装で夜に出歩いたら即車に轢かれるわけで、小学校の教科書レベルで禁じられている服装だが、ちょっとでも蛍光色が混じっていたら麓の観測所に発見されてすぐさま通報されてしまう。懐中電灯もしかりだ、だから俺はわざわざこんなハイテクなものを装備している。

 スマホの案内に従って道無き道を進んでいっている途中で、一匹の蛇が飛び出してきた。が、あまりに緩慢な動きだったので、恐らく人工物だろう。養殖とはまた別で、生殖行為の可能な人口の動物が流通し始めている。そこから逃げ出して野生化したものが、こうして棲みつくこともあるというのだが、これはその一例だろう。

 とか油断していたら、そいつは癪に障ったのか本物の俊敏さで俺の脚に噛み付いた。一瞬何がなんだか分からず、痛みによって悟性を取り戻し、俺はその細長い胴体を思い切り踏みつけた。でも、そいつは離そうとしない。こういう時の対処を知らなかったので、俺は随分まごまごとしてしまった。最終的に、顎を掴んで強引に引き離した。その時、蛇の牙から何かの液体が糸をひくのをみて、俺は血の気が引いた。人工物だと思っていたが、どうやら本物の毒蛇なのかも知れない。

 そして……ずるり、と脚が落ち込み、次の瞬間俺の身体は浮遊感に包まれていた。上も下も分からず、ゴロゴロと転がり落ちていく。

 気がついたら、俺のさっきまで歩いていた道は遥か上にあった。マズイ、このままでは取引の時間に遅れてしまう……、身体に毒が回っていること以前に、そちらの方が問題だった。

 脚を引きずってどうにか登ろうとしたが、どうやらこの場所はでかいキリで穿ったようにすり鉢状に凹んでいる底の部分で、液化水素を背負ったままではどうにも登れそうになかった。

 とりあえず先方に連絡しようかと思ったが、スマホはぶっ壊れている。脚の傷はじっとりとした熱を帯びていた。二重の意味で、このままボケっとしているわけにもいかない。社会的にも、身体的にも死ぬのはゴメンだ……。

 幾度か急すぎる勾配を這ってでも登ろうとしたが、液化水素を背負ったままでは不可能に近い芸当だった。五度目位で俺は諦めて座り込み、暗視ゴーグルを外した。正真正銘の真っ暗が、俺の目に襲ってくる。もうどうにでもなれ、と俺はふて寝を決め込んだ。

 太陽のキツい光を感じて目を覚ますと、目の前に俺の組織のお得意先が立っていた。そして俺の横には上司が立っている。

「やっと起きたようだな」

 俺は真っ青になって起き上がり、

「本当にスミマセン! 落っこちちまって……」

「そんなに謝らなくても、取引は済んだからもう大丈夫だ」

 お得意先に言われて俺は周囲を見渡してみたが、俺がひーこら言って担いできた液体水素は確かにどこにも無かった。もう持って行かれたあとなのだろう。

 上司に尋ねられて、俺はことの一部始終を話した。

「蛇に噛まれた……か」

「はい、毒蛇なんじゃないかと思うんですけど……」

「まだ痛むのか?」

「えっと……あれ、あんまり」

 俺は傷跡を見てみたが、もう血も止まっているし熱も無い。というか、毒が回っていたのなら今頃生きていないわけだから、あれは普通の蛇だったということだ。

「ふぅん……人工っぽかったのに、俊敏にねえ……」

 上司は口に手を当てて考え始めた。俺はそれよりも気になっていることを尋ねた、

「それで……俺のミス、大丈夫なんですか……?」

「ああ、大丈夫だ。ミスった時の対処もきちんと考えてあったから、何の問題もない。気にしなくていいぞ」

 気にしなくていいぞ、という慰めの一言に、俺はほっとした。が、次の一言で背筋が凍った。

「もっとも、気にしたところでもう役には立たないだろうからな」

「そ、そんな……!」

 それは、クビの宣告に他ならなかった。

「それはそうだ、蛇に噛まれちまったんならな。もうウチには置いておけない」

 上司は苦々しく呟いた。


 解雇理由は蛇に噛まれたから、であった。

 どういうことかと思っていたら、次の日俺の家に警察が乗り込んできた。なんとあの蛇は人工物で、噛むことによって相手の体液を奪い、身元を特定する操作道具だったらしい。

 俺はトカゲの尻尾のごとく、組織から切り離されたわけだ。上司の態度はなにも間違っていなかったし、俺も受け入れるしか無かったが、……それにしても、山にも監視の手段を取り込むようになるとは、俺達にはもう居場所がなくなりつつあるようだ。

初めて時間内に完成できませんでした。

これは手直ししたものですが、無慈悲です。

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