表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/35

靴というリーダーシップ

(お題:謎の靴 )

 靴が壊れてしまった。壊れるといってもありきたりなもので、右の靴底が剥がれて歩く度にパカパカ言うようになったのだ。別に歩行に支障はないが、音が鳴るので恥ずかしい。

 携帯で靴屋を探すが見つからない。近くにあったしまむらに入ってみたが、合うサイズの靴がなかった。しょうがなく、右足をパカパカ言わせながら歩いていると、まるで小さな子どもになったような気分だ。あの、パフパフ鳴るあの靴を履いているような。

 信号待ちをしていたら、右足を思いっきりヒールで踏まれた。なんとも情けない声が出た上に、踏んだ相手はひとの足を踏んだことに気が付かなかったようで、すたすたと歩いて行ってしまった。凄まじい痛さだったが、どうやら大事には至らなかったらしい。でも、右靴のつま先に穴が空いた。もうこの靴を履くのは今日限りだな、と思うと急に気分が沈んできた。

 遠くにアパレルの看板を見つけたので歩いて行くと、途中で工事をやっていて地面がびしょ濡れだった。こんな靴で通ったら足がびっちょびちょになるのが目に見えているので、仕方なく近くの路地に入り遠回りをすることにした。路地裏には自販機があったので水を買ってちびちび飲みながら歩く。財布を出した時に確認してみたら、一足買えるか買えないかの境目くらいの持ち金だった。金を下しに行くことも考えたが、近くにコンビニも見当たらないから、とりあえずは店に急ぐことにした。

 途中、靴が地面から飛び出た釘にひっかかって、さらに大破した。もはや足にまとわりついた何かである。人の視線を感じつつも、でもこれは仕方ないだろ、と思いながら、歩いて行く。

 適当に目星をつけてさっきのとおりに戻ってみたら、工事現場は抜けた。看板のあったアパレルは目と鼻の先だが、信号を渡らなくてはいけない。別にさっき信号を待つ必要はなかったな、もう少し目が良ければヒールで踏まれることも無かったのに。

 信号をわたって店に入ったが、なんとここは靴を扱っていなかった。靴をパッカパッカ言わせて店を出る。遠くにコンビニの看板を見かけたので、今度は金を下ろすべしと歩き始める。

 と……唐突に、靴が直ったのでびっくりした。さっきまでパカパカ言っていたのが嘘のように、底がぴったりとくっついている。走っても飛び跳ねても壊れる気配がない。念のため脱いで確かめてみたが、確かに壊れていなかった。

 嬉しくなって、今度は堂々と工事現場の近くを通ってやった。つま先で水たまりの水を蹴散らすが、足はまったく濡れることがない。いい気分だ。さっきヒールで踏まれた信号の近くまでやってきても、今回はヒールで踏まれることはない。別に靴が壊れていたから踏まれたわけではなかろうが、それでもいい気分なことには変わりない。

 ゴキゲンになっていると、靴が壊れたスポットまで戻ってきてしまっていた。ところで最初はどこに向かおうとしていたんだっけ。携帯を取り出してみたがわからない。近くのコンビニに入って立ち読みをしてみたが分からない。まあ、いいか、別に支障はないし、靴が壊れた時と違って恥ずかしくない。

 適当にぶらぶら歩いていると、靴屋を見つけた。携帯で探しても見つからないほど辺鄙な店だったが、それでも品揃えはすごかった。中世の貴族が履いてそうなものから、蹴鞠専用の靴まである。

 靴が壊れっぱなしだったら、どれを買ってたかな、と店内を見て回ってみる。どれもこれもつまらなさそうな顔をして、棚に並べられている。いい顔をした靴はそんなになかった。いい顔をしていたのは蹴鞠専用の靴くらいだ。

「お客さん、靴が壊れてますよ」

 店員に話しかけられて、思わず下を見る。だが、靴は壊れちゃいなかった。

 そのことを告げると、

「いやいや、休憩中なんですよ。休憩が終わったらまた壊れます」

 店員はよくわからないことを言った。

「2650円で直しますよ。直した方が良いですよ」

 そう言われて財布の中を覗いたら、2540円しかなかった。さっき水を買ったんで、足りなくなったんだ。

 お金が足りないから良いです、という旨を告げて、店外に出た。

 ヒールで踏まれた信号が青に変わるのを待っていると、突然に靴が壊れた。直るのと同じくらい突然だったし、その壊れ方の程度はさっきの比じゃなかった。履くことが不可能なレベルだった。

 さっきの靴屋に戻ることを考えたが、金が足りないのでは意味が無い。金を下ろすためにコンビニに入った。なんと、カードが無かった。つい最近財布を変えたせいで、家に置いてきたのだ。壊れた靴を手で抑えながら履き、家に帰るべく電車に乗り込む。20分ほどしてターミナル駅、そこで乗り換えて20分。

 家に着いた時には靴はもう形をなしてなかったばかりか、無事だった左足の方まで破壊されていた。なんとかキャッシュカードを取ると、また電車に乗り込む。計40分。

「いい加減気づきなよ」

 唐突に話しかけられる。誰に話しかけられているか分からないが、やけに高い声だ。

「お客さん、靴に操られてますよ」

 何を言っているんだろうか、こんなの自分の意志でやってるに決まっている。電車を降りて、コンビニへと向かう。地元にもコンビニはあったし、銀行もあったが、やっぱりこのコンビニでないといけない気がした。もはや履けない靴を引きずり、金を下ろす。

 ……靴屋があったはずの場所に、靴屋はなかった。

 どこにいったんだよ、全く、と少し不機嫌になりながら、靴屋を探して歩き始める。足元で必死に靴だった布切れを引きずりながら。

 次の休憩はいつだろう。その時は、どこにいこうかな。

 とか、考えながら。

安部公房の「鞄」みたいなテイストですね。

実は主人公は一度も「俺」とか「私」とか使ってないんです、と言って、「へ~」という反応をもらうためだけに書きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ