第15章 第5話
二週間が経った。
望峰祭を明日に控え、学校はお祭り気分一色に染まっていた。
勿論我がコン研が催す二次元喫茶の準備も順調だ。梅原先輩と一緒に作った萌え会話ソフトも部員達の評価は上々。今日はみんなで出店準備に大わらわだ。出店場所の二階地学室は飾り付けも進み、それらしい雰囲気を醸し出していた。
僕は喫茶メニューの買い出しに向かう途中、聞こえてきた歌声に体育館の中を覗き込んだ。そこには再結成した中吉らららフレンズの三人が真剣な表情で最終のリハーサルを行っていた。
「綾音先輩、ここでわたしは右の袖に行きますから、先輩は左の袖でお願いしますっ!」
「分かったわ」
「ふっ、じゃあここで麻美華は持ってるギターをたたき壊そうかしら」
「いや、そこまでロックンロールしなくてもいいですから! アイドルステージですから!」
「じゃあ、ここの曲が終わったら麻美華のトークが一分ね。絶対ウケるから安心しなさい」
最初は再結成を拒んでいた礼名もやると決まったらノリノリだ。歌っている顔は生き生きとしているし、進行表を持ってスタッフと打ち合わせする表情も真剣そのものだ。僕は明日を楽しみにしながらその場を後にした。
近くのスーパーで買い出しを済ませ地学室に戻ると桜ノ宮さんが入り口に大きなメニューを貼っていた。
「あっ、桜ノ宮さん、もうリハーサルは終わったんだ」
「ええ、あとは本番を待つだけ。神代くんも絶対見に来てよねっ!」
「ああ、勿論だよ」
「ステージに花束とかぬいぐるみとかお捻りとかを投げ入れてもいいのよ。あっ、神代くんなら花束を持ってそのままステージに上がってくれてもいいわ。あたしが受け取るからねっ、うふっ!」
「何がうふっ! だよ」
「そうしたらステージの上で神代くんが妊娠しちゃうかもっ!」
「しねえよ! だいたいステージ上で妊娠するって、なんのステージだよ!」
礼名とか麻美華の影響だろうか? 最近桜ノ宮さんが壊れてきた気がする。以前は極めて常識人だったのに。アーメン。
「ともかく明日はいいステージにするわ。そうそう、礼名ちゃんも凄く楽しそうだったわよ、らららフレンズの練習」
そう言うと彼女は部屋の中に入っていく。
彼女が貼ったメニューを眺めていると、
「あら悠くん、コン研の準備はもう出来たのかしら?」
その声に振り返ると上から目線が僕を突き刺した。
「あと、もう少しだよ」
「今日は悠くんにお話があるんだけど」
「あ、ちょっと待って」
僕は買ってきた砂糖やら紅茶葉やらを菊池に手渡すと麻美華と並んで廊下を歩く。
「どこも望峰祭の準備で大忙しだね」
「そうね。礼名ちゃんも凄く忙しそうね。らららフレンズの練習もだけど、クラスの出し物でも頑張っているみたいだしね」
礼名のクラスは「世界一贅沢なプリクラ」と称し、写真スタジオみたいなことをやるらしい。衣裳がたくさんいるからと言って家にある服を根こそぎ持ち出していた。
「私ね、礼名ちゃんが何と言おうと生徒会に引き込むつもりよ。それでね…………」
麻美華が語った企てに、僕は思わず大声を上げる。
「ちょっ、それは無茶苦茶だ!」
「無茶は100%も承知、200%も合点よ。だけど麻美華が考える次の生徒会はこれしか考えられないのよ」
「イヤだ」
「好き嫌いはいけません!」
「でも……」
「でも、じゃありません、お兄さま! たまには妹のわがままを聞いてください!」
いや、常にワガママ言われてる気がするのだが……
「そんなことしたら礼名が反発して大変なことになるよ!」
「大丈夫、麻美華が力ずくで押し倒してあげます! お兄さまだって麻美華の味方をしてくれますよね!」
「こればかりは……」
「お兄さま、麻美華の気持ちも聞いてくださいっ!」




