第15章 第1話
第十五章 文化祭だよ、三人集合!
ここは南峰高校の生徒会室。
会議テーブルには桜ノ宮さんと麻美華に礼名、そして僕が座っている。
「ちょっと、それって脅迫じゃないですかっ!」
「礼っち、何を怒っているの? 私はただ事実を言っているだけよ」
「あたしは別に構わないけど……」
月曜の放課後、麻美華から生徒会室に呼び出されたのは文化祭についてのことだった。
南峰高の文化祭『望峰祭』は二日間、九月最後の金曜日と土曜日に行われる。金曜は在校生だけのイベントだが、土曜日は父兄や近隣の方など広く一般開放して、毎年活況を呈している。どこの高校もそうであるように、望峰祭でも部活やクラスが思い思いの出し物で楽しませてくれるのだが、毎年人気を博しているイベントに「生徒会のステージ」がある。
去年の生徒会の出し物は、
『ロミオとジュリエットだけど異世界行ったらハッピーエンド?』
なるトンデモ劇だった。ちなみにその前の年は、
『ロミオなんか全然好きじゃないんだからねっ!』
と言うトンデモ劇だ。要するに生徒会は毎年ロミジュリのトンデモ劇でウケを取っているのだ。
ところが、今年は生徒会に『中吉らららフレンズ再結成ステージ』の要望書が大量に舞い込んでいるというのだ。そこで、生徒会副会長である麻美華が桜ノ宮さんと礼名に文化祭での再結成を打診。しかし、土曜日はオーキッドの営業日。店を開けるために仮病を使って文化祭をエスケープしようとしていた礼名が猛反発。そんな礼名に麻美華が一枚の企画書を見せているところだ。
「再結成しないのなら、こんな出し物になるわよ」
テーブルに置かれているのは、毎年恒例のロミジュリ企画だ。
演目 ロミ子とジュリエッ太
脚本 文芸部
演出 演劇部
キャスト
ジュリエッ太 倉成麻美華
ロミ子 神代悠也
…………
…………
「なんですか、このロミ子とジュリエッ太って!」
「おかまなロミオと男女なジュリエットの恋の物語らしいわ」
「お兄ちゃんが女装するんですかっ?」
「そう言うことになるわね」
「それはそれで見たいですけど、でもロミオ役は生徒会長の林田先輩がすべきじゃないですかっ!」
その声に、執務机で仕事をしていた林田会長が顔を上げた。
「いや、倉成さんと神代くんの仲は有名だからね。この配役の方が絶対ウケるって思惑らしい。ちなみに僕はロレンス上人役で、礼名さんは男装してマキューシオ役だってさ!」
「何なんですかそれはっ! ウケれば何でもいいんですかっ!」
「うん」
「ウケればいいのよ、節操無くても」
「当然ね」
みんな瞬時に肯定する。
「いや、ちょっと待ってください、おかしいです! どうして生徒会に縁もゆかりもお金もないわたしとお兄ちゃんがこんな事に巻き込まれないといけないんですかっ!」
「配役指定したのは文芸部だから文句はそっちに言って。さあ、どうするの? 礼っち」
「どっちもイヤですっ!」
「そんなわがまま許されないわよ」
「わがままじゃありません、当然の権利の主張ですっ!」
「じゃあ、土曜日に仮病使うこと、先生に言いつけようかしら」
「麻美華先輩は鬼ですか! オオカミですか! 悪い魔法使いですかっ!」
「白雪姫、かしら?」
「自分で自分を白雪姫とか言っちゃうなんて、信じられません!」
「じゃあ、シンデレラ?」
「ジュリエットだったでしょ!」
しかし、仮病を持ち出している時点で、この議論に礼名の勝ち目はなかった。
「ともかく、このロミジュリは絶対にイヤです。お兄ちゃんと麻美華先輩のロミジュリなんて演技といえど耐えられません! 当然、キ、キ、キスシーンとかも……」
「あるでしょうね」
「そんなっ! ……仕方ありません、中吉らららフレンズを再結成しましょう……」
結局、彼女は渋々ながら再結成を承諾する。
「土曜日はお店、臨時休業ですね。はあ~っ……」
大きな溜息を漏らす礼名
しかし、中吉らららフレンズを再結成することは、麻美華は元より桜ノ宮さんもかなり乗り気だった。
「楽しみね。じゃあ、あたしはこの辺で。神代くん、一緒にコン研に行きましょう! コン研の文化祭の準備しなくちゃだし」
「ああ、そうだね」
僕らが席を立とうとすると、麻美華は礼名を呼び止めた。
「礼っち、別の話があるから少しだけ残ってくれるかしら?」
「えっ、何ですか? これ以上厄介な話はイヤですよっ!」
「残念ながら厄介な話よ。目の前の冷凍チャーハンの賞味期限が今日までなのに、今晩はもうお腹いっぱいで何も食べられない! どうしようこの冷凍チャーハン、ってくらい厄介な問題よ」
「いや、賞味期限は切れても三日以内なら大丈夫です! 三日ルールです!」
「それは、何かがごっちゃになっているわ」
「じゃあ、タイムマシンで過去に持って行って食べるとか」
「ナイスなボケだわ、礼っち」
このふたり、仲が悪そうで実は凄く気が合っている気がする。
「そんなの、賞味期限をサインペンで書き換えてから食べたらいいんだよ!」
「あっ、さすが悠くん、名案だわ! うちのメイドにも教えておくわね」
「ごめん。バカにされるから、やめて」
麻美華のボケに敗北感を感じつつ、僕は席を立つと桜ノ宮さんとコン研へ向かった。




