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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十三章 温泉まんじゅうにご用心
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第13章 第5話

 翌朝。

 僕たちはななちゃんとおばあさんも誘って高原へと向かった。


「悠くんはやっぱりロリっ子がお好みなのかしら?」

「違うって! ななちゃんのおばあさんに是非って頼まれたし」


 麻美華は少し不満顔だったけど。


「さあ、ここで悠くんのロリコン度チェックよ。あなたは名門女子小学校の先生です。担当したい授業はどっち? いち・音楽、に・体育」


 どっちもイヤな予感しかしなかった。

 音楽は女子小学生の笛をめ回す変態にされそうだし、体育は女子小学生のブルマが大好きな変態にされそうだ。


「じゃあ、さんの算数で」

「えっ! 悠くん、すっごくイヤらしいのね。女子小学生と一緒に四十八ピーだったり69ピーだったり1919ピーだったりするなんて!」

「全然意味わかんないよ!」


 やがて。

 高原まで運んでくれたゴンドラから降りるとたくさんのヤナギランが出迎えてくれる。

 天気にも恵まれて、緑の空気が爽やかだ。


「おはながきれい~っ!」


 見渡す限り広がる紫色のヤナギラン。

 ななちゃんは喜々としてその方へ駆け出す。


「ななちゃんはお花が好きなんだ!」

「うん。おかあさんもおはながだいすきなんだよ」

「へえ~、そうなんだ」


 僕の横で孫を見ながら複雑は表情を見せるおばあちゃん。

 白い日傘を差す彼女は僕に頭を下げる。


「本当にありがとうございます。孫がこんなに喜ぶなんて」

「そうなんですか? ななちゃんはいつも明るく元気に思えるんですけど?」

「ええ、明るくて優しい子なんですけどね……」


 おばあさんの話によると、家でのななちゃんはほとんど笑わないそうだ。絵本を読んだりテレビを見たり、一見普通の子供と変わらないそうだが……


「あの子はもっと親に構ってもらいたいんでしょう。お恥ずかしい話ですけど……」


 彼女の両親はそれぞれ仕事があって、ななちゃんが寝た後に帰って来るのが常らしい。だけど、利発な彼女はそのことでぐずる事はないそうだ。それより、両親の不仲を敏感に察しているかもしれない、と言う。


「ななは賢い子でね、寝たふりをして大人の会話を聞いていたりするんですよ…… あっ、ごめんなさいね、ヘンな話をして」


 草原に立つななちゃんは、三人のお姉さんに囲まれてはしゃいでいる。

 僕もおばあさんと一緒にそっちに歩き出す。


「綺麗ね。ヤナギランはランと名がついてますけど、ランじゃなくアカバナ科なんですよね」

「お詳しいんですね」


 ええまあ、と言う彼女の横顔は少し寂しそうに見えた。

 しばらく大自然を満喫した僕らは、ゴンドラに乗りまた温泉街へと戻る。


「楽しかったね~」

「うん!」


 礼名とおばあちゃんに両手を繋がれて、ななちゃんはご満悦。


「あっ、おばあちゃん、あっちのお店、おまんじゅうがあるよ! おいしそうだよ」

「そうね。みなさんもどうかしら?」

「あっ、いえ、あ!」

「まあ、遠慮なさらずに」


 結局。

 その日もおばあさんが奢ってくれた大量の温泉まんじゅうに囲まれて。

 もう、まんじゅう見ただけで妊娠しそうだ。


 まんじゅう怖いよ。


          * * *


「「ただいま~」」


 誰も待っていない家。

 部屋の灯りを点けると、礼名は真っ先に温泉まんじゅうを仏壇に供える。


「お父さんお母さん、ありがとうございます。楽しかったです。でも、ちょっとだけ……いじわるっ!」


 帰りのバスの中、ななちゃんは桜ノ宮さんの膝の上でぐっすり寝ていた。

 礼名はななちゃんのおばあさんと並んで、僕の横には麻美華が座った。


「楽しかったわ。今度は麻美華が悠くんを招待するわね。どこに行きたいかしら? メルボルン? バルセロナ? ペンタゴン?」

「いや、海外旅行なんてガラじゃないし、それに最後のは何か違うような」

「はあ~っ」


 いつもの上から目線を窓の外に向けると彼女は深い溜息をつく。


「悠くんは商店街の福引きに当たらない限り旅行にも行けないご身分なのね」

「いや、倉成さんから見たら面白味がない生活に見えるかもだけど、僕は毎日とっても充実しているよ。オーキッドも順調だしさ」


 麻美華と桜ノ宮さんのお陰もあって、店の改装資金は順調過ぎるほどに貯まっていた。

 実は先週、僕と礼名は店の改装を実行に移した。但し、クレープの窓口販売をするという当初目標を変更して、カウンターレジの横にコーヒーのテイクアウト窓口を移設するだけにした。そうすることで少ない人数でテイクアウトに対応出来る。それに、礼名とふたりで店を回そうとすると、クレープ販売は無理だと気がついた。


「テイクアウトはお兄ちゃん考案の『南国スイートコーヒー』一本にしようよ。今やオーキッドの一番人気だし、ムーンバックスとも被らないしさ」


 僕らは麻美華や桜ノ宮さんに頼りすぎている今の状況を反省していた。

 早くふたりだけで続けられるお店にならなくちゃ。

 明日は工事の打ち合わせ。

 夏休みが終わる頃には新装カフェ・オーキッドが誕生する予定だ。


「ねえ、お兄ちゃん。このところみんなにオーキッドを手伝って貰ったり三人でロコドルやったりと賑やかだったけど、改装が終わったらまたふたりで仲良くやっていこうねっ!」

「ああ、そうだね。あのふたりも本当は忙しいはずだし」


 今夜は、大根の葉っぱ炒めスパゲティ。

 安上がりだけど、これが結構美味い。


「お兄ちゃんが大学に行くお金もいるし、結婚資金もいるし。新装カフェ・オーキッド楽しみだね。礼名頑張るよ!」

「僕は別に大学なんて……」

「ダメだよお兄ちゃん! 目標を簡単に変えちゃダメだよ!」

「……」

「これからもふたりで頑張っていこうね。お兄ちゃん、よろしくお願いします!」


 ぺこり頭を下げる礼名に僕の胸は激しくうずく。

 気がつくと抱えきれないほどに膨れあがっている礼名への秘密。

 彼女と僕は、実は血の繋がりがなくて。

 実は麻美華が僕の妹で。

 何より今の生活が本当に礼名の幸せに繋がるのか、僕自身が疑問で不安で仕方がない。


「こちらこそ、よろしくな」

「うん。あっ、お兄ちゃん!」


 礼名が指差す窓の外、遠くの空に真っ赤な花を咲かせる打ち上げ花火。


「綺麗だねっ」

「うん……」


 純真無垢な礼名の笑顔。

 その瞬間、僕はこの笑顔を大切に守っていこうと心に刻んだ。



 第十三章 温泉街・満喫しすぎにご用心  完


 第十三章 あとがき


 こんにちは。おおしまななです。

 このおはなしをよんでくれて、ありがとうございます!

 きっさてんのおにいちゃんと、ななと、れいねえちゃんと、まみねえちゃんと、あやねえちゃんと、それからみんなのおはなしおもしろいですか? えっ、ひらがなばかりでよみにくい? う~ん、じゃあ、なな、おとなモードにへんしんするねっ! へんしんっ!


 この章は福引きで当たった温泉旅行のお話だったけど、まあ、温泉とか浴衣姿とか、アニメで言うとこの「水着回」みたいなものかな。お写真とか絵とかが無いのが残念だけど、ななもすっごく可愛かったんだよ。うめ組さんのお友達はみんな鼻血ぶーってなるんだよ!


 えっ? お便りがきてるの?

 じゃあ、なな読んでみるね。



 ななちゃんこんにちは。

  …… こんにちは。

 お菓子をあげようか?

  …… いりませんっ!

 ななちゃんは悠也お兄ちゃんが大好きだけど、どうして好きになったのですか?

 僕は二十五歳だけど、ななちゃんみたいに可愛い女の子と仲良くなるにはどうしたらいいのかな? おしえて、ななちゃん!



 って、なな引いちゃうお手紙だけど。

 えっとね、悠也お兄ちゃんは優しいし、かわいい感じだし、中吉らららフレンズにモテモテだったし、それに、う~んと…… 女の本能、かな。理屈じゃないんだ好きになるって。


 それからね、おとなの男の人がちっちゃい女の子と仲良くなる方法、なな知ってるよ。とっても簡単だから教えてあげるねっ。ここだけの秘密だよ。


 まず、お兄ちゃんが気になるオトナの女の人を落として結婚しよう! ここまではすっごく簡単だよね。バナナの皮をむく方が難しいくらいだよね。

 さて、結婚出来たら幸せになろうね。幸せになったらあら不思議。大きな鳥さんが可愛い女の赤ちゃんを運んでくるよっ! とってもとっても可愛いよ! よかったね、これで完成。あとは赤ちゃんを大事に大事に育ててね。きっと仲良しになれるよっ!


 と言うわけで、次の予告だよ。


 念願叶ってオーキッドを改装した悠也お兄ちゃんとれいねえちゃん。

 営業効率を高めた新店舗はふたりだけで営業できる工夫がされていたんだ。また昔のように「ふたりのお店」に戻れるはず、なのに。新装祝いの花々に囲まれても、れいねえちゃんの心は穏やかではなかった……


 次章「胡蝶蘭こちょうらんとサルビアと」、楽しみにしていてねっ!

 勿論、ななも出てくるよっ!


 それじゃ、またっ! 大島七菜でしたっ!


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