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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十三章 温泉まんじゅうにご用心
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第13章 第4話

「あ~っ、いい湯だった~」


 寝る前に、もうひと風呂浴びようと言う事になった。

 旅館の大浴場は天井まで完全に女湯と区切られていて、誰にも邪魔されず気持ちよく手脚を伸ばした。

 僕は鼻歌交じりに部屋に戻る。

 女性陣はまだ温泉を楽しんでいるのだろう、誰も戻っていない。


 部屋には仲居さんが整えてくれた布団が二組、綺麗に並んでいる。礼名が泣いて喜びそうなシチュエーションだ。口ではお嫁さんにしろだとか婚約しろだとか言いまくる礼名だけど、しかし無断で僕の部屋に忍び込んだり、突然抱きついて来たりといった強引な行動に出ることはない。彼女は清い体のまま新婚初夜を迎えるらしいので、そう言う点では兄妹並んで寝ても心配はない。ただし、僕さえ変な気を起こさなければ、だけど。


 ななちゃんが戻った後も暫くカードゲームなんかに興じていたから、時計は十二時になろうとしてる。

 今日は結構動いたし温泉まんじゅうでお腹も満足だ、僕は並んでいる布団を少しだけ離すと左の布団に横になって目を閉じた。


 このまま寝たふりを決め込もう。

 よく『美人は三日で飽きるけど、ブスは三日で慣れる』と言うけれど、そんなのウソだ。

 吸い込まれそうな礼名の綺麗な瞳に見つめられると、僕は気が狂いそうになる。物心つく前からずっと一緒に暮らしてきたのに彼女の魅力は増すばかり。だから、こんな部屋でふたりっきりなんて僕の理性が持ちそうにない。


 やがて。


「じゃあ、おやすみなさ~いっ!」


 廊下から声がすると部屋の襖が開く。


「あっ、お兄ちゃん、もう寝てるの?」


 ここは寝たふり。


「お布団はきちんと並べないとね……」


 僕が離した布団をまた綺麗に並べ直しているようだ。


「これでよし」


 僕のすぐ横に礼名の気配がする。風呂上がりの甘い石鹸の香りが近い近い!


「お兄ちゃん、今日はごめんなさい。折角のご馳走だったのにね」


 やばい。


 礼名が僕の顔を覗き込んでいるようだ。


「礼名は知ってるよ、七夕飾りに礼名の幸せを願ってくれたこと。お兄ちゃんありがとう。礼名は凄く幸せだよ。だけど少しだけ不安なんだ。麻美華先輩も綾音先輩もすっごく魅力的だし、それに……」


 礼名何をしている! 僕の前髪を掻き上げるな!


「せっかくふたりっきりなのに先に寝ちゃうなんて、礼名はそんなに魅力ないのかな?」


 寝たふり寝たふり。


「ねえ、お兄ちゃんは幸せですか? 礼名はお役に立てていますか?」


 …………


「お兄ちゃんはいつも礼名のために頑張ってくれて。ねえ、お兄ちゃんも礼名にわがままを言ってくださいね。礼名に気を遣わないでくださいね!」


 何て可愛い妹なんだ……


「それじゃあ、おやすみなさい、お兄ちゃん!」


 目の前にあった礼名の気配が消える。

 そして部屋の電気が消えると、礼名は横の布団に潜り込む。


「!!」


 やおら、僕の右手に細く柔らかい礼名の指が絡んできた。


「お兄ちゃんの手、大きい…… あっ!」


 しまった。

 思わず礼名の手を握り返してしまった。


「えへへっ! 今日は手を繋いで寝ようねっ!」


 ちらり薄目を開けた僕の目の前に、礼名の大きな瞳が!


「礼名!」

「お兄ちゃん、起きちゃった?」


 窓から差し込む薄明かりに彼女の端正な顔立ちが浮かぶ。

 僕の心臓がどくんと跳ね上がる。


「あの、お兄ちゃん、今日はごめんなさい……」


 もうダメだ。

 思わず左手を礼名の華奢な肩に伸ばす。

 礼名は言葉を紡ぐのをやめ、はにかむように微笑んだ。

 そして小さく肯く。


「礼名!」

「お兄ちゃん!」


 彼女の大きな瞳を見ていると、全てを忘れてしまいそうだ。


「…………」

「…………」






 と、その時。

 突然、襖が開く音がしたかと思うと、部屋の灯りがついた。


「お邪魔するわね、おふたりさん!」


 驚いて入り口に目を向けると布団を抱えた麻美華の姿が。


「もしかして、もう寝てたの?」


 そして、その後ろに布団を抱えた桜ノ宮さんの姿。


 僕と礼名は慌てて互いに逆を向く。


「なっ、何ですか!」

「あら、せっかくみんなで温泉旅行に来てるのだから、みんなで一緒に寝ないといけないでしょ!」

「どうしてですか! いくらお兄ちゃんが人畜無害な草食系でも、年頃の男女が入り乱れて寝るわけにはいきませんよね!」

「礼っちは一緒に寝てるじゃない?」

「わたしとお兄ちゃんは兄妹だから問題ないんですっ!」

「その兄妹が一番怪しいのよね。さっきも慌てて絡み合っていた足を離したし」

「足じゃありません、手ですっ!」

「白状したわね礼っち。指と指をねっとりクチュクチュ絡み合わるなんてイヤらしいわね」

「普通に握っていただけです!」

「いけないわ神代くん! そんなことしたら赤ちゃんが出来ちゃうわよ!」

「出来ねえよ!」


 と言うわけで。

 僕たちの牡丹の間には布団がよっつ並ぶことになった。


「どうして麻美華先輩と綾音先輩がお兄ちゃんの両横を占拠するんですか! どうして妹であるこのわたしだけがお兄ちゃんから離れるんですかっ!」

「あら、悠くんの隣はこの麻美華の場所だと決まっているのよ」

「こうして神代くんの隣で眠ると、朝にはきっと新しい命が神代くんのお腹に……」

「おふたりとも言ってることが意味不明ですっ! と言うか、この部屋に存在すること自体が意味不明ですっ! お兄ちゃんも何か言ってやってくださいっ!」

「仕方ないだろ、じゃんけんで布団の並びを決めたんだから」


 ひとり布団から立ち上がっていた礼名が力なく肩を落とす。


「礼名はお兄ちゃんのたったひとりの妹で、そして未来のお嫁さんなんですよ……」


 しかし麻美華は礼名の抗議を気にも留めない。


「さあ、これから中吉らららフレンズの思い出を語り明かしましょう!」


 その夜、四人はこれまでの楽しかったことや辛かったことを語り合った。あんな事やこんな事も語り合った。かくかくしかじか語り合った。

 僕は天井だけを見つめていたけれど、麻美華と桜ノ宮さんの甘い匂いに包まれて胸がドキドキ鳴りっぱなし。だけど、これは誰に対しての気持ちなのだろう。


 今日は一日、三人の美少女に振り回されっぱなしだったけど、その後、中吉らららフレンズの三人は僕の夢の中にまで現れた。


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