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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十二章 七夕セールに願いを込めて
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第12章 第1話

 第十二章 七夕セールに願いを込めて



 商店街の公園に突如出現した十畳程度の仮設ステージ。


「お客さんいっぱいですねっ!」

「そうね、やはりこの麻美華の人気かしらね」

「あたし、少し緊張してきちゃったわ」


 初夏の日差しが降り注ぐその舞台の横で、白いテントの中から外の様子を伺う三人の美少女たち。


「最後にもう一度進行表を確認してくれ。さあ、時間だ!」

「「「はいっ!」」」


 胸の白いリボンが栄える赤いセーラーワンピース。ローカルアイドル、中吉らららフレンズの三人、礼名、麻美華、そして桜ノ宮さんは僕の言葉に元気よくステージへと駆けだした。


「「「みなさ~ん、ようこそ中吉商店街へ~!」」」


 選挙が終わって三週間、いよいよ今日から中吉商店街恒例の七夕セールだ。

桜ノ宮候補が僅差きんさでの当選を果たし、中吉らららフレンズは、結成の裏に隠された使命を果たした。しかし、七夕セールを盛り上げるという、本来の活動はこれからだ。


「うちの店の一日店長になってもらえんだろうか?」

「福引き会場に居てもらうと華になるわ~!」

「商店街の入り口でチラシを配って貰うと、お客さんがいっぱい来そうぞよ」

「中吉商店街のアイドルなんでしょ、やっぱり歌のステージは絶対よね!」


 七夕セールのイベントを話し合う集会で、中吉らららフレンズにはたくさんの要望が出された。選挙も終わり、無理して頑張る必要もないのに、三人はみんなの期待に片っ端から応えようとした。生徒会や部活も忙しいはずだし、だいたい例年七夕セールは福引き抽選会以外にたいしたイベントはないのだ。


 けれども。


「あたし、精一杯頑張りますっ!」

「そうね、やるんならとことんやるわよ。一日三ステージよ!」


 恩義を感じる桜ノ宮さんだけでなく、何故だか麻美華も大乗り気だ。


「麻美華先輩、一日三ステージって、一体何をするんですか!」

「じゃんけん大会よ」

「じゃんけん大会だけじゃ、みんな飽きます!」

「じゃあ歌うわよ」

「わたしたちの歌は一曲しかありません!」

「だったら作ればいいわ。あと三曲ほど宜しくね。作詞はポエム大魔王と言われた悠くんに頼むわ」

「僕はポエマーじゃねえ!」

「じゃあ、ポエムマンってことで。格好いいわね、ポエムマン。怪人たちよ掛かってこい!ポエムマンのポエムを受けてみろ! 詠むぞ必殺、ラブポエム朗読~!」

かゆすぎるわ。だいたい詩人はポエットだろ!」

「ドモアリガット ミスターポエット」


 ともかく、歌う気満々だった。

 礼名も商店街のみんなに期待されるのは満更でもないらしい。曲作りは無理としても、モニサン所属の人気アイドルのヒット曲を歌うべく使用許可を取り付けた。


 今日土曜日から来週の日曜日まで、三人の予定はびっしりだ。

 週末はステージを毎日一回。空いた時間は希望があったお店の一日店長として店頭に立って貰う。商店街が面する大通りで配って貰うチラシも五千枚を用意した。後半の土日は福引き抽選会も受け持って貰うことになった。


「お兄ちゃんがマネージャだよ!」

「そうね、他にいないわよね」

「あたしの赤ちゃんもマネージメントよろしくね!」

「ちょっと待った。僕まで行動を共にしたら、カフェ・オーキッドはどうするんだ!」

「大丈夫だよ、私に考えがあるよ」


 自信満々に答える礼名。

 最近の彼女の知将ぶりにどんな凄いアイディアが出るかと思いきや、クラスメイトに店番を頼むという猫でも思いつく方法だった。そんなわけで、今、オーキッドには岩本と田代さんが居る。


「それじゃあ、今からじゃんけん大会を始めますっ! 一等賞は商店街のお買い物券一万円分と、わたしたち中吉らららフレンズとの記念写真ですっ!」

「わああああっ!!」


 かなり盛り上がってる。


「じゃあ皆さんお立ちくださ~い! 私とじゃんけんして勝った人は手を上げたまま、負けた人は手を下ろしてくださいね~! ずるは許しませんよ~! じゃあ、一回戦いきま~す。じゃんけ~ん、ぽんっ!」


 じゃんけん大会の進行役は意外にも麻美華だった。いつもの上から目線と高ビーな物言いはどこへやら、完璧にアイドルしていた。普段の顔と妹の顔、彼女が別の顔を使い分けるのは知っていたが、こんなに見事に豹変されると、一体どれが彼女の素顔か分からなくなる。

 ステージ上の桜ノ宮さんと礼名も雰囲気を上手に盛り上げている。まあ、このふたりはステージ度胸満点だろうと予想はしていたが。


 優勝したのは、まだ小さな可愛らしい女の子だった。

 僕は倉成光学製フラッグシップ一眼レフデジカメを手にステージに登る。勿論、一等副賞の記念撮影をするためだ。ファインダーの中で中吉らららフレンズに囲まれて嬉しそうにはしゃぐ女の子。写真はその場で倉成通信製小型プリンターで印刷し女の子に手渡す。商品券一万円分は付き添いのおばあさんに手渡した。


「それでは!」

「次はわたしたちの歌と踊りでお楽しみ下さいっ!」


 続けざまに人気アイドルのヒットナンバーを歌って踊る三人。みんな輝いている。妹とかクラスメイトとか部活メイトとか、そんなのを忘れてアイドルとして見入ってしまう。うっかりファンになってしまいそうだ。


「やっぱり礼名ちゃんは何をやっても上手だね」


 振り返ると商店街会長の三矢さんが立っていた。


「そんなことないですよ。でも今回は気合い入ってるみたいですね」


 彼女達はこの日に向けて連日猛練習を繰り返した。ある時は生徒会室で、ある時はスタジオを借りて、そして最後の仕上げに三人だけでドーム球場を貸し切って練習した。児童公園でのイベントリハーサルを何故ドーム球場を貸し切ってやる必要があるのか理解に苦しんだが、倉成家のお嬢さまが考えることは良く分からない。


 いつしかステージは最高潮に達している。


「ありがとうございま~す! 最後はわたしたちのオリジナル曲です。聴いてください、『となりにいるよ』!」


 最後は礼名が作詞作曲したというオリジナル曲だ。



  嬉しいときも 悲しいときも

  いつも君の となりにいるよ

  中吉らららフレンズ~



 スローなスタートから一気にテンポが上がる。伴奏はピアノ一本。勿論、礼名の演奏を録音したものだ。



  出口のない トンネルなんてない

  朝の来ない 夜なんてありゃしない

  落ち込んでも 凹んでも

  何度だって 立ち上がれるよ

  わたし信じているの 君を信じているよ

  絶対 夢は 叶うんだって

  【To be a shine star!】


  楽しいときも 寂しいときも

  だから君の となりにいるの

  中吉らららフレンズ~



 彼女達の歌声は公園に詰めかけた老いも若きも巻き込んで、大きな手拍子と声援に溶け込んでいく。やがて割れんばかりの喝采を残して、彼女達の感謝の言葉が青い空に吸い込まれていった。


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