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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十一章 三人でローカルアイドルになってみた
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第11章 第6話

 金曜日は七夕セールのポスター撮りだ。

 白い胸のリボンが眩しい赤のセーラーワンピース。可愛い茶色のショートブーツで揃えたとびっきりの美少女達がカメラに笑顔を投げかける。


「いいねいいねっ! じゃあ次はピストルを撃つような感じでさあ……」


 放課後、麻美華手配の黒い車に飛び乗り、朝日さんに紹介された撮影スタジオに飛び込んだ。山之内さんが徹夜で仕上げてくれたという中吉らららフレンズのユニフォーム。アイドル衣裳にしか見えないその服を着てメイクさんの手に掛かると、彼女たちは雑誌のグラビアから抜け出してきたような輝きを放ち出す。


「カメラマンさん、ここで一曲歌いましょうか?」

「いや、歌はいいから次はみんなでジャンプしてみよう。うん、いいねいいね!」

「マイクなしでアカペラでも歌えましてよ!」

「いや、歌はいいから。じゃあ、みんなもっと寄ってみようか!」


 さっきから、麻美華はやたら歌うことにこだわっている。彼女はあれか? マイクを持つと舌でペロペロ舐め回す…… じゃなかった、マイクを持つとランキングでトップを取るまで離さないタイプか?


「じゃあ、次は温泉旅行用のポスター撮りにいきます!」

「はいっ! ありがとうございますっ!」


 ふたりは笑顔で、ひとりはすました顔で頭を下げると、衣裳の着替えに走る。

 今回作成するポスターは七夕セール宣伝用と、福引き抽選会宣伝用の二種類だ。今年の福引き景品一等賞は温泉旅行なので、三人には浴衣姿になって貰うことにした。


「えっとプロデューサーさんですね、ポスターのデザインについてお話しましょうか」

「あ、はい、お願いします」


 僕がポスターに埋め込んで欲しい文言や商店街の思惑なんかを伝えて打ち合わせをしている間に、浴衣姿に変身した金髪と赤毛、黒髪の少女三人の撮影が始まる。


「なかなか面白い趣向をお考えですね」

「まあ、そうですね。小さな商店街に注目を集めるのが目的なので……」


 今回のポスターは、『とある趣向』を凝らしてみた。だから例年より多めにポスターを刷ることになる。


 一通りの打ち合わせを終えると、ぼんやり撮影風景を眺める。

 スタジオで用意された青い浴衣に金髪が艶やかに栄える麻美華。完全な日本人顔なのに金髪なのは何故だろうか。今まで気にしたこともなかったけど、ふと気になる。

 紫の浴衣を着た桜ノ宮さんはグッと大人の雰囲気だ。大きな胸の膨らみは浴衣の上からでも超弩級の色香を放っていた。

 そして可愛いピンクの浴衣を纏った礼名。愛らしくも凛と咲く可憐な花は、いつも明るく撮影のムードを引っ張っている。我が妹ながら見ている内に頬がほころんでしまう。


「はい、もう一回楽しく笑ってみて~」


 眺めている間にも、三人の魅力が次々とレンズの中に納められていく。


「はいっ、オッケーです!」

「ありがとうございましたっ!」


 撮影を終えるとみんな僕の元に集まってきた。


「誰が」

「一番」

「可愛かった?」


 三人に一言ずつ、器用に連携して問いかけられた。


「そりゃみんなだよ。みんな凄く可愛いかったよ」


「誰が?」

「一番?」

「可愛かったって聞いてるの!」


 三人の器用な連携問いかけの語尾が鋭くなった。


「だから、みんなとても可愛かったってば!」


「一番は」

「一人だけしか」

「いないんだよ!」


 いつからこんな器用な芸当を覚えたのだ、こいつらは。


「ほら、明日も取材があるから、早く帰って休もう!」

「「「ずるいっ!」」」


 着替えに向かう三人を見ながら、僕は昨日のことを思い出していた。

 昨日から中吉らららフレンズのメディア露出が始まったのだ。

 六時のニュースでも。




「以上、選挙戦の話題でした。では次の話題です。

 中吉町にある中吉商店街では、恒例の七夕セールに向けて新たな試みを始めました……」

『みなさ~ん、中吉商店街へ来てくださいね~っ!』




 画面の中から笑顔を振りまく美少女三人。カフェ・オーキッドの制服に身をくるんで元気に手を振る。




『あなたと中吉商店街を結ぶ物欲のキューピッド、中吉らららフレンズもお待ちしていま~すっ!』

「中吉商店街の宣伝使節団として結成されたローカルアイドル、中吉らららフレンズの三人です。商店街恒例の七夕セールに向けて中吉商店街を盛り上げていくとのこと。活躍に期待したいですね」

「皆さん可愛らしいですよね。ちなみにメンバーのおひとり、桜ノ宮綾音さんは先ほどお伝えした桜ノ宮候補の娘さんなんですよ」

「お父さんに負けじと娘さんも頑張っていますね。では、次のニュースです……」




 ニュース番組内における一服の清涼剤ネタとして使われていた。さりげなく桜ノ宮候補の娘が頑張っていることを織り交ぜてくれて、僕たちの期待通りの内容だ。

 改進党は若者や無党派に広く支持を拡大している。


「そこを狙うんだよ! あくまでさりげなく好印象を植え付けるんだよ!」


 それが礼名の狙いらしい。果たしてそんなに上手くいくのか疑問だったが、実際の映像を見て悪くはないなと思う。


「お兄ちゃん、お待たせっ!」


 ポスター撮りも終わり、撮影用の浴衣姿から私服に着替えた礼名が笑顔で戻ってくる。礼名に続いて麻美華と桜ノ宮さんも現れて、スタジオのスタッフさんに別れを告げる。

 疲れているけどみんな満足そうだ。


「今晩十一時からケーブルテレビに出るからね」

「何だか恥ずかしいね」


 みんなで笑い合うと、僕らは帰路についた。


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