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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第十一章 三人でローカルアイドルになってみた
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第11章 第5話

「はい、良かったよ~。いい表情戴きました~!」

「あの~、時間もあるんで、そろそろラストでお願いします!」

「えっ、もう時間なの? じゃあとツーカット。ちゃんと可愛く撮るからさ!」


 水曜日、地元のケーブルテレビ編集局を訪れた僕は焦りまくっていた。

 今日は授業を終えると麻美華が用意したリムジンに乗って地元の新聞社を訪れ、そして今、このケーブル局に来ている。しかしこの後、地元の地上波テレビ局にも行かなければならない。


「わかりました! みんな、最高の笑顔で応えてあげて!」

「「「はいっ!」」」


 僕は三矢さんに『中吉商店街会長臨時見習い』なる、偉そうだが実は底辺の役に任命され、彼女達の世話役を一手に任された。要するにタダ働きのマネージャみたいなものだ。


「次の放送局まで車で十五分、そろそろ限界だ……」


 これから駆け出すド素人ロコドルの分際で、放課後から一日三カ所も取材を入れるなんて無茶な計画だった。


「いやあ良かったよ。引き留めてごめんね!」

「いえいえ」

「ところでメンバーの桜ノ宮綾音ちゃんって、もしかして桜ノ宮候補の?」

「はい、長女です。あたしも地元、中吉商店街のために少しでもお役に立ちたいなって思ってます!」


 うん、模範的回答。

 さりげなく父との繋がりを暴露しておく。これで十分。


「では、これからも中吉らららフレンズをよろしくお願いします!」


 何度も頭を下げて僕たちは次の場所へと走る。


「マネージャ、のど渇いたわ」

「誰がマネージャだ!」

「あら、おかしいわね。ここにはらららフレンズのうら若き乙女三人と悠くん以外は誰にもいないと言うのに」

「麻美華先輩、勝手にお兄ちゃんをマネージャ扱いするのはやめてください! お兄ちゃんはわたしたちの優しいプロデューサさんですっ!」

「どっちも一緒だろ! 僕は「付き人臨時見習い」であって、断じてマネージャやプロデューサではない!」

「お兄ちゃん、ヤケにならないで!」


 リムジンに飛び乗り次の取材に向かう。


「ねえお兄ちゃん、さっきはどうだった?」


 広いリムジンの中でみんなは仕事を振り返る。


「うん、新人らしい初々しさがとても良かったよ。次も一生懸命さをアピールしよう」

「だけど悠くん、もっと桜ノ宮の娘がいるってところを宣伝しなくてもいいの?」

「いまのままで十分だよ」


 中吉らららフレンズ結成の真の目的は桜ノ宮候補の選挙支援。

 礼名が考えた作戦はこうだ。


 中吉商店街が商店街連合に反旗を翻したことは小さなインパクトでしかない。だけど、その中吉商店街がローカルアイドルユニットを発表して、そこに桜ノ宮代議士の愛娘がいたら、きっとマスコミが取り上げる。そして、そのイメージが良ければ桜ノ宮代議士のイメージも向上し投票行動にもインパクトがあるはず…… だ。


「わざとらしいのは逆効果だと思うんだ。それにさ、放っておいても桜ノ宮さんは目立つからね」

「お兄ちゃん、綾音先輩のどこを見て目立つって言ってるんですかっ! 大きいことはいいことなんですか!」

「そうよ礼っち、大きいことはいいことなのよ。ちなみに私も大きいわ、ほら!」

「麻美華先輩、寄せて持ち上げないでください! お兄ちゃんはささやかでも形が良くって上品な胸がお好みなんですからっ!」

「あら礼名ちゃん、大きいことはいいことなのよ、ほらっ」

「あやでぜんばひぐるじいでずう~」


 窒息しそうなほどに桜ノ宮さんの大きな胸に顔を埋められる礼名。

 そんなヤツらを乗せてリムジンは走っていく。


 そして。

 次の取材も終えて。


「はあ、疲れたわね。やっぱりちょっとスケジュール過密だったかしら?」

「いいえ麻美華先輩、これくらいお茶の子さいさいサイコパスですっ。戦いはまだまだこれからですっ!」

「礼名ちゃん、麻美華、本当にありがとう。このお礼は期間限定の特製超大盛りチャーシュー麵、たっぷりぎっとりこってりスープでお返しするからねっ!」

「食べきれませんっ!」

「ええ~っ! 三十分で残さず食べきったら胸が大きくなるらしいわ!」

「世間ではそれをデブと言うんですっ!」


 やっと今日の予定が終わる。

 時計の針は夜十時を回っていた。


「さっきまた取材申し込みが入ったんだ。明日も忙しいから今日は早く帰って休もう!」

「そうね悠くん。なかなか頼れるマネージャだわ」

「マネージャじゃありません! 優しいプロデューサさんですっ!」

「神代くんは、あたしの赤ちゃんもプロデュースするのよねっ!」

「しないよっ! ってか産めないよ!」


 騒がしかった三人も、帰りのリムジンに乗り込むとぐったり無口になった。

 さすがに疲れたのだろう、気がつくと誰かの小さな寝息が聞こえる。


「ごめんね、お兄ちゃん」

「あ、礼名は起きてたんだ」

「お兄ちゃんも疲れたでしょ?」

「うん、疲れたよ。だけど礼名の方がもっと疲れただろう? 帰ったらすぐにシャワー浴びるんだぞ」

「ありがとう、お兄ちゃん。わたしね……」

「……」

「お兄ちゃんの妹で本当に良かった……」

「礼名……」


 やがて。

 礼名の可愛い寝息も聞こえ始めた。


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