表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第九章 働いたら追放なんて言わないで(そのに)
59/193

第9章 第5話

「麻美華先輩、綾音先輩、あちらの部屋にベッドを準備してますよ」


 礼名の勧めに、しかし首を横に振るふたり。


「ここでいいじゃない! 一緒に寝ましょう、悠くん!」

「じゃあ、あたしもここで寝るわ。朝起きたら、神代くんが赤ちゃん産んでるかも!」

「じゃあ、礼名も一緒に寝ますっ!」

「おい、お前らっ!」


 お菓子片手に僕の部屋に座り込む美少女三人。


「悠くんは何を怒っているのよ! みんなで同じ部屋に寝る、これ、修学旅行の鉄板イベントでしょう!」

「修学旅行じゃないしっ!」

「じゃあ温泉旅行ね!」


 言いながら桜ノ宮さんは僕のベッドの下に手を突っ込んでいる。


「なに調べてるんだよ!」

「うちの弟はベッドの下に色んな本を隠しているのだけど……」

「エロ本探すなよっ!」

「そうですよ! そんなとこ探しても何にもありませんっ! だって山ほどあったお兄ちゃんのエロ本は全部売り払って、この家のローン返済に充てたんですからっ!」

「言うなよ、礼名っ!」


 一方。


「幼稚園の時の悠くん、かわいいわね」

「そんな古いアルバム、どこから引っ張り出したっ!」

「机の中」


 麻美華は当然のように言い放つ。僕にプライバシーはないのか!


「だけど、どうして悠くんの横には必ず黒髪少女の背後霊がくっついているのかしら」

「背後霊じゃありません、礼名ですっ! お兄ちゃんあるところ必ず礼名あり! その可愛い少女はお兄ちゃんの最愛の妹、若かりし礼名ですっ!」

「じゃあ今の礼っちは年老いた礼っちと言う事ね」

「熟した礼名ですっ!」

「その胸で?」


 歯ぎしりする礼名を横目に麻美華はアルバムをめくっていく。しかし彼女の目は好奇の目でも、ましてや上から目線でもなかった。


「小さいときからずっと一緒なんて、礼っちだけずるいわね」

「当たり前じゃないですか、わたしとお兄ちゃんは赤い糸で結ばれた愛し合う兄妹なんですよっ! 一緒にいて当然ですっ!」


 結局。

 桜ノ宮さんと麻美華、そして礼名は僕のベッドに横たわった。僕はと言うとベッドの下のフローリングに布団を敷いて横になる。


「お兄ちゃんのまくら返してくださいっ!」

「あら、悠くんには私のまくらを貸してあげているのだから、これは麻美華が使うのよ」

「麻美華ずるい! 神代くんのヨダレまみれのまくらはあたしが使いたいっ!」

「ヨダレなんか付いてませんっ! 礼名がちゃんと洗いましたっ!」

「そもそもヨダレなんか垂らしてねえよ!」

「いいえ、先週ヨダレが付いていたのは事実です」

「言うなよっ!」


 わいわいと賑やかだけど。


「あれっ、綾音先輩、どうしたんですか?」

「……でも、ごめんね。あたしのせいで迷惑掛けて」

「何言ってるんですか! 綾音先輩は何も悪くありません」

「そうね。綾音のお父さんだって悪気はないのかも知れないわ。実際に会って話をすれば解決するわよ」


 急にふっと話が戻ってくる。

 みんな僕たちの生活を守ろうとしてくれている。だから励ましてくれて、作戦を練ってくれて、そして笑ってくれる。だけど。


「なあ礼名、礼名は今のままで本当に、いいのか?」

「えっ?」


 僕にはまだ自信が持てなかった。彼女の本当の幸せがどこにあるのかを。

 床に寝ている僕にはベッドの上の礼名の表情は見えない。だけど、その声はいつもの礼名だった。


「当たり前だよっ! このお家で、お兄ちゃんとふたり過ごす毎日はわたしの宝物、いいえ、わたしの全てだよ!」 

「そうか……」


 僕は天井を見上げて大きく深呼吸をする。


「もしかして、お兄ちゃんは今の生活が不満なの?」

「そんなことないよ、全くない」

「じゃあどうしてそんなこと聞くんだよ! わたしに至らないところがあったら今すぐ言ってよ! 礼名もっと頑張るから!」

「不満なんてあるわけないよ。礼名はいつでも完璧だよ」

「あ~あ、本当にバカ兄妹ね。のろけ話はふたりだけの時にしてくれるかしら」


 しまった。今日は聴衆オーディエンスがいるんだった。


「あたし、礼名ちゃんが凄いブラコンだってのは知ってたけど、神代くんも凄くシスコンだったのね。ちょっといちゃうわ!」

「そうだったらいいんですけど。でも、お兄ちゃんは全然シスコンじゃないんですよ。礼名が毎日お誘いしてもつれないし、婚約もまだしてくれないんです!」

「当たり前だろ、礼名と僕は兄妹なんだから」

「兄妹でも問題ありませんっ! アメリカでは同性婚が認められているんですよっ!」

「ふう~ん。礼っちは毎日そんなふざけた誘惑をしているのね。ふう~ん……」

「ふざけてなんかいませんよ。礼名は真剣ですっ! でも、わたしのこの熱い想いがお兄ちゃんに伝わらないのは由々しき問題ですっ! お兄ちゃんは世界でただひとりの、この可愛い妹にもっともっと優しく毎日愛を語るべきなんですっ!」

「あら、悠くんと同じ家に住み、悠くんと同じ学校に通い、休みの日も仲睦まじく仕事に勤しむ生活に礼っちは何か不満でもあるのかしら?」

「えっ? そ、それは……」


 麻美華の言葉に礼名が暫く押し黙る。


「ごめんなさい。礼名わがままを言いました。贅沢を言いました。礼名は今、とっても幸せです。世界で一番幸せです。不満なんてこれっぽっちもありません」

「そう。やっぱりずるいわね、礼っちは」


 麻美華が何を言い出すか、少しハラハラしていたけれど。

 どうやら思いとどまってくれた雰囲気だった。


「ごめんね礼名ちゃん。その大切な生活をこんな危険にさらしてしまって」

「あっ、桜ノ宮先輩、そんなに抱きしめないでください…… 柔らかい胸が……苦しいです……」


 ベッドの上では何が行われているのだろう。変な想像はやめておこう。


「だけど不思議ね……」

「何が不思議なんですか綾音先輩! どうしてわたしと麻美華先輩の顔を見比べてるんですか!」

「ううん、何でもないわ」


 ともかく。

 かしましい夜も更けていき、いつしかみんなは深い眠りに落ちていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご意見、つっこみ、ヒロインへのラブレターなどなど、何でもお気軽に!
【小説家になろう勝手にランキング】←投票ボタン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ