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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第八章 働いたら追放なんて言わないで(そのいち)
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第8章 第5話

 放課後、鞄を持って教室を出ると桜ノ宮さんに呼び止められた。


「ねえ、一体何が起きてるの?」


 岩本によると生徒会の掲示板に『勤労学生支援キャンペーン』なる掲示が張られ、昼休みの話題になっていたそうだ。内容は昨日校長が僕らに告げた指示へのあからさまなネガティブキャンペーンらしい。働く学生を受け入れろ、と。麻美華は何も語らなかったけど、放課後もチャイムが鳴ると同時に生徒会室に向かったところを見ると何か企んでいるに違いない。普通、生徒会と言えども校長先生を敵に回すなんて出来るわけがないんだけど、そこは天下の倉成財閥のお嬢さま。校長だろうと誰だろうと怖いもの知らずだ。


「あの生徒会のキャンペーンはどう言うこと? ねえ神代くん、何があったの?」


 僕は彼女に無理矢理コン研へ連れて行かれた。


「…………とまあ、こういうことなんだ」


 別段、隠す話でもない。

 コン研のテーブルに座り、僕は校長室での出来事をみんなに話した。


「酷い話だわ。勉学する権利を踏みにじる最悪の愚行よ。校長室へ行きましょう!」


 話を聞き終えると、桜ノ宮さんは珍しく声を荒げる。


「いやいや、校長先生も教育委員会から圧力を受けているだけだから」


 一緒に話を聞いていた菊池は難しい顔をしている。


「だよな。あの校長、もうすぐ定年だし、まだ大学生の子供がいるって話だし、無難に事を済ませたいだろうな」

「じゃあ、その黒幕を捜し出してギャフンと言わせてあげましょうよ!」

「ああ、そうしたいのは山々だけど」

「ギャフンと言わせるだけじゃ済まないわ。二度と悪いことが出来ないようにギッタギタにしてズッタズタにしてベッコベコにしてやらなきゃ気が済まないわっ」

「殺人事件に発展しそうで怖いんだけど……」

「あたし、権力で暴力を振るう人って、絶対許せないの!」


 温厚な桜ノ宮さんには珍しく、両手を握りしめ怒り爆発モードだ。


 トントン


 と、そこへ。

 珍しく、コン研にお客さんだ。


「はいっ!」


 一年生が駆けつけドアを開ける。


「く、倉成先輩っ!」


 新入部員の山田くんが固まった。生徒会副会長で学校一の有名人、倉成財閥のお嬢さま、倉成麻美華は彼にとって雲の上の存在のだろう。緊張がみなぎり、その声は裏返っていた。


「よ、ようこそ、いらっしゃいましたっ!」

「ふっ、何も直立不動で敬礼しなくてもいいのよ、坊や」

「な、な、なんのご用でしょうかっ!」

「ちょっと入るわね」

「イ、イエス! マム!」


 彼女は部室入ると、僕を見てツカツカと歩み寄ってくる。


「やっぱりここにいたのね、悠くん」

「あ、倉成さん。僕のために生徒会まで動かしてくれたんだね。ありがとう」

「当然よ、私と悠くんは席が隣同士なのだし」


 ツンと澄ました顔でそう言うと、彼女は僕と桜ノ宮さんの顔を見て。


「ちょっと話があるの。付いてきてくれないかしら」


          * * *


 倉成さんは僕たちを生徒会室へと連れて来た。


 ガチャッ!


「さあ、どうぞ入って」


 そこには生徒会長の三年生、林田はやしだ先輩と礼名がいた。


「あ、お兄ちゃん」

「ようこそ神代くん、色々大変だね。まあ座ってくれよ」


 生徒会長の林田秋洋はやしだあきひろ先輩は顔と名前くらいしか知らなかったけど、近くで見るとかなり小柄だった。いかにもまじめそうな黒縁眼鏡の奥は僕らを歓迎しているように見えた。

 僕と桜ノ宮さんは生徒会室の会議用テーブルに腰掛ける。勿論礼名も一緒だ。


「僕は仕事があるんで。気にしないで進めてくれよ」


 林田会長の言葉を待つまでもなく、麻美華は僕たちの前に座った。


「さっき宮川校長と話をしたんだけど、黒幕については「本当に知らないんだ」、の一点張り。だから手広く情報を集めたいの。ねえ綾音、綾音のお父様にも聞いてみてくれない?」


 麻美華が言い終わるが早いか、桜ノ宮さんは口を開いていた。


「勿論そのつもりよ。こんな酷い仕打ちは絶対に許せない! 黒幕を見つけ出して右ストレートからの必殺左アッパーで再起不能にしてあげるから! 神代くん、礼名ちゃん安心してね!」


 僕たちの心配をしてくれるのは嬉しいけど、暴力はいけないよ、暴力は。


「まあ、綾音の気持ちも分かるけど、手で人を殴るなんてよくないわ」


 麻美華も暴力には反対のようだ。よかった、冷静で。


「殴るんならバットとか鉄パイプにしなさい。手が痛いから」


 更にタチが悪かった。


「礼名ちゃんだって怒ってるでしょう! いつもあんなに頑張っているのに!」

「実は、わたし達だけならともかく、今回の件では、わたしのクラスの田代さんも怯えているんです……」

「えっ?」


 礼名は田代さんの話をする。それを聞き終えた桜ノ宮さんはしっかりした口調で。


「あたし、政治家の娘とかに結構友達多いから、調べてみるわ。ところで礼名ちゃん、ひとつ気になるんだけど、どうして礼名ちゃんは、その親戚の家にお世話になるのを嫌がるの?」

「それは、お兄ちゃんと離ればなれになるからですっ!」

「離ればなれ?」

「はいっ。親戚はわたしを政略結婚の具材にして、どこかの男と絡めてレンジでチンするつもりなんです。わたしにはお兄ちゃんという、生まれたときから赤いワイヤーで結ばれた想い人がいるというのに!」

「ねえ礼名ちゃん、兄妹じゃ結婚できないでしょ! オトナ達の道具にされるのがイヤだって言うのは分かるけど、神代くんの赤ちゃんはあたしに任せてよっ!」

「何言ってるんですかっ! お兄ちゃんとわたしの大事な赤ちゃんは、男の子なら悠輝ゆうき、女の子なら礼香れいかって名前も決まってるんですよっ! いまさら出生届の取り消しは出来ないんですっ!」


 想像妊娠を通り越して、想像で出産するなよ、礼名!


「妄想するのは自由だけど、リアルの神代くんはあたしの赤ちゃんを産むのよっ」

「だから産めないってば!」


 どうして桜ノ宮さんは僕に赤ん坊を産ませたがるのだろう。どうせ女装が似合うからとか、いじり倒すと面白いとかそう言う理由なんだろうけど、もう、どうでもよくなってきた。


「ふたりともいい加減にしなさい。悠くんの結婚相手は麻美華が選んであげるんですから!」

「何ですかそれ! どこにそんな権利が発生するんですか? お金じゃ買えないモノもあるんですよっ」

「聞きなさい礼っち。私は悠くんと席が隣同士なのよ。全てのことは私に決定権があるのよ!」

「理解不能指数100%ですっ!」


「皆さん面白いね」


 収拾不可能と思われた言い争いに終止符を打ったのは、意外にも林田会長だった。


「いやあ、生徒達に畏敬の目で見られて挨拶するだけでもみんな緊張してしまう倉成さん相手に、ここまで盛り上げれる人物は君たちくらいだよ。結構結構こりゃけっこう!」


 僕らを見て暫く楽しそうにケラケラ笑うと、彼はまた執務に戻った。


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