第6章 第3話
やっと連休初日が終わった。もう、めっちゃ疲れた。
でも、売り上げは絶好調だ。
伝票整理を終え、テイクアウトカウンターに設置しているデジカメを取り外す礼名。
「毎日外すの大変だろ! 横のコンセントから電源取るようにしようか?」
「大丈夫だよ、ちゃんとわたしの部屋で充電するから。それに麻美華先輩に予備の電池も借りてるんだ」
そう言いながら礼名は家へ戻っていく。
僕も戸締まりを済ませると居間の椅子に腰を下ろした。礼名は台所でフライパンを握っている。
「今日はレバニラ炒めだよっ! スタミナ付けなきゃだしね!」
「おおっ、明日もガンガン頑張れそうだな」
「礼名の赤ちゃんも元気に産んでねっ」
「もうそのネタはいいから……」
やがて、ふたり食卓に座って手を合わせる。
「桜ノ宮先輩ってホントにいい人だよね。だけどお手伝いさせてってのは困るよね」
「そうだね、バイト代も払わなきゃいけないし」
「それもだけど、カフェ・オーキッドはお兄ちゃんとわたしのお店だもん!」
僕を見てニコリ微笑む礼名。お兄ちゃん、か……
一瞬、礼名の笑顔に麻美華の笑顔が被る。
もし僕が両親に拾われなかったら。礼名の兄じゃなかったら……
イヤだ。ありえない。考えるだけでも頭がおかしくなりそうだ。
「どうしたの、お兄ちゃん? 考え込んじゃって」
「あ、ああ。いやね、どうして僕が赤ちゃん産むって話になるのかなって」
苦し紛れの僕のセリフに礼名は笑いながら。
「ああ、それはね、お兄ちゃんが女装したら、完璧な女になれるって話なんだよ」
「凹むなあ」
「そうかなあ。わたしはそんなお兄ちゃんカッコイイと思うよ。陣痛にも耐えられそうだし!」
そうなのか? 陣痛って男には耐えられないって聞くけど。
「次は腹式呼吸をマスターしないとね」
「って、産めるか!」
「きゃははっ!」
あっけらかんと笑い飛ばす礼名。楽しくて時間があっと言う間に過ぎていく。食事も終わり、風呂を済ませると居間にあるパソコンを起動する。コン研の宿題やらなくちゃ。
「じゃあ、お兄ちゃん、今日も礼名はお兄ちゃんに捧げる純潔を守ったからねっ。おやすみなさいっ」
ぺこり頭を下げて礼名は二階への階段を上る。
カタカタカタカタ……
「ふうっ!」
カタカタカタカタ……
人工知能のプログラムを打ち込み始めると、時間はあっと言う間に過ぎていった。
四時間は経っただろうか、早く寝ないと明日に響くよな。
僕はパソコンをシャットダウンすると二階への階段を上る。抜き足、差し足、忍び足っと! 礼名を起こさないように静かに廊下を歩く、と、礼名の部屋から声がした。こんな夜中に、一体誰と? 携帯は持たないはずだし部屋にテレビもないはずだし……
コンコン
「礼名、起きてるのか?」
ゆっくりドアを開ける。
机に座っていた礼名が慌てたように耳からイヤホンを外した。
「あっ、お兄ちゃん! ちょっと、宿題とかしてて……」
「何か声がしてたけど?」
「えっとね、その…… 暗記するときの独り言だよ」
礼名の机の上にはノートと、デジカメ?
宿題をしていたようには見えないけど……
「ともかく早く寝ろよな。明日も忙しくなりそうだしさ」
「そうだね、お兄ちゃん。おやすみなさい」




