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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第五章 ふたりのお店は絶対負けません(そのさん)
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第5章 第8話

 礼名、絶対怒ってるだろうな。怒り狂ってるだろうな……

 何て言い訳しよう。どんな顔して家に入ろう……


 家の前でもう五分は立ち尽くす僕。礼名が怖いと言うよりも、今日あったことを隠し通さなきゃいけないから。嘘をついてでも本当の事は気付かれないようにしなきゃいけないから。


「はあっ」


 悩んでいても仕方がない、意を決してドアを開ける。


「ただいま~」

「……」


 反応がない。


 明かりが灯る居間に入る。

 食卓には二人分の食器が並べられ、大根の葉っぱ炒めが手つかずのまま置かれていた。

 そして、青いワンピースを着た後ろ姿。


「ただいま、礼名」

「ふんっ!」

「遅くなって、ごめん」


 やがて、大きく胸を反って僕を見下ろすように礼名が振り向いた。


「今日の晩ご飯は和風スパゲティよ。食べたかったら作ってあげても宜しくってよ」

「あ、まだ食べてないから、頼んでもいいかな」

「この私が作ってあげるんだから、一口残さずお皿もペロペロめて食べる事ね」


 お芝居の如く大袈裟に語りながら礼名は台所に立つ。


「礼名、今日は、ごめん」

「どうせ倉成の家にでも行って甘い勧誘を受けたんでしょ!」


 あ、そう取るか!

 けどまあ、普通そう考えるよな、今までの経緯から言って。

 よし、ここは礼名の勘違いに便乗してしまおう。


「正解だよ、礼名。だけど何も約束とかしてないから」

「……」

「あまりにしつこいから、ハッキリ断ろうと……」

「言い訳なんか聞いてあげませんわっ!」

「わかった。ごめん、礼名」


 ひたすらに上から目線で僕を見下ろし続ける礼名。

 だけど、そんな礼名が可愛くて、僕は思わず笑ってしまう。


「い、今笑いましたね、お兄ちゃん、笑いましたね!」

「ご、ごめん。でもそれもしかして、倉成さんのマネのつもり?」

「違いますっ! これは妹戦士セーラー礼名の女王様バージョンですっ!」


 語気を強めた礼名は更に思いっきり仰け反る。


「お兄ちゃんは麻美華先輩のような尊大で高ビーな女の人がいいんですよねっ。それなら礼名がそうなってあげます! 麻美華先輩よりずっとずっと高慢で上から目線でドSな女になってあげますっ! 月に代わってお仕置きしてあげますっ!」

「ごめん礼名、そうじゃないんだ」


「女王様みたいに命令口調でお兄ちゃんにビシビシとムチを振るってあげますっ!」

「違う、違うって……」


「お兄ちゃんを死ぬほど働かせて、パンがなくなったらケーキを食べてあげますっ!」

「僕はいつもの優しくて明るい礼名が好きなんだ」


「お、お兄ちゃんを、お兄ちゃんを……」


 礼名の言葉が急に小さくなる。


「ごめん礼名、今日は礼名に悪いことをしちゃったけど、僕は礼名が大好きだよ。誰にも優しい礼名を、とても自慢に思っているよ」


 僕は努めて真っ直ぐに彼女を見つめながら。


「はうっ」


 礼名は小さく息を吐くと、上から目線だった大きな瞳をゆっくり伏せる。


「今日わたしは凄く心配しました。お兄ちゃんが騙されたんじゃないかって、お兄ちゃんがもう戻ってこないんじゃないかって、お兄ちゃんが礼名を嫌いになったんじゃないかって。お兄ちゃんはひどいことをしました。心配させたお兄ちゃんはとても悪い人です。だからひとつだけ、わたしの言う事を聞いてください」

「……婚約とか?」

「今日の礼名はシリアス100%です。現実的なお願いです」


 『妹戦士セイラー礼名』のどこがどうシリアスなのかツッコミどころ満載だけど、そこはグッと堪える。


「分かったよ。何でも言う通りにするよ」

「今夜はわたしと、礼名と一緒に寝て下さい!」

「へっ?」

「へ、ヘンなこと想像しないでくださいね。同じお部屋で語らうだけです!」

「……」


 と、言うわけで。

 その夜。


 白い壁に掛けられたセーラー服、そしてタンスの上には『ぽんきち』と名付けられた礼名お気に入りの白いくまのぬいぐるみ。

 物は少ないけど綺麗に整理された女の子らしい礼名の部屋。

 そこに自分の布団を持ち込んで僕は横になった。

 礼名はベットの上、僕は床、それでも同じ部屋で寝たいというのが礼名の希望だった。


「昔はお兄ちゃんと並んで寝てたんだよね」

「そうだな、親父とお袋も一緒だったな、礼名はいつもお話をせがんでいたよな」


 互いに顔は見えないけど、電気を消して布団に入り、ふたりは昔話に花を咲かせた。


「そうだね。わたし、お母さんのお話が大好きだったな」

「いつもその場で創作話を作って話してくれたよな」

「お兄ちゃんは気付いてた? お母さんのお話って王道のパターンがあったんだよ」

「へえ~っ、どんな?」


 幼稚園の頃のことなのに、そんなこと分析してたのか礼名は。


「何て言うのかな、お母さんの話はね、自分の運命に立ち向かって、幸せを自分の手で掴み取る、ってのが多かったんだ。かぐや姫が月からの使者に歯向かってみかどと結ばれる、みたいな……」


 運命に立ち向かう、か。

 僕はふと、墓地での出来事を思い出した。

 僕の前に跪いた彼、倉成財閥の総帥、倉成壮一郎。

 深く頭を下げ詫びる彼に、しかし僕は何の怒りも恨みも感じてはいなかった。

 僕の父は神代政孝かみしろまさたか、母は神代聖名かみしろせいな。血の繋がりがあってもなくても関係ない。天に召された両親に大切に育てて貰った僕はとても幸せ者だ。その気持ちは今でも全く変わらない。それが急に本当の父とかが現れても、困惑してしまうばかりだ。

 だけど目の前の彼は見るのも可哀想なほどに悔いていた。許してくれと言われても困ってしまうけど、元から怒っても怨んでもいないのだから許しようもなく。ただ、何だか不思議と優しい気持ちになったのは確かだった。


 そんな彼が墓地からの去り際にポツリ呟いた。わたしは自分の運命に立ち向かえなかった弱い男だ、と。あれはどう言う意味だったのだろうか。ただ、いつも上から目線の倉成さんは、終始とても辛そうな面持ちをしていた。


「ねえ、お兄ちゃん、もう寝ちゃったの?」


 礼名の声に意識が戻る。


「いや、起きてるよ」

「あのね、お兄ちゃん……」

「……」

「礼名、ワガママばっかり言って、ごめんなさい」

「何言ってるんだ。いつも礼名にばかり苦労を掛けて、僕こそ謝らないと」

「ううん。ありがとう、お兄ちゃん」


 その言葉に僕はドキリとする。

 実は礼名は全てを知っているんじゃなかろうか、と。

 さとい彼女を見ていると、時々、そんな思いに駆られるのだ。


「ところでお兄ちゃん、今週、細谷さんが婚活パーティだって知ってる?」

「へえ~、そうなんだ。今度はどんな集まりなんだろうな」

「二次元オタ限定お見合いパーティらしいよ」

「細谷さんって二次元オタだったのか?」

「目覚めたんだって、さ」

「三十路で目覚めたか!」

「細谷さんも太田さんも永遠の二十一歳だよ」


 そんな、取り留めもない話ばかり語らって。


「……」

「おやすみ……」


 いつしかふたりは深い眠りへ落ちていった。



 第五章 ふたりのお店は絶対負けません(そのさん)  完


 第五章 あとがき


 お久しぶりですっ。神代礼名ですっ。

 いつもわたしとお兄ちゃんのラブラブっぷりをご鑑賞戴いちゃって、ホントに感謝していますっ。


 えっ、何ですか作者さん、今日はわたしに質問が来ているですって?

 はい、何でもお答えしますが……


 質問いち 礼名ちゃんの今日のパンツの色は何色ですか?

 って、それは、お兄ちゃん以外には教えられません!


 質問に 礼名ちゃんの胸のサイズを教えてください?

 って、それもお兄ちゃん以外には触らせません!


 質問さん 礼名ちゃんの好きな男性のタイプは?

 って、そんなのお兄ちゃんに決まってるじゃないですか!


 何ですかこの企画は、凄くすべってると思うんですけど。作者さん、次はもう少しマシな企画立ててくださいよっ、また読者さんがブックマークを外しちゃいますよっ!


 と言うわけで、お兄ちゃんと礼名の結婚一直線を描くはずだったこのお話に、麻美華先輩や桜ノ宮先輩という美少女ライバルが登場し、しかもふたりのお店に強力なライバル店まで現れて、礼名も毎日気の抜けない日々が続いてますけど、でも、このあとは、カフェ・オーキッドは軌道に乗って、お兄ちゃんと礼名の明るい未来へ物語は一直線に突き進みますっ。皆さん、期待していてくださいねっ!


 え、何ですか作者さん、この原稿? 読むんですか……


 次章、物語は大型連休に突入します。

 この連休はわたしたち神代一家のかき入れ時です。ここで頑張って、お店の経営基盤を盤石ばんじゃくにしないと!

 と言うわけで、連休中も大繁盛するお店で獅子奮迅ししふんじんの働きを見せるお兄ちゃんと礼名。

 勿論そんなカフェ・オーキッドには楽しい仲間もやってきて。

 でも、順風満帆に見えたふたりに突然降りかかる思わぬ落とし穴が!

 次章・ふたりのお店は絶対負けません(そのよん) もご期待下さい……


 って、作者さん。何なんですかこれ。また落とし穴ですか! そんなの礼名が片っ端から埋めてあげますっ! コンクリート詰め込んで全部固めてしまいますっ! 礼名は絶対挫けませんからねっ!


 そういう訳で読者の皆さん、次章も是非お楽しみ下さいねっ。

 ではではっ、神代礼名でしたっ!


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