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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第四章 ふたりのお店は絶対負けません(そのに)
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第4章 第6話

「ここがファッションセンターしばむら、なのね!」


 放課後、僕らはバスに揺られて最寄りのしばむらへやってきた。


「ぽつんと建っているのね」

「ここのお店は単独で建っていますね。でも、お店が集まったようなところにもあったりするんですよ」


 何故か礼名もピッタリとくっついてきた。


「あら詳しいのね、神代妹。でも、どうしてあなたがここにいるのよ」

「決まってます。お兄ちゃんとわたしは一心同体だからですっ!」

「ブラコンもここまで来たらブラストね」

「何ですか、そのブラストって?」

「ブラザーストーキングの略よ」

「あっ、わたしそれです。お兄ちゃんストーキング最高ですっ!」


 認めちゃったよ、礼名。


「じゃあ、店に入ろうか」


 ピンクとクリーム色で塗り分けられたシンプルで小綺麗な建物。

 僕はふたりに声を掛けて店舗に入る。


「うわああっ!」


 大袈裟おおげさに感嘆の声を上げる倉成さん。


「そんなに驚くようなお店ですか?」

「何というか、この庶民的な空気がとても新鮮だわ!」

「イヤミじゃなくって正直な感想ってとこがすごく腹立たしいですね」


 礼名の呟きなどどこ吹く風、倉成さんは小物売り場へ歩いて行く。


「見たことがあるブランドだわ。ねえ悠くん、これいくらなの?」


 彼女が手に持つ小さなバッグの正札を見る。


「えっと、二千九百円だね。しばむらにしては高級品だね」

「二千九百円が高級品っ!」


 大げさに驚く倉成さん。


「そんなに驚くこともないと思うんですけど…… あっ、これなんか肩から掛けれて使いやすそう!」


 礼名が手にしたのは『オリジナルブランド』のちょっとシックなショルダーポーチだ。


「ふうん…… 便利そうね。それはおいくら?」

「これもちょっと高いですけど、千九百円ですね」

「せんきゅうひゃくえんっ!」


 あからさまに驚く倉成さん。


「色んな材料を買ってきて、デザイン考えて型を作って切り抜いて、それを設計通りに貼り合わせて縫って検査して、箱に詰めて輸送して、ディスプレイ考えて宣伝して、そしてここで売っているのよね。それで千九百円なの! 一億円売り上げるためには五万個以上も作って売らないといけないのよ!」


 この程度で驚いてたら、三百九十円のシャツとか見たら卒倒するんじゃなかろうか。


「どうやって店員さんが給料貰ってお店が成り立っているのか分からないけれど…… しかし、何でも安くで売っているのね」

「はい、肌着からおしゃれ着にスーツ、靴、帽子、小物まで身につける物は何でも揃いますよ」


 倉成さんは店内をぐるりと見回して、レディースのコーナーに歩き出す。


「なに、このPOPの若い女性。タレントか何か?」

「そうです、タレントさんです。そのレッグウォーマーはこのタレントさんがプロデュースした商品なんですよ」

「ふう~ん、色々面白いわね」

「あっ、このジャケット、倉成先輩に似合いそう!」

「そうかしら。まあこの私に着こなせない服などあるはずないのだけど」

「そうですね、スタイルもよくって何より綺麗な金髪がかっこいいですしね」

「本当のことを言っても何も出ないわよ、神代妹」

「別に何もいりませんよ。倉成先輩とお兄ちゃんが離れてさえいれば、礼名はそれで満足ですよ」

「さっきから兄を押しのけ私に絡んでくるのはそれが目的ね!」

「ふふふっ。あっ、このパンツも可愛い! ほら倉成先輩、このワンポイントが可愛い!」

「本当ね、ちょっとキュンキュンかも。買っちゃおうかしら」

「試着はこっちですよっ」


 やっぱりこう言うところは女の子同士の方がいいのだろう。倉成さんと礼名はとっても楽しそうに買い物をしている。


「ふわあああ……」


 お陰で僕は退屈だ。


 ふたりはわいわいキャッキャともう一時間は買いまくっている。

 何不自由ない生活をしているはずの倉成さんが、僕たち庶民のファッションセンターでこんなに楽しんで買い物しまくるとは意外だ。


 やがて。


「お待ちどおさま、お兄ちゃん!」


 大きなビニール袋を手に持った礼名がやってくる。そしてその横で両手にビニール袋をぶら下げた倉成さんが満足そうな笑顔を浮かべている。


「礼名も買ったのか?」

「違うよ、これ全部、麻美華先輩のだよ。服とか靴とかバッグとかいっぱい!」

「仕方ないじゃない。礼っちが次々に買わせるから」


 いつの間にかふたりの呼び名も変わっていた。

 麻美華先輩と礼っち、だって。仲良くなれたのかな。


「悠くん、何ボ~ッと突っ立ってるの? いつまでレディーに荷物を持たせる気?」

「あっ、ごめんごめん」


 僕は倉成さんが持っていた大きな袋を両手に持つと店の外へ出る。


「せっかくだから写真も撮っておくわ」

 

 そう言う倉成さんは鞄からコンパクトデジカメを取り出した。


「言うまでもないと思うけど、倉成光学製の新型コンパクトデジカメよ。最新設計の明るい超広角レンズが特徴よ」


 パチリ


 そう言いながら『しばむら』の建物の写真を撮る。


「こんなに近くから撮っても壁しか撮れないんじゃないの?」

「だからこのレンズは超広角なのよ。ほら」

「うわあっ、凄い! ホントだ! しかも薄暗いのにバッチリ写ってる!」


 礼名の驚きように僕もデジカメの液晶を覗き見る。


「ホントだ。このカメラ凄いね」

「当然よ。コンパクトカメラって望遠より広角ワイドの方が使い勝手がよかったりするのよ。それにこれ、メモリーカードに動画と音声が連続で十時間以上入っちゃうの」

「それ…… 凄いです、凄いです、凄いです、凄いです、凄いです!」


 礼名の目が輝いている。何度も何度もカメラを見入る。


「でも…… きっと高いんですよね」

「そんなことないわ。十万円あれば買えるから」

「ううう…… 十分すぎるくらい高いです……」


 残念そうにそのデジカメを見つめるながら指をくわえる礼名。


「そんなに気に入ったの? 礼っち」

「はい、凄くいいなって」

「じゃあ、これ、あなたにあげるわ」

「えっ、そんな高い物、貰うわけにいきません。でも、暫く、ホント二週間くらい貸して貰うとか……」

「いいわよ。今日はとっても楽しかったから、お礼よ」

「えっ、ホントにいいんですか?」

「いいに決まってるでしょ。私と礼っちの仲だから」

「あ、ありがとうございます。麻美華先輩!」


 礼名は何故だかそのデジカメを借りて凄くご満悦だった。


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