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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第四章 ふたりのお店は絶対負けません(そのに)
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第4章 第5話

 翌朝登校すると、倉成さんが校門に突っ立っていた。


「悠くん、おはよう」


「あっ、おはよう倉成さん。こんなところで何してるの?」

「世間ではこれを、待ち伏せと言うらしいわ」


 長い金髪から女王様オーラを漂わせ上から目線で言い放つその様は、待ち伏せと言うより下僕げぼくの監視だった。


「倉成先輩、おはようございます」


 そんな彼女にも礼名は折り目正しく頭を下げる。

 しかし、倉成さんは礼名を軽く一瞥して。


「おはよう神代妹。その制服、なかなか似合ってるわよ」

「あ、ありがとうございます」


 意表を突かれたのか、キョトンとする礼名。

 倉成さんは僕に視線を戻すと。


「ねえ悠くん、あなた昨日、綾音あやねの家に行ったでしょ!」

「綾音って? ああ、桜ノ宮さんだね。うん行った。よく知ってるね」


 彼女は軽く髪をかき上げると、ドヤ顔で形のいい胸を張る。


「当たり前よ。生徒会には校内全ての情報が入ってくるのよ。綾音と抜け駆けしようと思っても無駄だわ」

「いや、抜け駆けって何だよ」

「妹さんの制服がぴったりフィットして大変身していることは分かるわ。その制服の寸法直しをしたんでしょう? でも、その作業の間、悠くんは綾音とあられもないあんなことやこんなことをしてたのよね」

「倉成先輩、何言ってるんですか! 昨晩のお兄ちゃんは、優しくわたしを迎えに来てくれて、一緒に帰っただけですよ。わたしにやましいことなんか何ひとつしていません!」


 話に割って入る礼名をチラ見する倉成さん。


「あら、例え悠くんが綾音とどんなことをしたって、万が一、綾音の家でチェリーボーイを卒業したって、妹のあなたには関係ない話ではなくって?」

「関係あります、大ありです! 清い体のお兄ちゃんはもうすぐ可愛い妹であるこのわたしと婚約し、お兄ちゃんが十八歳、わたしが十六歳になったその瞬間に結婚するんです。そしてお兄ちゃんにそっくりの男の子とわたしにそっくりの女の子に恵まれて、ふたりの子供達がわたしとお兄ちゃんみたいに、互いに熱く愛し合う姿を見て微笑みながら明るい人生を歩むんですっ!」


「神代妹、あなたかなりイカれてるわよ。今日は学校休んだら?」

「どうしてですか! お兄ちゃんにそっくりな男の子とわたしにそっくりな女の子なら愛し合うのが当然であり自然の摂理であり、宇宙の法則なんですよ!」

「ねえ悠くんもそう思ってるの?」

「思ってるわけないだろ。あり得ないよ、僕と礼名は実の兄妹なんだから」

「お兄ちゃんったらっ!」


 僕に食って掛かろうとする礼名を押しのけ、倉成さんは僕と礼名の間に割って入る。


「そうよね。安心したわ。じゃあ教室に行きましょうか」


 わしっ!


 彼女は僕の腕を取ると歩き始めた。


「ちょっとちょっとお兄ちゃん! それどう言うことですか! なんで腕取られてるんですか! 可愛い妹を無視して行かないでくださいよっ!」


 後ろに礼名の声を聞きながら、僕は靴箱の方へ引きずられていく。


「ねえ悠くん。この前の約束を果たして頂戴」


 いつものように上から目線で彼女が言い放つ。


「この前の約束って?」

「しばむらに連れてってくれる約束」


 そう言えば、先週そんな話をしたような……


「何ですか、その約束って? しばむらってファッションセンターの?」


 背後に礼名が聞き耳を立てながら付いてくる。


「綾音の家に行っておいて、このわたくしとの約束が果たせないってことはないわよね」


 凄い圧力プレッシャーだ。


「いや、今日は忙しくてさ、新しいコーヒーのブレンドとかしなきゃ……」

「嘘つき」

「えっ?」


「嘘つき嘘つき!」

「……」


「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」


 上履きに履き替えながら彼女の足元に光る何かが……

 って、そんなことで泣かないでくれよ。


「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」


 何事かと登校中の生徒達が遠巻きに集まる。そして僕に非難の視線が……

 違うってば! 僕は何も悪いことしてないんだってば!


「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」


「あわわわ…… 分かったよ。じゃあ、一緒に行こう」

「分かればいいわ」


 にぱあっ!


 弾けるような笑顔の倉成さん。

 さっきの涙は何だったのだろうか。プロの役者顔負けの豹変ぶりだ。


「ちょっとちょっとお兄ちゃん、なに根負けしてるんですか! なに勝手に決めてるんですか!」


 背後霊のように礼名が付いてきている。


「じゃあ、教室がふたりを待っているわ!」


 わしっ!


「あっ、ちょっと待ってくださいよっ! しばむらって遠いですよ! 自転車いりますよ! お~い、お兄ちゃん、お兄ちゃ~ん……」


 礼名を置き去りにして、僕は倉成さんに引っ張られ三階の教室へ向かったのだった。


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