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お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第四章 ふたりのお店は絶対負けません(そのに)
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第4章 第3話

 キンコンカンコ~ン


「放課後になると眠気が覚めるな」


 元気に僕の肩を叩く岩本。


「お前の性格が羨ましいよ」


 笑いながら僕も席を立った。

 今日はコン研で梅原先輩との打ち合わせ。

 取り巻き達に囲まれて生徒会室へと向かう倉成さんに続くように、僕も教室を出る。


 と。


「神代くんっ!」


 明るい声の先に、赤毛のツインテールがよく似合う長身の美少女が微笑んでいた。


「あっ、桜ノ宮さん」

「コン研に行くのよね、一緒に行きましょう!」


 そう言うが早いか、僕の腕を引っ張り歩き出す彼女。柔らかな胸の感触が僕の腕に伝わってくる。


「あ、そんなに引っ張らないでよ」

「だって神代くん、ちゃんと捕まえてなきゃ逃げちゃうような気がするもん」

「もう部活はやめないよ。大丈夫だよ」

「部活だけじゃなくってっ!」


 桜ノ宮さんに睨まれた。どうして?

 まさか、桜ノ宮さんほどの綺麗でお金持ちのお嬢さまが僕のことを?

 いや、そんなことあるはずない。

 自惚れちゃいけない。

 などと考えながら、ふたりで階段を登っていく。


 四階まで上り終え、ふとその先を見る、と。


「桜ノ宮さん、ちょっと待って!」


 屋上へ続く、人通りがない階段。

 その、陽の光が届かない暗がりに肩で髪を切りそろえた少女の姿。

 礼名だ。礼名が立っている。

 それも上級生らしい女子生徒三人に囲まれて。

 その瞬間、僕の頭に倉成さんの言葉が駆け巡る。

 『妹さん、少し気をつけてあげた方がいいかも知れないわ』


「ふうっ!」


 僕は大きく深呼吸をすると胸を張る。

 そして、なるべく元気で明るい声を上げた。


「お~い、礼名じゃないか。どうしたんだ」


 僕の声に振り返った三人の女生徒達。


「……ちっ」


 一瞬躊躇ちゅうちょしたあと、彼女達は僕から目を逸らすように去っていった。


「どうした、大丈夫か礼名」

「お兄ちゃん!」


 立ち尽くす礼名に駆け寄る。

 彼女はその大きな瞳を見開いたまま、歯を食いしばっていた。


「お兄ちゃん、わたし、悔しいっ!」

「どうした礼名。もしかして、いじめられたのか? 怪我とかしてないか?」

「ううん、そんなんじゃない。殴られたら殴り返してやる。でも……」

「でも?」


 礼名の瞳がこぼれそうなほどに潤んでいく。それでも彼女は歯を食いしばる。


「お兄ちゃんごめんなさい。やっぱり何でもない……」

「ねえ、礼名ちゃん」


 そこへ声を掛けて入ってきたのは桜ノ宮さんだった。


「よかったら、あたしとお話ししましょうか」


          * * *


 コン研での人工知能論議は白熱化した。


「で、結局のところ人工知能同士の夫婦めおと漫談のシチュエーションは『枯れ果てた熟年漫談』でいいいのか?」

「いやいや先輩、夫婦漫談って言ってもやっぱり僕らは高校生ですから、もっと若いカップル、そう『恋人漫談』の方がいいと思いますけど」


 梅原先輩と僕の会話に菊池が割り込んでくる。


「いや、どうせなら『新婚漫談』の方が面白くね? 定番だけどさ、「あなた、お風呂にします? お食事にします? それとも、わ・た・し?」ってパターン、憧れるじゃん」

「そんなのリアルにはないよ、都市伝説だよ。実際は朝帰りして、「あなた、ウエスタンラリアットにします? バックドロップにします? それとも、ほ・う・ちょう? ギラリッ」ってなるのがオチだろ?」


 ぱんっ!


 手を叩いて梅原先輩が大きく肯く。


「それだ! それで行こう! テーマは『朝帰り漫談 新郎VS新婦』!」

「それって新婚の熱さが、別の熱気に変わってますよね!」

「飛び交う食器、荒れ狂う新居! うん、インスピレーションが爆発だ!」

「いや、脱線しすぎると、大臣賞が遠のくと思いますよ、梅原先輩」

「なあ神代、僕たちコン研は大臣に媚びを売るために研究してるのか? 違うよな! ギャグのためなら自分の恥でも、下半身でもさらけ出す! それがコン研の心意気じゃないか!」

「その内、粗末なモノ陳列罪で捕まりますよ」

「あ………………」


 図星だったのだろうか、急に無口になった梅原先輩。

 気まずい空気から逃れるために、僕は時間を確認する。

 時計の針はもうすぐ五時半を指すところだ。


「あのう、僕もう行かないと……」

「あ、ああ、そうだったな、今日はこれから桜ノ宮さんの家に行くって言ってたな」


 気を取り直した様子の梅原先輩。


「はい、なので今日は失礼します」


 あの後、桜ノ宮さんは部室に来て僕を手招きした。


「ねえ、今からあたしの家に礼名ちゃんを連れて行くから。部活終わったら神代くんもいらっしゃい」


 彼女の後ろで申し訳なさそうにコクリと頷く礼名を見て、僕は桜ノ宮さんに頭を下げた。

 どうして桜ノ宮さんは礼名を連れて帰ったのか、理由も聞けなかったけど。

 ノートを鞄に仕舞う僕に梅原部長が声を掛ける。


「じゃあ、人工知能漫談のテーマは『新郎VS新婦、犬も喰わないトークショー』を基本に進める、でいいな!」

「さすが梅原先輩、いい感じにまとめましたね」

「神代が新婦役、な」

「はい分かりましたよ!」


 僕は軽く手を上げると桜ノ宮さんの家へと急いだ。


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