表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜く99の方法  作者: 日々一陽
第三十二章~終章 お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜くたったひとつの理由
186/193

第32章 第1話

 第三十二章 お兄ちゃんとの貧乏生活を守り抜くたったひとつの理由



 よく晴れた水曜日の昼下がり。 扉には本日定休日の札が下がっている。

 そんな店の中で、麻美華、綾音ちゃん、そして礼名のためにコーヒーを淹れ

る。


「お兄ちゃんも座ってね! それで、ですね……」


 先週の土日はウィッグに完敗した。

 売り上げは食べて行くのが難しいレベルにまで落ち込んだ。

 その上、ウィッグの営業内容に対する変更要望案も商店会に拒絶された。

 追い詰められた状況。

 だけど礼名の表情は晴れやかだった。


「そういう訳でおふたりの力を貸して欲しいんです。お願いします!」


 ふたりは驚いている。

 それはそうだろう。

 僕が礼名の作戦を聞いたときもそうだった。

 一昨日の夜、礼名が話してくれた打倒ウィッグの打開策。それはあまりに自由奔放で想像の遙か斜め上をいくものだった。本当に上手くいくか、勝利は確信できなかった。ただ、彼女の作戦は麻美華と綾音ちゃんの力を必要としていた。そこが嬉しかった。彼女が僕とふたりきりに固執しなくなった理由、それはきっとふたりの絆を確信したからだろう。


 僕は礼名の横に座ると麻美華と綾音ちゃんにコーヒーを勧めて。


「礼名のアイディアはちょっとぶっ飛んでるけど、ふたりの力が必要なんだ。ムシのいい話だけど頼れるのはふたりだけなんだ。上手くいくかは正直わからない。だけどお願いだ、力を貸して欲しい!」

「ふふっ、面白そうじゃない礼っち。やってあげるわよ」

「勿論あたしもやるわよ! ああ腕が鳴るわね!」


 僕らの無謀とも思えるアイディアに乗ってきてくれたふたり。僕と礼名は視線を交わすと揃って頭を下げた。


「それはそうと礼名ちゃん、急にあたしたちに協力を求めるってどう言う心境の変化なの?」


 少し意地悪い顔をした綾音ちゃんの言葉。


「はい、それはですねっ。礼名も大人になったと申しましょうか、心が健やかになったと申しましょうか……」


 待ってましたとばかりに語り始めた礼名。

 全くイヤな予感しかしない。


「そうなんですっ! ついにお兄ちゃんとわたしは愛を確かめ合ったのですっ! こ・ん・や・く・ですっ!! ご覧下さい、お兄ちゃんがわたしに向けるこの白く冷めた眼差しを! あっ、でも、婚約と言っても結納ゆいのうとかの儀礼的な事はしてませんし、婚約指輪もまだですけど、でも心は婚約です! ふたりの心はひとつになったんですっ!」


「待ちなさい礼っち! 何を言っているのかしら? あなたたちは兄妹で……」

「そうよ! それにまだ高校生なのにいきなり婚約なんて……」

「心配はご無用ですっ! お兄ちゃんとわたしは兄妹ですけど結婚出来るんですよっ! イッツマジック! イッツトリックスター! ああ、お兄ちゃんなのにマイダーリン!」

「ちょっと礼っち! 全部独り占めとかズルイにも程があるわよ! 妹役は私が代わってあげるわよっ! ねえお兄さま、お砂糖はおいくつ?」


 おい、何を言い出すんだ麻美華!

 しかし礼名も負けじと僕の腕を取って。


「お兄ちゃんはコーヒーにお砂糖を入れません! 麻美華先輩のご協力には感謝しますけど、それとこれとは話が別ですからねっ!」

「ねえ麻美華! このあとそこのム~ンバックスで一緒にお茶しない?」


 ヤバイ。

 綾音ちゃんは麻美華と僕の仲を疑ってたんだ。


「いいわよ。共同戦線を張るってのもアリね」


 やがて。

 麻美華と綾音ちゃんはバッグを持つと立ち上がった。


「じゃあ今日は帰るわね。次の土日はちゃんと来てあげるけど……」


 麻美華は礼名に目を向け。


「不純異性交遊は生徒会長のこの私が絶対認めませんからね! 悠くんも分かってるわよね!!」


 そう言い残すと、ふたりは帰って行った。


「おい礼名! あのふたりに婚約したとか結婚出来るとか、無駄な想像力をかき立てる事を言うなよ!」


 僕の抗議に、しかし礼名は全く悪びれる様子もなく。


「だっていつかは分かっちゃうんだよ! だったらいいじゃない! それに麻美華先輩は知ってるんでしょ? わたしたちが結婚出来ること」


 そう言いながら窓からムーンバックスを眺める。


「あのふたり、ホントにムーンバに入っていったね。何の話をしてるのかな?」

「ああ、多分……」


 隠しても仕方がない。

 麻美華と僕は、実は兄妹ではないか? と綾音ちゃんが疑っていたことを話した。


「そうなんだ。綾音先輩、勘が鋭いからね。礼名は全く気付かなかったよ。倉成壮一郎さんとお兄ちゃんって似てるとは思ってたけど」


 そう呟いた礼名は、アコーディオンを肩から提げると練習を始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご意見、つっこみ、ヒロインへのラブレターなどなど、何でもお気軽に!
【小説家になろう勝手にランキング】←投票ボタン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ